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186話 領主ダイアンとの会談①

 後ろ盾を得る交渉のため、クリス家に来た私たち。

 コーラルに屋敷を案内され、私たちは今領主の私室の前に立っていた。

 

「皆様、どうかご無礼のないようにお願いしますね。特にアルテナ殿」

「気をつけてよアルテナ?」

「アルテナ様、気を付けてね!」

「二度と口開かないでください」

「もうこの流れはいいわよ!」


 アルテナに念を押すお決まりをした後、コーラルが大きな白い扉をノックする。

 

「領主様、マリン様のご友人の方々をお連れしました」

「……わかった。入れ」


 低い男性の返事が聞こえると、コーラルが静かに扉を開ける。

 部屋の左右には本棚が並び、中央には向かい合うようにソファーとテーブルが置かれている。

 奥の壁は一面大きな窓になっていて、窓際に置かれた大きな机には、一人の男性が腰掛けている。

 

「ご苦労だったな。隅で待機していろ」

「はっ!」


 コーラルが部屋の隅に移動すると、男性が顔を上げる。

 シトリンさんと同じ三十代と思われる、濃く短い青色の髪を顔の整った大人の男性だ。


「よく来たな。私はダイアン・クリス。ルベライトを治める領主だ」

「初めまして、冒険者のエレンです」

「アルテナよ」

「み、ミラです」

「マルタと申します」

「ぷっ! やっぱあんたが丁寧な言葉使ってんの違和感しかないわ」

「なんですってポンコツさん!」


 ああもう……!

 なんでちゃんと挨拶できないんだかこいつらは……!


「す、すいません」

「別にいい。上っ面だけの態度など何の意味もなさないからな」


 ダイアン様はそう言って、アルテナとマルタの無礼(主にアルテナ)を軽く流す。

 さっきまでの不安を軽く吹き飛ばすような、威厳のある人だ。

 さすがルベライトの領主。


「座ってくれ」


 ダイアン様に言われ、私たちは中央にあるソファーへ座る。


「さて、まずは急な呼び出しに応じてくれて感謝する。君たちと今すぐ話さなければならない事情ができたのだ」

「事情……ですか?」

「ああ、その内容は……」


 ダイアン様はそう言って立ち上がり、こちらを見つめる。

 以前エミールに呼ばれたときは、上から目線でアルテナを息子の嫁にとか言い出した。

 無いと思うが、今回も似たようなことを言い出す可能性はある。

 私たちに緊張が走る中、ダイアン様は口を開いた。


「…………トイレに行かせてくれないか?」

「「「「え?」」」」




 ……十数分後、「グォォォォ!!」と腹を抱えながら部屋を飛び出したダイアン様が戻ってきた。


「待たせたな」

「本当に待ったわよ!! なんで私たちほっといてトイレ行きだすのよあんたは!?」

「ふざけてるんですか!? 排泄物製造貴族とか実は二つ名ついちゃってるんですか!?」

「二人とも、止めなさい」


 今回ばかりは口が悪くなるのもしょうがないと思うけど。


「すまないな。私は胃腸が弱く、頻繁に腹痛が襲ってくるのだ」

「えっと……それは生まれつきですか?」

「いや、あるものを得るために払った代償だ」


 え、代償?

 なにか魔法的な契約?

 いや、そうだとしても胃腸が弱くなるなんて馬鹿な内容が……。


「……この、愛しの娘が作ったお菓子を味わうための代償だ」

「え?」


 ダイアンさんはそう言って机に置いてあった、皿に乗ったクッキーを見せる。

 あれはまさか……。


「もしかして……マリンの?」

「ああ。これを何年も毎日食べ続け、私は完全な耐性を得ることに成功したのだ」

「ええ……」


 なにやってるのこの人!?

 命知らずにも……いや、親バカにもほどがある!


「ふ、おかげで毎日数時間トイレにこもる生活になってしまったが……どうだ、うらやましいだろう?」

「羨ましくないわよ!」

「なにそんなことに命かけちゃってるんですか!?」

「なんだと!? 愛しのマリンが作ったお菓子が食べられるのだぞ!? これ以上の幸せはないだろう!?」

「さっさとマリンにスキルの事教えなさいよ!」

「あの天使のような子に、そんな残酷なこと言えるか!」

「マジで排泄物製造貴族って呼ばれますよ!?」

「娘のためならその程度の汚名、なんてことはない!」

「……エレン様、あの人はなにを言ってるの?」

「さあ……」


 ダメだ、理解できない……。

 って、私たちはそんな話をしに来たんじゃない。


「あの……ダイアン様。そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」

「ふむ、そうだな。娘の自慢は後でたっぷり聞かせてやろう」


 いや、しなくていいから。


「さて、事情の件だが……まず問いたい。君たちは本当にダンジョンコアを持っているのか?」


 ダイアン様が真剣な表情をして尋ねてくる。


「ふ、当然よ。ミラ、こいつの前にコアを出しなさい」

「はい、アルテナ様」


 ミラが収納からダンジョンコアを出すと、コアから発せられる黄金の輝きに部屋が包み込まれる。


「これが……ダンジョンコア……!」

「ほう……」


 その輝きにコーラルは驚き、ダイアン様は興味深そうな顔をする。


「手に取ってみてもいいかね?」

「うん、いいよ」


 ミラがダンジョンコアをダイアン様に渡す。

 

「では、確かめさせてもらおう。『鑑定』」

「え……?」


 鑑定……!?

