185話 クリス家のメイド長、シトリン
最近普通のシーンばっかだから飽きられないかな?
マルタが臨死体験をした翌日、再びコーラルが馬車で家にやってきた。
「いらっしゃいコーラル」
「今日も良き日ですね、エレン殿」
二人で挨拶をする。
「率直に申し上げます。領主様は会談に応じてくださいました」
「本当? 日時は?」
「それがその……今すぐ来てほしいとのことです」
「え?」
今すぐに?
どういうことだろう?
「なによ、ずいぶんと急じゃない」
そう言いながら、後ろからアルテナもやってくる。
「申し訳ありません。領主様が今すぐ皆様と話したいとのことでして」
「ま、それならしょうがないわね。ミラ、マルタ! 行くわよ!」
アルテナが二人を呼ぶと、元気なミラと、暗い顔をしたマルタがやってくる。
「はーい」
「えっと……私は全世界うさぎ跳び選手権に出る予定がありますので今日は無理ですね! じゃあそういうことで皆さん、行ってきてください……」
「ありもしない予定言ってんじゃないわよ! 行くわよ!」
そう言ってアルテナがマルタの襟をつかんで引っ張っていく。
「うわー! 勘弁してくださいー! 私死にたくないですー!!」
「駄々こねてんじゃないわよクソうさぎ!」
どうやら、昨日の毒クッキーがトラウマになっているようだ。
気持ちはすごーーくわかるけど、さすがに重要な会談で欠席はダメ。
「マルタ殿、安心してください。本日皆さまが屋敷に来ることは、お嬢様は知りません。それに解毒ポーションは準備してありますので」
「用意してる時点で安心できません! もう『毒生成』スキルの事、本人に教えてあげてくださいよ!」
「お嬢様が傷つくからダメです」
「私ならいいって言うんですかー!?」
「いいから行くわよ!」
そのまま私たちは馬車へ乗り込み、マルタもアルテナによって馬車へ放り込まれ、無情にも屋敷へ出発するのだった。
……数十分後。
「着きました、ここになります」
「ここが……マリンの家なのね」
御者台にいるコーラルに言われ馬車から外を見る。
ベージュ色の、小さな城のような姿をした屋敷だ。
青い三角屋根が規則正しく並び、入り口には優美な鉄柵の門と、その隣に美しい銀色の全身鎧に身を包んだ兵士が大きな槍を手に警備している。
「きれいなお屋敷だー♪」
「そうね。先に行っておくけどアルテナ、粗相をしないでよ?」
「アルテナ殿、おとなしくしてくださいね」
「ポンコツさん、心臓止めといてくださいね」
「なんでみんなあたしに念を押すのよ!? ていうか心臓はやりすぎでしょうが!」
日頃の行いのせいなんだからしょうがない。
「では、参りますよ。門を開けろ」
「はっ!」
コーラルが命令すると、兵士がキリッと礼をし、門を開けていく。
その所作はとても美しく見えた。
さすが貴族に仕える兵士だ。
そのまま門をくぐり、庭を通過して屋敷の入り口付近で馬車が止まる。
「皆様、降りてください」
コーラルに言われて馬車を降りる。
「さて、いよいよね……」
「またエミールのような奴じゃないといいけど」
「アルテナ、不安になること言わないで頂戴」
マリンの父親だしそこは大丈夫だと思っているけど……油断はできない。
深く深呼吸し、意を決してコーラルを先頭に屋敷へと歩みを進める。
立派な両扉の門が左右に開かれ中へ入ると、豪華なエントランスの奥からメイド服を着た長身の女性が歩いてくる。
「おかえりなさいコーラル。こちらの方々は?」
「シトリン様、ただいま戻りました。こちらはお嬢様のご友人であらせられます」
コーラルがそう言って私たちを紹介するとシトリンと呼ばれた女性は笑顔でこちらを見る。
年齢は三十代くらいだろうか?
