196話 血と汗の上級変態スープ
食事中の方は食べ終わってからお読みください。
食欲が無くなっても私は一切の責任を負いません
「うーん……あれ?」
まどろみの中ゆっくりと目を開ける。
気付くと、私は見覚えのある真っ白な空間に倒れていた。
「ここってまさか……」
「はーい、いらっしゃいエレンちゃん♪」
「ああ、やっぱり……」
立ち上がると、私のそばでアルテナの姉であるアステナが、デカい寸胴鍋で何かを煮込んでいた。
いや、何やってるんだか。
「そこに座って待ってて頂戴♪ もう少しで完成するから♪」
「なら出来てから呼びなさいよ。何作ってるのか知らないけど」
もう呼び出されることに慣れた私は、言われた通り用意された白い丸テーブルと椅子に座り数分待つ。
すると、アステナがスープ皿を持ってテーブルにやってきた。
「はい、どうぞ♪ 私特製のスープよ」
そう言って出されたのはニンジンや玉ねぎ、ロールキャベツなどが煮込まれた真っ赤なスープだった。
トマトの野菜スープだろうか?
「いや、色々ツッコミどころがあるんだけど。なんでスープを?」
「今回も頑張ってたエレンちゃんへ私なりの労いよ♪ 飲んでみて♪」
「……変なもの入ってないでしょうね?」
「失礼ね、変なものなんて入ってないわよ。いいから飲んで感想を聞かせて♪」
「……はぁ」
そっとため息をつきながらスプーンを手に持ち、スープを掬う。
コンソメや胡椒の香り……それと同時に何か変なにおいがする。
味は……旨味があるけどなんかしょっぱい。
「塩入れすぎじゃないかしら?」
「そうかしら? 私は好きだけどね♪」
アステナはほっぺに手を添え、笑顔でスープを飲む。
濃い味が好きなのだろうか?
まあそれは置いといて。
「ちょうどいいわ、あなたに聞きたいことがあるんだけど」
「あら、それってマリンちゃんのスキルが変化したことについてかしら?」
のほほんとしているくせに、私の考えを的確に当ててくる。
やっぱり、アルテナと違って底が知れない。
「うーん答えてもいいんだけど……。そもそもエレンちゃんはスキルって何なのかわかるかしら?」
「…………」
顎に手を当てて自分の考えを纏める。
スキルとは何か?
一般的には神が人に与える能力と言われている。
私のスキル「器用貧乏・改」を軸に考えると……。
「……その人が持つ才能、または素質……かしらね」
これが私の答えだ。
スキルがないからって出来ないことなど基本ない。
私は器用になれるだけのスキルで様々な魔法を使えているし、アルテナだってかなり前に水魔法の発動自体は成功している(27話参照)。
とすれば、こう考えるのが妥当だろう。
「ファイナルアンサー?」
「そういうのいいから」
「ノリが悪いわね~。でもさすがエレンちゃん、大体正解よ♪」
「少し違うってこと?」
「そう。正確に言うと、スキルとは”魔力を操る才能の方向性”を示しているの」
「どういうこと?」
言ってる意味がよくわからない。
首をかしげていると、アステナがニヤニヤと笑いながら口を開く。
「魔力を使えばいろんなことが出来るわ。形を与えて魔法として行使したり、体の一部を強化したりね。
でもね、この世界の人々はそこまで魔力を自由自在には扱えないの」
「そうなの?」
「ええ、スキルはその出来ることを示しているにすぎないのよ」
なるほど。
スキルは魔力の使い方の適性を示しているだけってことか。
「ん? でも私とアルテナはそれに当てはまらない気が……」
「それはそうよ。二人のスキルは本当に神が授けた能力だもの」
「……あっそう」
まあこの世界の住人じゃないし、違っても当たり前か。
……ご都合主義に聞こえるけど。
「でも、やろうと思えば私みたいに魔力を操って様々なことが出来るんじゃないの?」
「エレンちゃんは簡単にいうけど、素質がない方向で魔力を操るのは、本当はとっても難しいことの。だからこそ、スキルは絶対だって思われちゃってるのよね」
「じゃあ、マリンのスキルが変化したのは?」
「毒を生み出す素質しかなかったのに、操れるようになっちゃったからよ。だからそれに合わせてスキルが変化したの」
「……そんな簡単に変わるものなの?」
「簡単っていうけど、普通はあり得ないことなのよ?」
「でも、マリンは変化したわ。それもたった一週間で」
「それは率直に言って、エレンちゃんの教え方が上手過ぎたのよ」
「え?」
教え方が上手過ぎた?
え、どのあたりが?
「だって魔力を見えるようにしたり、代わりに操ったりしたでしょう?」
「……それがどうかしたの?」
「普通はできないのよ、そんなこと?」
「え?」
「エレンちゃんは魔力視覚で魔力を見れるけど、普通は見れないのよ。だからみんな感覚を頼りに魔力を操るしかないの」
「た、確かに……」
「それを見えるようにしたり、実際エレンちゃんに魔力を操作してコツもつかめちゃった。そんな手取り足取り教えられたら、そりゃ成長も早いわよ」
「う……」
実際感覚を掴みやすいようにと思って行った指導方法だったけど、まさかそこまで効果が高かったなんて……。
「あのまま訓練を続けてたら、そのうちマリンちゃんもほかの属性を操ったりと色んなことが出来るようになったでしょうね。いやー世界ビックリドッキリが巻き起こっちゃうわね♪」
「そんな軽く言わないでよ……!」
一歩間違ったら相当不味いことになってた……!
