195話 昇格と降格
マリンがスキルを制御できるようになり、ダイアン様に認められた私たち。
その後、帰宅した私たちは……。
「頭がくらくらするわ……」
「気持ち悪い……おえぇぇ」
「ポンコツさん、汚いですよおえぇぇ……」
「みんな……大丈夫?」
ミラを除く全員、家で二日酔いの如く倒れていた。
原因は当然、帰り際ご馳走された、マリン特製毒入りホールケーキのせいである。
解毒ポーションで毒は消したものの、体のダメージは深刻だった。
「スキル制御できるようになったのに、なんでまだ毒ケーキが完成すんのよ……」
「仕方ないじゃない……そもそもマリンは毒を入れてることすら知らないんだから……」
スキルを制御できても、無意識にやってることは何も変わらなかったらしい……。
結局……これからも解毒ポーションは手放せないようだ……。
「エレンさん……解毒魔法とか使えないんですか……?」
「そうね……今度出来るか試してみましょう。アルテナ、実験台になってね……」
「なんであたしなのよおえぇぇ……」
その日はずっと、おろおろしたミラに看病されながら過ごしたのだった。
……その翌日。
なんとか体調が回復した私たちは、マルタのギルドカード受け取りと、パーティ登録のためギルドへ来ていた。
「いやー、やっと受け取りに来られましたよ」
「色々忙しかったからね……」
まあひと段落着いたし、これからはゆっくり過ごせるだろう。
「クックック、これでようやくあんたは正式に冒険者パーティ『カタストロフ』のメンバーになるのね。あたしたちと共に来る覚悟はいいかしら? 引き返すなら今のうちよ」
「いいんですか? じゃあ引き返しますねー」
「こらこらこらー! ほんとに引き返すんじゃないわよ!」
「だって『カタストロフ』って名前ダサいですし……私も同類にみられるのはちょっとー」
「かっこいいじゃないの! ていうかパーティ名はあんたが勝手につけたんでしょうが!」
「こうなると分かってたなら別のにしたんですけどねー。昔の私を斬りたい気分ですよ」
「もういい? 早くいくわよ」
いつものやり取りを軽くスルーし、ギルドの入口へと向かう。
「この前……みんな怖い顔してたよね……。大丈夫かな?」
前回来た時のことを思い出し、ミラが不安がる。
「そうね、でも今回はきっと大丈夫よ」
魔物の暴走の不安は一週間前に解消されている。
もういつもの騒がしいギルドに戻っているはずだ。
「まあ安心してくださいミラちゃん。また変なのが絡んできたら、ポンコツさんが叩きのめしてくれますから!」
「あんたも働きなさいよ!」
「コントはもういいから、入るわよ」
みんなでギルドに入ると、冒険者たちの騒がしい声が聞こえてくる。
よかった、いつも通りのギルドに戻っている。
そう思っていると……。
「おい、あいつらって……!?」
「間違いねぇ! カタストロフだ! カタストロフが来たぞー!!」
私たちに気づいた冒険者たちが急に歓声を上げ始める。
「おらー! 胴上げだー!」
「え? 一体何が……うわ!?」
「わわわ!?」
「一体なに!?」
「おっと!?」
そのまま私たちは持ち上げられ、わっしょいわっしょいと胴上げをされる。
いや、本当に一体何なの!?
「魔物の暴走を止めた英雄だ! もっと持ち上げろ!」
「街を救ってくれてありがとなー!」
「命拾いしたぜー!」
そうか、私たちが止めたことも知れ渡っていたのか。
それでこんな英雄扱いに……。
「エレン様! これ楽しいね!」
「これいいですねー! ほら、もっと高く上げてください!」
「はっはっは! もっとあたしを敬いなさい!」
「お、パンツは黒か!」
「ギャー!? 見んじゃないわよー!」
恥ずかしいから下ろしてほしい……と思っている私とは裏腹に、みんなは胴上げを楽しんでいるらしい。
アルテナはスカートのせいで若干被害を受けてるようだけど。
「おいおい、そこらへんにして下ろしてやれ!」
そう叫びながらギルドマスターのガルシアさんがやってくると、ようやく私たちは下ろされる。
「助かったわ……ガルシアさん」
「すごく楽しかった!」
「やれやれ、もうちょっと続いてもよかったんですけどねー」
「パンツ見た奴出てこーい!」
「やれやれ、相変わらず騒がしい連中だな……」
そう言いながらもガルシアさんは暖かい笑顔で迎えてくれる。
本当にいい人だ。
「噂によるとクリス家に出入りしてたようだが、何をしてたんだ?」
「実は……」
クリス家での出来事を話せる範囲で説明し、証拠としてギルドカードを見せる。
「ほう、クリス家の後ろ盾を得たのか。あのダイアン様に認められるとは……なかなかうまいことやったようだな」
「クックック、あたしにかかれば当然の結果よ」
「ポンコツさんは訓練場を燃やしただけじゃないですか」
「それを言うんじゃないわよ!」
「……よく許してもらえたな?」
「エレンさんが誠意を見せてポンコツさんを煮込みましたからねー」
「……何の比喩だ?」
「比喩じゃないですねー」
「詳しくは聞かないでおく」
呆れた目でガルシアさんが私を見る。
いや、アルテナと敵以外にはやらないから、そんな目で見ないで。
「……まあそれはそうと、早速色々手続きを済ませよう。受付に来てくれ、俺が対応してやる」
「え?」
ギルドマスター直々に?
