191話 騎士団相手にひと暴れ
エレンがマリンに魔力操作を教えている頃、暇だったあたしとクソうさぎは、コーラルの案内で騎士団の訓練場に来ていた。
「アルテナ殿、マルタ殿、こちらが騎士団の訓練場になります」
「へー、ここがそうなのね」
屋敷の隣に立っている大きな訓練場は、分厚い灰色の石レンガで作られていて、すごい頑丈そうに見える。
「いやー、汗臭い男たちの暑苦しい訓練現場を見たいだなんて、ポンコツさんもマニアックですねー! まあ安心してください! どんな趣味でも私は笑って拒絶してあげますから!」
「そんな趣味ないわ! てか拒絶すんじゃないわよ!」
「すいません! ポンコツさんと違って胸はありますが懐は深くないので!」
「あんたあたしにケンカ売ってんでしょう!?」
「あの……中では静かにしてくださいね?」
コーラルがため息をつきながら扉を開ける。
疲れてんのかしら? まあいいや。
訓練場に入ると、数十人の鎧を着た騎士たちが訓練をしていた。
素振りしていたり、木人に打ち込んだり、模擬戦をしていたり。
クソうさぎの言う通り、本当に中の空気は暑苦しい。
「いやー、みんな頑張ってますね。ポンコツさんも見習ったらどうですか?」
「あんたに言われたくないわ!」
こいつが汗水流して訓練してるところなんて、想像できないんだけど。
「おおコーラル! お前も訓練に来たか!」
入口に立っていると、茶髪でガタイのいいおっさんが手を振りながら近づいてくる。
「隊長、それもあるのですが、今日は人を連れてきました」
「ほう、誰だ? まさか、噂のダンジョンをクリアした冒険者か?」
「はい、アルテナ殿とマルタ殿です」
コーラルが私たちを紹介すると、おっさんは驚いた様子でこっちを見る。
「おお、本当か!? 俺は騎士団隊長のライルだ。よろしくな」
そう言って、おっさんが握手を求めてきたのでとりあえず応じる。
「ところで、何しに来たんだ?」
「ポンコツさんが汗臭い男たちの……」
「だから違うっての! 単に興味あったから来てみただけよ!」
「はっはっは、なかなかに面白いやつらだな! どうだ、騎士団の訓練に参加してみないか?」
「訓練に?」
「ああ、ダンジョンをクリアしたほどの強者と訓練できれば皆のいい刺激になるだろうからな」
へぇ、面白そうじゃない。
ちょっと騎士団の連中に、格の違いってやつを見せつけてやろうかしら。
「よし、参加してやろうじゃない!」
「そうですか、じゃあ私は隅で見てますね」
「なに言ってんのよ! あんたも参加しなさい!」
「えー、私は訓練するにしても一人で静かにやるほうが……」
「さあ、行くわよ!」
「ちょ!? 耳引っ張んないでください!?」
クソうさぎのクソ耳を引っ張って、あたしたちは訓練に参加した。
コーラルside
クリス家が所有する騎士団の者たちは、当然ながら精鋭ぞろい。
並の冒険者には負けない実力をもち、領主様の護衛はもちろん、街の治安維持にも大きく貢献している。
当然訓練内容もそれだけ厳しい。
まずは鎧をつけた状態での腕立て伏せ、走り込みなどの体力訓練。
慣れてなければ相当きつい訓練のはずなのだが……。
「ふん、ふん、ふん!」
アルテナ殿は鎧と同じ重さの重りをつけた状態で、涼しげにこなしていた。
なんて体力なのだろう……。
「馬車を一人で引くことに比べたら楽勝よ!」
いや、確かにそうかもしれないが。
一方で、マルタ殿は木剣を使った対人訓練に参加している。
「行きます!」
「いつでも来ていいですよ」
対峙した騎士団員はマルタ殿に向かい剣を振る。
太刀筋は悪くない。
しかし、マルタ殿はそれを涼しげに躱していく。
「くそ……!? 何故当たらない……! はぁ、はぁ……」
「ほらほらどうしたんですか? 剣筋がショートケーキ並みに甘いですよ?」
団員のほうがどんどん疲弊していく。それもそのはずだ。
マルタ殿はほとんど動いていない。
無駄なく攻撃を最小限の動きで躱していく。
「ぐ……」
「まだまだですねー。剣っていうのは……こうやって振るんですよ!」
マルタ殿はそう言うと剣を腰に構え、一瞬にして剣を振りぬいた。
あまりに早く、そして綺麗な太刀筋に団員は何もできず、そのまま地面に倒れた。
「う、美しい……」
気付けばそう呟いていた。
なんて洗練された太刀筋だろう。
そして時間は昼を過ぎ、午後は複数人での本格的な模擬戦となった。
本来三人ずつに分かれ、戦う訓練なのだが……。
「クックック。あたしは一人で十分よ」
アルテナ殿はそう言って双剣を抜き、一人で団員三人の前に立つ。
本気だろうか?