 まさか、ダイアン様がユニークスキルの使い手だったなんて。


「どうした、私が鑑定を使えるということに驚いたか?」

「はい……少し」

「だが、こっちも驚かされたぞ。これは間違いなくダンジョンコアだ。まさかこの目で本物を見ることになろうとはな」


 そう言って、ダイアン様はコアを自分が座る机の上に置く。


「実は、急に呼び出したのは他でもない。君たちがヴェインで起きた魔物の暴走を止め、ダンジョンコアを手に入れたという情報が今朝、このルベライトに入ってきたからだ」

「「「「……!」」」」


 私たち全員の顔が引き締まる。

 とうとうその情報がこの街に届いてしまった。

 

「一介の冒険者が国宝級の宝を所持している……。その危険性はわかるだろう? だから、話が広まる前に来てもらったというわけだ」


 なるほど、そういうことなら急に呼ばれたのも納得だ。


「さて、こちらの事情は以上だ。次に君たちの話を聞かせてもらおう」

「はい、わかりました」


 私はダンジョンコア以外にも、自分の万能の魔法や、ミラの希少性や収納について語る。

 そして、それを理由に悪徳商人に狙われたことを。

 

「ほう……それで私に、どうしてほしいというのだ?」

「ダンジョンコアと引き換えに、今後の私たちの安全を保障してほしいのです」

「……それはつまり、クリス家に後ろ盾になってほしいということか?」

「はい、その通りです」


 これで、こちらの要求は伝えた。

 悪い条件ではないはず。

 そう思っていた……しかし。


「それは無理だな」

「え……!?」


 ダイアン様は考えるしぐさすら見せず、そう答えた。


「どうしてですか? 一介の冒険者を守るだけで、二度と手に入らないかもしれないお宝を手に入れられるかもしれないんですよ?」


 すかさずマルタが反論する。

 

「確かにダンジョンコアは国宝級の代物だ。しかし、私は目先の欲に囚われるほど愚かではない」


 そう言うと、ダイアン様は鋭い目で私たちを見据える。


「君たちがクリス家の名に泥を塗らんとも限らんだろう?」

「待ってください、そんな事するつもりは……」

「無いと言うつもりか? 現にお前たちはヴェインで散々やらかしているそうじゃないか。領主エミールを裸土下座させたりな」

「う……」


 自衛のためとはいえ、事実だから反論できない……!


「そのような者たちを庇護すれば、クリス家は無用な敵を作る羽目になるだろう。それに、わざわざ君たちを守らなければならん理由がクリス家には無い」

「なに言ってんのよ!? あんたの娘を助けたり、ゴブリンキングを倒したり、魔物の暴走を止めたり色々私たち街に貢献してやってるじゃないの!」


 アルテナが力強く反論するが、ダイアン様はそれを嘲るかのように笑みを浮かべる。


「確かにな。だが、街のために動いたわけではないだろう? 結果的にそうなっただけだ。それに、娘を助けたと言ったが、大事なものも奪ってくれたそうじゃないか……?」

「あ、あれは事故よ」

「事故で済むか! 万が一娘が禿げから戻らなかったら……。君たちを処刑していただろうな……!!」

 

 ああ……やっぱりダイアン様も知ってた……!

 なんか黒い殺気が見えるし……!

 

「さらに……エレン君。君は噓をついたな?」

「え……なんのことでしょうか?」

「君が万能の魔法を扱えるのは、その魔導銃のおかげではないだろう?」

「な……!?」


 おかしい……その事は仲間しか知らないはず……!

 

「君がヴェインへ行く以前、ルベライトで魔導銃を使わず魔法を使っている所を見た者がいる。魔導銃を隠れ蓑にすることを思いついたのだろうが……甘かったな」


 確かに……そのことを思いついたのはヴェインへ行った時で、それ以前は考えていなかった。


「魔力を持たない君がどうやって魔法を使っているかは気になるが、それは今どうでもいい。交渉の場で嘘をつくというのが、どれだけ相手の信用を無くすか……。言わずともわかるだろう?」

「……はい」


 力なく頷く。

 隠さなければならなかったとはいえ、嘘をついたのは本当だ。

 まさかここまで私たちのことを調べていたなんて……。


「そういうことだ。たとえ国宝級の宝を持ってきたとしても、君たちの後ろ盾になる程のメリットも、恩も、信用もない。残念だが断らせてもらおう」

「……わかりました」


 完全敗北だ。

 どうやら、私の考えが甘かったらしい。

 

「……ただし、ダンジョンコアはこちらで預かろう」

「な……それは……!?」

「元々君たちも持て余していたのだろう? 私が管理すれば、コアを狙う輩に目を付けられることは無くなるはずだ。後ろ盾になってはやれないが、私とコネが作れたことで多少の抑止力にはなるだろう。それで十分ではないか?」

「……」


 深く思考を巡らせる。

 確かに、すべてダイアン様の言うとおりだ。

 コアを持っていてもいいことはないし、実際最悪コネが作れればいいと思っていた。

 マルタを見ると、彼女も力なく首を横に振った。

 悔しいが、諦めるしかない。

 そう思って私はダイアン様に同意しようと思ったその時。


「誰が渡すもんですか!」


 アルテナが立ち上がり、ダイアン様の机からダンジョンコアをぶんどった。

今更ながら、こういう真面目に話すシーン苦手です……。


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