とりあえず言われた通り受付に向かうと、ガルシアさんが向かい側に座る。
「まずは、エレン、アルテナ。お前たちのギルドカードを出してくれ」
「いや、今日はマルタのカード再発行とパーティ登録をしに……」
「それはわかっている。だが、ほかにもしなければならないことがあるんでな」
アルテナと顔を見合わせながらカードを渡すと、ガルシアさんは魔道具の機械にカードをスキャンしていく。
すると、洞窟のような絵がカードに浮かび上がった。
「これは……?」
「冒険者はランク以外にも、偉業を達成すると称号が付与される。これはその一つ、『ダンジョン攻略者』の称号だ」
なるほど、称号なんてそういうシステムもあるのか。
なんともアルテナが好きそうな……。
「つまりあたしたちは称号持ちの凄腕冒険者になったってことね! クックック。この調子で世界に私たちの名声を轟かせてやるわ!」
「悪名の間違いじゃないの?」
アルテナのせいでそんな噂ばかり広まっているし……。
「まだあるぞ。ダンジョン攻略と魔物の暴走を止めた実績を踏まえ、お前たちの冒険者ランクを上げることにした」
「お、待ってたわ!」
「え、ランクも上がるの?」
「ここまで実績を上げておいて、上がらないわけがないだろう?」
まあ、それはそうか……。
「わーい! ランクアップだー!」
「おめでとうございます! エレンさん、ポンコツさん!」
ミラとマルタが笑顔で喜ぶ。
「クックック。クソうさぎ、これでとうとう、あんたにランクでマウントを取られることもなくなるわね」
「おやおや、それはどうですかねー?」
「ふ、余裕ぶってられるのも今のうちよ。これだけの事をしたんだもの。Bどころか、Aに昇格する可能性だって……」
「という訳で、お前たちは今日から”Dランク冒険者”だ。よくやったな」
「ええ、ありがとうガルシアさん」
「わーい! Dランクだー!」
「はぁ?」
アルテナがアホっぽく、口をあんぐり開けて呆然とする。
「なんだ、どうかしたのか?」
「いやいや! おかしいでしょう! なんでDなのよ!?」
「なに言ってるんだ? お前たちはもともとEだっただろう?」
「だからってなんで一個しか上がんないのよ!?」
「冒険者ランクに飛び級なんてシステムはないからな」
「アルテナ……以前マルタにも説明されたじゃない」
「え……そうだっけ?」
「プッ……あははははは!!」
ポカンとするアルテナを見て、マルタが床を叩きながら笑い始める。
「いやーかっこ悪いですねー! さすがポンコツさん! Dランクに昇格した気分はどうですか!? 天にも昇るくらい嬉しいですか!? まあ私のランクに比べれば、地べたとあまり変わらないですけどね!」
「うっさいわね! ていうかあんたBでしょう!? 二つしか変わんないじゃないの!」
「ランクはそう簡単に上がらないんですよー。 二つも違えばスライムとオーガくらい差はありますねー。今度からポンスラさんとお呼びしましょうか?」
「なんですってー!?」
「はぁ……ここぞとばかりに煽ってないで、マルタもカードを受け取ったら?」
「そういえばそうですね! という訳でギルマスさん! カード下さい!」
「ああ、出来てるぞ」
ガルシアさんは呆れながら、マルタに再発行したギルドカードを渡す。
「いやーこれでBランク冒険者『氷嘲のマルタ』完全復活ですね!」
「何言ってるんだ?」
「え?」
「お前も今日からDランクだぞ」
「はいーーー!?」
マルタが受け取ったカードを見ると、確かにDランクと記載されていた。
「ちょ、どういうことですか!? 私はBだったはずですよ!」
「お前な……ギルドに再登録するときは、二段階降格することを忘れてたのか?」
「……ぎゃー!!! そういやそうでしたー!!!」
マルタが床をのたうち回る。
そんなルールがあったのか……。
わりと冒険者業界厳しい……。
「ぷぷ、ざまぁないわね! もうマウントとれないわね。天から地に落ちた気分はどうよ?」
「いいじゃないの、これでみんな同じランクになれたわけだし」
「マルタお姉ちゃんも一緒!」
「ぐぬぬ……納得できませーん!!!」
「あーっはっはっはっは!!!」
……こうしてマルタの悲痛な叫びと、勝ち誇った(勝ってないけど)アルテナの笑い声がギルドに響く中、私達冒険者パーティ『カタストロフ』は正式に四人のDランクパーティとなった。
ケーキ件は前回で終わらせるべきだったかな?
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