私のスキルが自分どころか、他人まで常識はずれに出来るなんて……!
「アステナ……何でこんなスキルを私に押し付けたのよ?」
「それは前にも話したじゃない。スキルが絶対だっていうこの世界の常識に囚われてほしくなかったって」
「本心は?」
「世界の本質にかかわる出来事に巻き込まれるアルテナちゃんを見たいなーって♪」
「死ね!」
飲み終わって空になったスープ皿を投げつけるも、アステナはそれを軽く避ける。
「もー、エレンちゃんったら短気♪ 軽い冗談よ♪」
「冗談じゃないわよ!」
ああ……やっぱりこいつと話してると疲れる……。
「聞きたいことは終わりかしら?」
「……一つだけ。スキルが変化するなら『器用貧乏・改』のデメリット、地力が上がらないって内容も変えられる?」
「変えられませーん♪」
「……まあ、そんなことだろうとは思ったわ」
とりあえず聞きたいことは聞けた。
この情報は……アルテナたちにも聞かれない限りは言わないほうがいいだろう。
「もう用は済んだから帰してくれない?」
「その前に、スープの感想を聞かせてもらえるかしら?」
「さっきも言ったでしょう。しょっぱかったって」
「でも美味しかったでしょう? ”アルテナちゃんの出汁が効いてて”」
「そんなに美味しくは……ちょっと待ちなさい、今なんて言った?」
「この前エレンちゃん、アルテナちゃんをお仕置きでぐつぐつ煮込んだでしょう?」
「そうだけど……まさか……」
「そう、それで作った特製野菜スープなの♪」
「ぶっ!?!?」
反射的に吹き出す。
いや、確かに鍋が消えてたけど!
こいつが盗んでたのか!
「いやーさすがエレンちゃん♪ こんないいものを用意してくれるなんて♪」
「用意してないわ! ていうかなんてものを飲ませるのよ!」
「私なりに会心の出来なのよ? 作ってるとき興奮しちゃって、隠し味がいっぱい入っちゃったけど♪」
「……ちょっと待って。スープが赤かったのって、トマトを煮込んだからじゃなくて……?」
「私の……は・な・ぢ♪」
「オエェェェェ!!!!!!!」
しょっぱかったのは血のせいか!
急激に吐き気が襲い、這いつくばってのたうち回る。
「あ、私の血を飲んだからって何かが変わったりしないから安心してね♪」
「そういう問題じゃないわ!!」
「じゃあそういう事で、また会いましょうエレンちゃん♪」
「ふざけるな! ちょっと待ちなさ……!」
せめて一発殴らせなさい!!
その思いも虚しく視界が暗くなり、そして……。
「はっ!?」
勢いよく起き上がりながら、自室のベッドの上で目覚める。
「あいつ……! いずれ覚えてなさいよ……!」
汗だくだくの状態で、三下みたいなセリフを吐きながら起き上がり窓を見ると、日が暮れようとしている時間帯だった。
「そうだ、確かギルドから帰った後、疲れて仮眠をとっていたんだったわ」
夕飯の時間だ。
正直食欲はないが、アルテナとマルタのために作らないと。
自室のドアを開けると、何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「あーもう! やってらんねーですよ!! なんで私が降格されなきゃなんねーんですかー!!」
「マルタお姉ちゃん、大丈夫?」
「やれやれ、飲み過ぎよクソうさぎ」
リビングに行くと、マルタが酒を煽っていた。
どうやら降格したショックでヤケ酒しているらしい。
「おはようみんな」
「あ、エレン様おはよう」
「やっと起きてきたわね。ちょっとこいつどうにかしてよ」
「そう言われても……」
酔っぱらいの相手なんて私にもわからない。
「あ、エレンさん起きてきやがりましたね! 早くメシ作ってくださいですよ! こんなスープだけじゃ足りねぇです!」
「はいはい、ちょっと待ってなさ……え? スープ?」
よく見ると、テーブルの上には赤いスープが二つあり、アルテナとマルタはそれを飲んでいた。
「これあんたが作ったんじゃないの? にしてもしょっぱいスープね」
「酒には合いますけどね! けどもっとお腹にたまるもの寄越しやがれ下さいですよ!」
「…………」
私は無言で自室に戻り、ドアを閉めてベッドに潜った。
(私は何も見なかった。私は何も見なかった)
すべての思考を放棄し、私は再び夢の中へと逃げた。
特にオチもないですが、今回で十一章(元四章)終了です。
活動報告にも書きましたが、三章のダンジョン編が長すぎたので細かく章わけしました(内容は変わってません)
次回は次の構成をまとめた上で来週から投稿しようと思ってます。
ここまで読んでくださった方ありがとうございます。