しかしその佇まいはただのメイドとは思えないほど洗練されていて、すらっとした長く透き通るような銀髪が彼女の美しさを際立たせていた。
「まあ! 話に聞いていたマリンの友人ですね。初めまして、メイド長を務めるシトリンと申します。どうぞお見知りおき下さい」
そう言って、シトリンさんは礼儀正しく頭を下げる。
なるほど、この屋敷のメイド長か。
それなら納得……出来るような出来ないような。
「ご丁寧にどうもありがとうございます。冒険者のマルタです。よろしくお願いします」
「はぁ? その丁寧な口ぶりはなによクソうさぎ? いつものあんたなら、『おやおや、お嬢様の友人を迎えるのにたった一人ですか? 貴族の屋敷ならメイドを左右一列に並べて出迎えるくらいの歓待ぶりを見せてほしいものですけどねー』とか言いそうなくせに」
「憶測で変なこと言わないでください!」
「いや、でも確かに」
「マルタお姉ちゃんなら言いそう」
「エレンさんはともかくミラちゃんまで!?」
うん、ミラもマルタの性格がわかってきたようだ。
「いやいや、私ちゃんと言う相手は選んでるんですからね!」
「なによ、てことは思ったのは本当なんじゃない」
「まあそうですけどね! って何言わせてるんですか!?」
へぇ、マルタがツッコミに回るのは珍しい。
ってそんなこと思ってる場合じゃない。
「すいません、仲間が失礼なことを……」
「ふふ、大丈夫ですよ。面白い方々ですね」
シトリンさんはその様子を微笑ましそうに見ている。
うん、いい人で良かった。
「ところで、あなたがエレンさんですね?」
「ええ、そうですけど……」
「ふむ……なるほど。ちょっとよろしいですか?」
シトリンさんはそう言って、メジャーを取り出し、私の体を採寸し始める。
「あの、シトリンさん? 一体何を……?」
「失礼しました。もう大丈夫ですよ」
一体何だったんだろう?
次にシトリンさんはミラに歩み寄る。
「あなたがミラちゃんですね」
「えっと……シトリンさん、よろしくお願いします」
「あらあら、話には聞いていましたが本当にかわいらしい子ですね。これからも末永くマリンと仲良くしてあげてくださいね」
「は、はい」
そう言ってシトリンさんは首を傾げているミラの手を握り、ほほ笑む。
……末永くってどういう事だろう?
そう思っていると、今度はちょうど口論が終わったアルテナとマルタに歩み寄る。
「マルタさん、当屋敷はメイドの数が少ないものでして、並んでお迎えできなかったことをお詫びしますね」
「いや……その……」
「ぷぷ、ざまぁないわね」
いや、マルタが謝る原因を作ったやつがなに言ってるんだか。
「そしてアルテナさん」
「ん、なに?」
「……ゴブリンからマリンを助けていただいたことは感謝しています。ですが……」
シトリンさんはアルテナの肩を持ち、囁くように続きを言う。
「もしまたあの子の頭に酷いことをしたら……覚悟して下さいね?」
「ひぃ!?」
アルテナが腰を抜かして倒れる。
なんだろう……?
今、一瞬だけ鋭い殺気を感じたような……。
「では、私は仕事がありますので失礼いたします。コーラル、お客様のご案内、よろしくお願いしますね」
「はっ!」
シトリンさんはほほ笑みながらそのまま屋敷の奥へと消えていった。
「はぁ……はぁ……。び、ビビったわ。なんだったのあいつ?」
「ぷ、ざまぁないですね」
「なんですって!?」
「それはともかくコーラル、シトリンさんってもしかしなくても……」
「はい……あの事を知っておられます」
やっぱり……!
アルテナがマリンを禿げさせたことを知ってた!(※五話参照)
「気を付けてください。シトリン様は『掃除屋』のスキルを持っておられる、この屋敷最強の実力者です」
「なんでそんな物騒なスキル持った奴がこんなところにいるのよ!?」
「何故と言われても……マリン様のお母さまですので」
「え?」
あの人が……マリンのお母さん!?
いや、只物じゃないとは思ってたけど!?
「そういえば……マリンさんを呼び捨てにしてましたね」
「いやいや、メイド長って言ってたじゃないの!」
「あの方の趣味です」
「趣味でメイド長やってんの!?」
「まあ、いろいろと事情がありましてですね……。それはそうと、領主様の元へご案内します。ついてきてください」
それ以上話したくないのか、コーラルが話を切って案内し始める。
「エレンさん……今からでも帰ったほうがいいと思いますが?」
「……そうもいかないでしょう」
なにせもう、領主からお呼ばれがかかってしまっているのだ。
行かないという選択肢はない。
でも……どうしよう。
この先すごく不安になってきた。
面白かったら感想、評価お願いいたします。




