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189話 魔力操作訓練①

今回は訓練といえないかもしれない。

 楽しく一夜を過ごした次の日。

 私はマリンに魔力操作の授業をするためマリン、ミラ、シトリン様の四人で集まっていた。


「まあ! エレン様がスキルを扱う訓練をしてくださるのですか!?」

「ええ、午前中だけだけど、よろしくねマリン」


 マリンには貴族としての習い事や勉強があるため、時間は午前しか取れない。

 加えて期間は一週間。

 この短い間に何とかしないと。

 

「ということは、遂に(わたくし)のスキルが何かわかるのですね! 一体どんなスキルなのでしょう? 人を癒す魔法を扱えたら嬉しいですわ!」

「……そ、そうね」


 マリンが満面の笑顔をしながら夢を膨らませている。

 因みに、マリンのスキルをおさらいすると……。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 スキル 毒生成

 このスキルを持つ者が作った物全てに毒が付与されるスキル。

 自分の意思ではどうにもならない。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 うん、こんな残酷な事実は言いにくい。

 というか言えない……シトリン様が笑顔で後ろから圧をかけてきてるし……。

 とにかく、なんとかできるように頑張ろう。


「では、さっそく今から訓練を始めるわよ」

「わかりましたわエレン先生!」

「マリンお姉ちゃーん! 頑張ってねー!」

「マリン、しっかりやるのよ」


 ミラと母親からの応援も受けてやる気に満ちるマリン。

 しかし、すぐに首をかしげながら周りをキョロキョロし始める。


「ところでエレン先生? どうして訓練をなさるのに、()()へ来ているのですか?」


 実はマリンの言う通り、いま私たちがいるのは屋敷の厨房だ。

 これには訳がある。


「それは……今からあなたに()()()()()をしてもらうからよ」

「お菓子ですか? それは訓練に必要なことなのですか?」

「ええ、必要よ」


 まずはどうやってマリンのスキルが発動してるか見なければいけない。

 これは避けて通れない道だ。

 ちなみにそのことをアルテナとマルタに伝えたら速攻で逃げた。

 後でマリンのお菓子を持っていこう、そうしよう。

 

「エレン先生がそう言うなら信じますわ! クッキーでよろしいかしら?」

「ええ、大丈夫よ」

「では、さっそく作りますわね」


 マリンは材料と器具を用意すると、クッキー作りに取り掛かる。

 ここで魔力視覚を発動。

 マリンの体内に存在する魔力の流れを見る。

 

「まずはバターと砂糖をボウルに加えて……」


 マリンがまずボウルに材料を二つ入れる。

 この時点ではまだ変化はない。

 しかし、木べらで練り合わせるところで変化が表れ始める。


(これは……魔力が腕に集中している?)


 青く見える彼女の魔力が、腕に集まり、そして紫色へと変化していく。

 変化した魔力は木べらを通じて見た目こそ変わらないが、材料へと練りこまれていく。


(なるほど……こうして毒クッキーが作られていくのね)


 マリンの表情に変化はない。

 今毒を練りこんでしまったこともわからないのだろう。

 その後、卵と小麦粉を混ぜ合わせる段階でも毒が木べらを通じ練りこまれていき、毒入りの生地が出来上がる。


「では、丸めますわね」


 型抜きは使わず、手で丸めていく。

 この時点でも毒が練りこまれていき、丸く形作られたクッキーは窯に入れられ、甘い香りを漂わせる、おいしそうなクッキーに焼きあがる。


「出来ましたわ! 味は……うん、おいしいですわね!」

「え?」


 自分で食べても大丈夫なの!?

 そう驚いていると、シトリン様が「マリンは作ったものをちゃんと味見するのですよ」と耳打ちで伝えてくれる。

 なるほど、自分で作った毒は効かないらしい。

 だから余計に気付かないのか……。


「さあ、エレン先生もお母様も食べてください!」


 マリンはそう言って、皿に乗せた手作りクッキーを私たちに差し出してくる。

 うん、食べてあげたいけど……ここで人生終了するわけにはいかない!


「あ、あれは何かしら?」

「え?」

(よし、今よミラ!)

(うん!)


 古典的な手で気を逸らし、クッキーだけを素早く収納する。

 よし、うまくいった!


