193話 光り輝く訓練結果
「エレン先生、今日もよろしくお願いしますわ!」
「ええ、今日も訓練やっていくわよ」
アルテナを鍋でコトコト煮込んだ次の日、訓練のため再び私とマリン、ミラ、シトリン様の四人で中庭に集まっていた。
……正直昨日の訓練場爆破事件は許してもらえるかかなり焦ったものだけど、アルテナを煮込んでいる隣で土下座して謝ったら、騎士団もダイアン様も引きつった顔で許してくれた。
きっと私の誠意が伝わったのだろう。
こうして昨日の事件は幕を閉じた(後で何故か鍋が消えたけど)。
「先生、今日はどんな訓練をなさるのですか?」
「昨日少し魔力を操作出来たでしょう? それの続きよ。最終的に自分の力だけで魔力を操作できるようになってもらうわ」
「はい! 私、頑張りますわ!」
やる気十分のマリンの手をつなぎ、早速魔力視覚を共有。
私が随時サポートしながら、マリンは魔力の操作を始める。
そして数十分後。
「魔力を手から足に……次は頭に……」
マリンは集中しながら徐々に魔力操作を覚えていく。
「ふわぁ……」
「おやおや、おねむですかミラちゃん?」
見た目上では変化が無く地味なため、見学しているミラとシトリン様はベンチの上で暇そうにしている。
メイド業はいいのだろうか?
まあ、娘が心配なのだろう。
こうして朝から昼まで魔力操作を続け、今日の訓練を終える。
そして午後は……。
「では、今日もあなたにメイドの仕事を教えますね」
「あ……はい」
昨日渡されたメイド服を着させられ、シトリン様にメイド業を教えられる。
メイドになる気はないのに……いや、でも確かに自分のスキルに合ってるし、安定した収入も得られるし、ミラもクリス家に保護された安全な暮らしができるし悪い話ではない気が……。
(いやいや、ダメだ!)
アルテナと離れたら元の世界に帰れなくなってしまう。
……でも、帰るときクリス家にミラを保護してもらうという考えはいいかもしれない。
頭の隅に置いておこう。
……まあ、そんな日々が続き訓練五日目。
「見ててください、エレン先生!」
マリンは体に流れる青く光る魔力を、私のサポートなしで自在に操作してみせる。
「よくやったわマリン!」
「先生のおかげですわ!」
マリンと手をつないで喜び合う。
しかし、まだ基礎の基礎ができただけに過ぎない。
ここまでで五日……間に合うだろうか?
いや、焦ってもしょうがない。
そして訓練六日目。
次の段階に入る。
「マリン、次は魔力を体の外へ放出する訓練よ」
「外へ放出……ですか?」
魔法を使うには、これを意識して出来なければならない。
マリンの手を握り、彼女の魔力を操作して、手のひらから放出してみせる。
「どう?」
「やってみますわ」
魔力視覚を共有してるおかげもあるのだろう。
マリンは身に着けた魔力操作の技術を生かし、数時間後、自分の力で手から魔力を放出することに成功する。
「エレン先生、出来ましたわ!」
「すごいわマリン!」
まさかこんな早くできるようになるなんて。
不安だったが、これなら間に合うかもしれない。
そして訓練最終日。
「最後は、魔力の属性変化を教えるわ」
「属性変化ですか?」
「ええ。外へ魔力を放出しながら、魔力を闇に変化させて操るのよ」
シトリン様に確認したが、毒を生み出すのは闇魔法の一種らしい。
なら、魔力を意識して闇属性に変換できれば、毒を生み出すスキルを制御できるようになるはずだ。
「どうやって魔力を闇に変えるのでしょう?」
「問題なのはイメージよ。最初は私のサポートありでやってみましょう」
マリンの手を握り、魔法を補助する。
「まずは暗闇をイメージするの。目を閉じたほうがやりやすいかも」
「わかりました」
マリンが目を閉じながら手を前に出し、魔力を集中させていく。
そして魔力を、私が闇属性へと変換しながら放出。
手の平の上に、黒い小さな闇の魔法球を作り出す。
「どう? 今度は一人でやってみて」
「はい」
さあ、今度は私のサポートなしだ。
もしこれが出来るようになれば、目に見える成果として報告できる。
「では、やってみますわ」
マリンが目を閉じながら手を前に出し、魔力を集中させていく。
そして魔力を闇に変換し、闇の魔法球が形作られ……。
「あれ?」
作り出されたのは、闇の魔法球ではなく、小さな紫色の毒々しい球だった。
え、なにあれ?
まさか……いや、あれは間違いなく毒液の塊?