いくら強くとも、さすがに不利だ。
「一人だと? 我々も舐められたものだな」
「女だからって加減はしないぞ」
「後悔しても知らないからな」
「御託はいいわよ、とっととかかってきなさい!」
団員たちは槍、剣、弓を持ってアルテナ殿を正面から囲う。
模擬戦開始と同時に、槍の団員が踏み込み、アルテナ殿へ鋭い突きを放つ。
アルテナ殿が横へ躱すと同時に、弓の団員が正確に矢を射る。
それを双剣で弾いたところに、剣の団員が斬りかかる。
そこに間髪入れず、槍の団員が襲い掛かる。
見事な連係プレーだ。
攻めに転じる隙も与えず、アルテナ殿を追い詰めていく。
「ふん、やるじゃない。でも、こうされたらどうかしら!?」
アルテナ殿は不敵に笑うと、なんと槍の鋭い一撃に合わせ小さく跳躍し、さらに槍を足場にしてさらに高く跳ぶ。
「なに!?」
「食らいなさい! 『炎の玉』!」
アルテナ殿が弓の団員めがけ魔法を放つ。
虚を突かれた彼は、何とか横に転がり躱す。
しかし、地面に着地したアルテナ殿は素早く彼を追撃。
双剣を鎧に突き刺し、そのまま訓練場の隅まで吹き飛ばした。
「ふ、まず一人ね!」
「くそ!」
「おのれ……!」
弓の支援を失った二人は同時にアルテナ殿へ向け攻撃を仕掛ける。
それを見たアルテナ殿は、屈んで背を低くし、一気に二人へ突撃。
二人の攻撃を縫うように躱しながら二人の間に入り、双剣を広げたまま高速で回転し、二人を纏めて薙ぎ払う。
「「ぐあぁ!?」」
二人はその攻撃で吹き飛ばされ、地面に倒れた。
こうして模擬戦は終了。
結果はアルテナ殿の完全勝利だ。
「クックック。ま、あたしにかかれば、このくらいなんてことないわね」
「はっはっは! やるなお前は! さすがダンジョン攻略者だ!」
三人相手に余裕の勝利を掴んだアルテナ殿を、ライル団長は笑いながら褒めたたえる。
……確かに、アルテナ殿とマルタ殿の強さは本物だ。
おそらく、ライル団長も勝つことはできない。
しかし……私はマリン様お付きの守護騎士。
たとえどんな相手だろうと、マリン様を守るのが私の役目。
ならば……。
「アルテナ殿、次は私と戦ってくれませんか?」
私はそう言って、アルテナ殿の前に立つ。
「なんですって? あんたと?」
「はい。互いに本気を出した、真剣勝負をお願いします」
我が守り。
どれだけ通用するか、試させてもらいましょう。
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