「あら、いつの間にかクッキーが……」

「モグモグ……ごめんなさい、ついおいしすぎて一気に食べちゃったわ」

「マリンのクッキーはおいしいですからね、ふふ♪」

「まあ! うれしいですわ!」


 ふう、なんとか命の危機は脱した。

 

「ところで、魔力操作の訓練は……?」

「マリン、その前に一旦休憩を取りましょう。ミラちゃんと一緒に部屋へ戻っていなさい」

「お母様……わかりましたわ。ミラちゃん、一緒に行きましょう」

「うん」


 マリンは首を傾げたまま、ミラを連れて部屋に戻る。


「さて……マリンがお菓子を作っているところを見て何かわかりましたか?」

「ええ、おそらく集中して作業するとき、マリンは無意識に毒の魔力を作り出し、練りこんでしまうのだと思うわ」


 単純にバターや小麦粉などの材料を持った時は何も変化がなかったし、おそらく合っているだろう。

 やはり魔力を意識して操作することができれば改善するはずだ。


「ふむ……そういうことでしたか」

「シトリン様。一応聞くけれど、魔力を通さない素材を使った手袋をつけてもらえば解決しないかしら?」


 念のため、別の方法での改善はどうか聞いてみる。


「それは根本的な解決にはつながりませんわね。スキルを操れない、出来の悪い女と周りから見下されることに変わりありませんわ」

「……そう」


 そもそもスキルの説明に自分じゃどうにもならないって書いてあるのに……。

 ままならないものだ。


「じゃあ、呪いで魔力を封じてしまうのはどうかしら?」


 ダヴィドのように、ヴェルミナさんから教わった呪いの魔法を使えば魔力を封じられる。

 これは案外いいアイデアだと思う。

 けれど、シトリン様は静かに首を横に振った。


「問題外です。呪われた、もしくは呪いが必要な人間に対して誰が相手にしてくれるでしょうか? 家の名誉にも傷がつくだけです」


 確かに、訳あり物件のような扱いをされるだけか。

 やはり、魔力操作を覚えてもらうしかないらしい。


「そうと決まったら、さっそく訓練を再開しましょう。シトリンさん、中庭を使っていいかしら?」


 こういう時は開けた場所のほうがいい。


「ええ、もちろんです。ではマリンを呼んで……」

「シトリン様! 大変です!」


 突然、屋敷のメイドが厨房の扉を開け入ってくる。


「どうしたのですか?」

「お、お嬢様が……大変なことに……!」

「……マリンッ!」


 メイドの言葉を聞いたシトリン様は瞬時に厨房を飛び出す。

 私も後を追いかけ廊下に出ると、もうシトリン様の姿はなかった。


「なんて速いの……!?」


 マルタの神速並みの速さはあるかもしれない。

 いや、驚いている場合じゃない。

 マリンの身に何か起きた。

 ミラも心配だ。

 魔導銃を抜き、マリンの部屋に向けて走り出す。


「二人とも……無事でいてよ……!」


 廊下を急いで駆けていくと、その先にマリンの部屋の扉が見える。

 そしてその前には、何人ものメイドが血を流して倒れている、凄惨な光景が広がっていた。


「一体何が……!? マリン! ミラ!」


 半開きになった扉を開き中に入る。

 そこには、同じく血を流して倒れたシトリン様、そして……。


「ミラちゃん、この子はお姫様ですのよ♪」

「じゃあこっちはドラゴンさん! がおーー! 食べちゃうぞー!」

「きゃー♪ 食べられちゃいますわー♪ でも、勇者様登場ですのよ♪」

「わー!? でも負けないもん!」

「勇者様だって負けませんのよー♪」


 ……と、二人が部屋の真ん中でお人形遊びをしていた。

 マリンの天使のような笑顔と、ミラのきゃっきゃという声を上げて楽しむその姿はまるでこの世のものとは思えないほど微笑ましくて……。


「う……!?」


 あまりに可愛すぎる光景に私も《《鼻》》から血を吹き出し、倒れたのだった。


「ああ……マリン、ミラちゃん……尊いですわ……」

「こ、これは反則でしょうが……」


 結局、遊びに夢中になってる二人が気づくまで私たちは全員尊死(とうとし)するハメになった。

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