そうか、マリンは毒を作り出す素質があるから、闇の魔法=毒の魔法になってしまったんだ。
いや、これは好都合だ。
これを制御できれば……。
「出来ましたわ! でも、色が違いますわね。これは何でしょう?」
「マリン、よくやったわ、成功よ。 それを撃ち出すイメージをして」
「は、はい。どこに向かって撃てばよろしいでしょう?」
「じゃあ、あそこの地面に向かって撃ってみて」
「わかりましたわ」
少し離れた地面を指定し、マリンはそこに向かって魔法を撃ち出す。
毒の球は曲線を描きながら飛んでいき、地面に落ちると、シャボン玉のように弾けて毒液をまき散らす。
すると、毒液がついた草花をジュゥ……っと蒸発するように溶かしていった。
「す、すごいわ……」
その光景を見て、自分の体がドロドロに溶けていく姿を想像してしまい、寒気が走る。
だが、それよりも……。
「マリン、大成功よ! よくやったわね!」
「はい! 私、魔法が使えるようになりましたわ!」
思わずはしゃぎながら、二人で抱きしめあって喜びを分かち合う。
マリンが遂に自分でスキルを制御し、毒を操れるようになった。
「マリンお姉ちゃん、おめでとう!」
「マリン、よく頑張りましたね」
ミラとシトリン様も賞賛の言葉をマリンに送る。
「ありがとうございます、お母さま、ミラちゃん。ところでエレン先生、一つ聞いてもよろしいですか?」
「どうしたの?」
「私の魔法は一体何なのでしょうか? お花が溶けてしまいましたわ……」
「……えっと、それは」
しまった、制御できるようになった時の言い訳を考えてなかった。
花が溶けてしまい、悲しそうな眼をしているマリンにどう伝えるべきか……。
「マリン、それは私から伝えましょう」
困っていると、シトリン様がそう言って、真剣な表情でマリンを見つめる。
「マリン……今の魔法、そしてあなたのスキルの正体は……」
遂に……マリンに真実を伝えるときが来てしまった。
静かに唾をのんで、二人を見守る。
「お母さま……」
「それは…………薬を生み出すスキルなのです」
「……え?」
どういうこと?
まさかごまかすつもり?
いや、いくら心が天使のマリンでもそれは通用しないんじゃ……。
「お薬……ですか? でもお母さま、お花が溶けてしまいましたわ」
「それは、薬の量が多すぎたのよ。薬も大量に摂取してしまえば毒となることは以前教えましたね?」
「はい、覚えておりますわ」
「ですから、あなたがこれから薬の勉強をして、さらにスキルを制御できるようになれば皆の役に立つ薬を生み出すことが出来るようになるのですよ」
「本当ですかお母さま!?」
……なるほど。
毒と薬は表裏一体。
薬の原料として毒が使われることだって普通にある。
もし特定の種類の毒を、必要なだけ生み出すようなことができれば……。
「私、頑張りますわ! 皆の役に立つお薬を作ってみせますわ! 見ててくださいね、ミラちゃん!」
「うん、頑張ってマリン お姉ちゃん!」
二人がそう話しているうちに、シトリン様と話すため近くに寄る。
「シトリン様、実際マリンがそこまで毒を操れるようになれると思ってますか?」
「いえ、専門家ではありませんから、私にはわかりません。でも、今回の奇跡に比べたら可能性はありませんか?」
「奇跡って……マリンが毒を制御できるようになったこと? そこまでの事じゃ……」
「奇跡ですよ。『毒生成』のスキルは制御できないものとはっきり記載されていましたから。あなたはそれを、たった一週間で覆したのです」
……そうか、この世界にとってスキルは絶対。
もしかして私、またとんでもないことをしてしまった?
そう思っているとシトリン様が私の両手を握り、目を見つめてくる。
「エレンさん、感謝します。これでマリンは後ろ指を指されることなく、貴族社会に出ることができます。本当に……ありがとうございます」
「シトリン様……」
気づけば、シトリン様は目からそっと涙を流していた。
「……助けになれてよかったです」
「ふふ、主人もこれなら認めざるを得ないでしょう。きっとあなたたちの力になってくれますよ」
「はい、ありがとうございます」
「これからもマリンのよき友達として、そしてメイドとしてよろしくお願いしますね」
「あの……さらっとメイドにしようとしないでください」
「あら、バレました?」
やれやれ、この人は油断も隙もない。
でも、本当にうまくいってよかった。
これで問題はすべて解決……。
と思っていたその時。
「マリンお姉ちゃん、もう一回魔法見せて!」
「ええ、いいですわよ。えい!」
マリンがミラにせがまれて、再び毒の球を作り出す。
そして撃ち出そうとした瞬間。
「あんた達ー! 訓練最終日だけどちゃんとやってんのー!?」
「きゃ!?」
アルテナがマリンの後ろからやってきて大声を上げる。
覚えたてだったせいもあるのか、それで毒の球がパンッと割れ、マリンが頭から毒を被ってしまう。
「「マリン!?」」
「び、びっくりしましたわ……」
慌てて二人で駆け寄るが、マリンは自分の毒に耐性があるので、ちょっと服が溶けたくらいで済んだようだ。
ほっと胸を撫で下ろし、シトリン様がマリンの頭にかかった毒液をふき取ったその時。
「「「「あ」」」」
マリンの頭から綺麗な水色の髪が消えていた。
どうやら、体は大丈夫だったが、髪の毛はそうもいかなかったらしい。
「…………」
バタッとシトリン様が白目を向いて倒れる。
「お母さま? 皆さんも、どうなされたのですか?」
「ま、マリンお姉ちゃん……眩しい」
その姿を見て呆然とするミラ、訳が分からずキョトンとしているマリン、そして太陽が反射し光り輝いているマリンの頭……。
「……アールーテーナー!!!!!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! ていうか何が起こっているか私も分からなうぎゃぁ!!??」
ブチ切れた私は、アルテナの顔面にストレートパンチを浴びせた。
大変申し訳ありませんが、ユニークスキルの概要が今まで曖昧だったので「世界の法則に触れる貴重なスキル」と決めました。
その関係でいくつか過去の投稿を修正しています。
物語に深く関わっていない設定とはいえ今更申し訳ありません。




