197話 エレン、ホームシックになる
新章というか、日常編の始まりです。
「水無月さん、起きて」
「……うーん?」
眠っている最中、誰かから声をかけられ目を覚ます。
机に突っ伏した状態から起き上がり、寝ぼけ眼の目を擦りながら辺りを見回すと、そこは……。
「あれ……ここって?」
前方には大きな黒板。
左には、校庭とその向こうに住み慣れた街並みが見える窓。
均等に並べられた茶色の机と椅子。
見慣れた制服を着たクラスメート達。
間違いない……私が通う高校の教室だ。
「水無月さん、一体どうしたの?」
声がした方を振り向くと、キリッとしたメガネをかけ、サラサラとした艶のあるロングの黒髪を自然に靡かせる、綺麗な女性が立っていた。
「……委員長」
彼女は私の友人であるクラスの委員長だ。
才色兼備で非の打ち所がない性格から、学校一の人気者である。
「えっと、水無月さんって私のこと?」
「水無月依蓮、あなたの名前でしょう? 寝ぼけているの?」
そうだ、苗字で呼ばれたから分からなかった。
……あれ、いつも水無月さんって周りから呼ばれてたのに、なんで忘れていたんだろう?
「ごめんなさい、委員長」
「全く……そろそろ授業が始まるわよ」
委員長はそう言って、少し呆れた顔で自分の席に戻る。
やれやれ、シャキッとしないと。
委員長の言う通り、もうすぐ一時限が始まる。
「席に座れ、授業を始めるぞ」
担任の先生が教室に入ってくる。
みんなが席に座り、授業の開始だ。
教科書を開いて……あれ?
(一時限……何だったかしら?)
授業の内容を忘れるなんて、まだ寝ぼけているのだろうか?
そう思っていると……。
「じゃあ異世界学の授業を始めるぞ」
「え?」
今なんて言った?
一瞬頭が真っ白になる。
「えっと……どこまで進めたっけな?」
「先生忘れたんですか? 冒険者ギルドに所属する時の注意点からですよ」
「ああ、そうだったな。あははは」
委員長の指摘を受け、先生や同級生に笑いが広がる。
ってなんでみんな笑ってるの!?
「じゃあ水無月、ここの十九ページから読んでくれ」
いやいやいや!?
「何ですかこの授業は!?」
思わず席から立ち上がり、そう叫ぶ。
その瞬間……。
「……あれ?」
気がつくと、そこはルベライトにある家の自室だった。
ベッドからガバッと起きながら目を覚ましたらしい。
「なんだ……夢か」
故郷まで異世界に侵食された気分になった。
悪夢だ……。
「でも、懐かしかったわね……」
アルテナに召喚され、異世界に来てから数カ月。
家族や友人はどうしているだろう?
特に委員長は気になる。
アルテナは最初、委員長を召喚しようとしていた。
それを咄嗟に突き飛ばし、私が代わりに召喚されたのだ。
「……私の分まで平和な日常を送れてるといいんだけど」
異世界での生活にも慣れてきたが、帰りたいという気持ちは変わらない。
でも、アルテナが約束した十年にはまだほど遠いし、仮に何かしら帰る方法を見つけたとしても、上級変態女神のアステナがそれを許さない。
ああ、いっそ神を倒す方法でも見つけたい。
「はぁ……早いけど、起きようかしら」
外はまだ朝日が登り始めたばかりで若干薄暗い。
けれど、眠気が無くなった私はベッドから起き上がり、寝巻きから着替えるためクローゼットを開ける。
「……今日は制服でも着ようかしら」
最近は緑を基調とした冒険者用の服ばかり着ていたし、たまにはいだろう。
久々に高校の制服に袖を通す。
「ずっとズボンを履いてたから、スカートがちょっとすーすーするわね……ん?」
ブレザーの内ポケットに少し重みを感じる。
何か入れてたっけ?
そう思ってポケットに手を伸ばすと……。
「あ……スマホ」
入ってたのは私のスマホだった。
電源は……入らない。
まあ数カ月も触ってなかったし、充電が切れて当たり前か。
「一つ試してみようかしら」
電子機器に関しては素人だが、今の私は魔法が使える。
よくアニメで見る、雷魔法で充電するという方法も出来るはずだ。
失敗したら失敗したでしょうがない。
「よし、『充電』」
適当に思いついた名前を言って魔法を発動。
手に持ったスマホへ壊さないよう、少しずつ電気を送り込む。
「これでどうかしら?」
緊張しながら電源ボタンを押す。
するとスマホの起動画面が開いた。
「やった、成功だわ」
さらに少しずつ電気を送り込み、数分かけてフル充電する。
普通の充電器よりはるかに効率がいい。
やっぱり魔法は便利だ。
「……やっぱり電波は通ってないわね」
スマホには圏外の文字が出ている。
まあ当たり前か。
それでも昔とった写真を眺めたり、スマホに入れた音楽を聴くことはできる。
これでいつでも思い出に浸ることができる。
……さすがに人前で使う事は出来ないけど。
「ふう、安心したらお腹がすいたわね……」
少し早いけど何か作ろう。
スマホを内ポケットにしまい、リビングへ向かう。
すると、テーブルにアルテナが座っていた。
「アルテナ、おはよう。もう起きてたの?」
「おはよう、なんか目が覚めちゃってね。あんたこそ早いじゃない」
「私もちょっと目が覚めちゃってね。朝ごはん作るけど、あなたも食べるわよね?」
「ええ、頼むわ」
そんな他愛のないやり取りをしながらキッチンへ向かう。
「ところで、一人で何やってたの?」
「ああ。ちょっと動画を見てたのよ」
そう言うアルテナの手には、スマホが握られていた。
次回、当然ながら嵐が巻き起こります。
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