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184話 マルタ、死す

「私たちは今、ある問題に直面しているの」


 マリンとコーラルに、私たちに差し迫る問題を可能な範囲で話す。

 その説明に、コーラルが納得した様子で頷いた。


「なるほど、エレン殿が持つ万能の魔法、希少な魔物であり、収納も使えるミラ殿。十分狙われたとしてもおかしくないですね」

「ミラちゃんを狙うなんて許せないですわ!」


 マリンがミラを抱きながら立ち上がる。

 ……というかいつまで抱いているんだろう。


「特にダンジョンコアは国宝級の代物です。軽々しく扱っていい問題ではありません」

「ええ。それで、マリンに頼みたいことがあるのよ」

「頼みたいことですか?」

「ええ、あなたの父親……領主との会談の場を設けてくれないかしら?」

「お父様と?」


 マリンがキョトンとする一方で、コーラルが理解したという顔で頷く。


「なるほど、エレン殿は領主様のお力を借りようとお考えなのですね」

「ええ、その通りよ」


 もし領主を味方につけることができれば、そうそう手出ししてくる相手はいないはずだ。


「ちょっとエレン、マジで言ってんの? エミールみたいなやつ味方につけても全然頼もしくないんだけど」

「いやいやポンコツさん、あんな悪徳田舎バカ貴族と一緒にしちゃいけません。ルベライトはルミナリア王国の流通を担っている、重要な街の一つです。そこを治めているんですから、かなりのやり手に違いありませんって」


 まあ会ってみないとわからないけど、おおむねマルタと同意見だ。



「なるほど……わかりましたわ。お父様にエレン様たちと会談していただけるよう、お願いしてみます」

「お嬢様、そんな軽率に……」

「きっと大丈夫ですわ。それに、お父様も前々からエレン様たちに会いたいと仰ってましたし」

「え、そうだったの?」


 思いもよらなかった事実に思わず聞き返す。


「はい、領主様はお嬢様を助けていただいたことや、ゴブリンキング討伐の件について前々からエレン殿たちとお話ししたいと申していました。当時多忙だったため、会うことはできませんでしたが……」


 そうだったのか。

 それならなおさら都合がいい。


「わかりました。そういうお考えでしたら、私としても異論はありません」

「ありがとう。マリン、コーラル」


 二人に深く礼をする。

 

「そんな頭を下げないでくださいエレン様、(わたくし)たちの仲ではありませんか」

「えっと……マリンお姉ちゃんのお父さんって怖くない?」

「大丈夫ですわミラちゃん。お父様はとっても立派な御方です。きっと力となってくれるに違いありませんわ」

「そうなんだ、じゃあ安心だね♪」

「ええ、安心ですわ♪」


 ……なんだろう、天使のような二人が微笑み合っているのを見ると尊くてちょっとクラっとする。

 

「と、尊い……」


 なんかコーラルもそう言いながら顔を押さえてそっぽ向いてるし……大丈夫だろうか?

 まあでもよかった。

 これで領主との会談が実現しそうだ。

 気付けばもう夕方。

 話も決まったところだし、今日は二人とも帰らせたほうがいいだろう。

 二人を見送るため、みんなで玄関まで移動する。


「今日は久しぶりに会えて楽しかったですわ。お父様の件は任せてください」

「ありがとうマリン」

「ふ、ちょっとは期待して待ってるわよ」

「マリンお姉ちゃん、今日はありがとう」

「お二人とも、私も楽しかったですよ! また来てくださいね!」


 みんなで見送りの言葉をかけると、マリンは()()()()()()()()優雅に礼をする。


「では、帰りましょうかコーラル」

「分かりました、お嬢様」

「いや、その前にミラを離してくれる?」


 そう言うと、マリンがギクッ! と体を震わせ、ゆっくり振り返る。

 いやいや、なに自然にお持ち帰りしようとしているんだか。


「……エレン様」


 マリンは初めて真剣な表情になり、私を見つめる。

 そして。


「……ミラちゃんを私にください」

「ダメ」

「……お嬢様」


 バッサリ切られたマリンはコーラルに呆れられ、しょんぼりと肩を落としながら馬車に乗り込んでいった。

 


 ……そして二人が帰った後。


「いやー、普通にミラちゃんをお持ち帰りしようとするマリンさん面白かったですね!」

「笑い事じゃないわよ。ミラ、怖くなかった?」

「え? マリンお姉ちゃんはとっても優しい目をしてたし、逃げようと思えば逃げられたから大丈夫だよ?」


 ミラが首を傾げながら答える。

 まあ確かにその通りだし、ミラの本体は箱のほうだから問題なかったか。


「しかし、領主様の後ろ盾を得るというのはいい考えだと思いますが、うまくいくのですか?」

「なに言ってんのよクソうさぎ? こっちは娘の恩人だし、ゴブリンキングを倒した実績もあるんだから大丈夫よ」


 アルテナがそういうと、マルタは呆れた感じでため息をつく。


「ポンコツさんはなんでそんな楽観的なんですか。相手は領主ですよ? ちょっと恩がある程度で後ろ盾になってくれるほど甘くはないですって。そこのところ、どうなんですかエレンさん?」

「そうね……勝算はあると思うわ。幸い、最高の交渉材料があることだしね」

「交渉材料……あ、ダンジョンコアですか」

「ええ、そうよ」


 なにせ値段がつけられない国宝級の代物だ。

 それを持っていけば十分な武器となりえるだろう。


「え、そんなことにコア使うの? もったいなくない?」

「いいじゃない、私たちが持ってても意味無いでしょう? 領主なら有効な使い方をしてくれるかもしれないじゃない」


 最悪コアを引き取ってもらうだけでも当初の目的は果たせる。

 あとは領主の人柄次第だが……マリンの父親だし、いい人であることを祈ろう。


「ていうかエレン、あたしお腹すいたんだけど」

「いや、さっき食べたばかりじゃない」

「オムレツ一個じゃそんな腹にたまらないわよ。なんか夕飯作ってー」

「はいはい」


 アルテナに言われ夕飯を作りに行こうとしたその時。


「あ、それでしたらこれみんなで食べませんか? 帰り際マリンさんにもらったんですよね」

「え?」


 そう言って、マルタがクッキーの入った袋をテーブルの上に出す。

 ……まさかあれは!?


「ちょ、クソうさぎ!? まさかそれ、マリンが作った……」

「はい、マリンさんお手製のクッキーだそうですよ。みんなで召し上がってくださいとのことです」


 やっぱり!

 マリンのスキル『毒生成』で作られた致死レベルの毒入りクッキー!(※三十話参照)


「じゃあさっそく一個いただき……」

「させるかー!」


 アルテナが素早くマルタからクッキーの袋を奪い取る。


「ちょ、独り占めは許しませんよポンコツさん!」

「この馬鹿うさぎ! そういう意味じゃ……あ!?」


 マルタが神速のスキルを発動し、目にも止まらぬスピードでクッキーを奪い取る。


「プップップ、スピードでポンコツさんには負けませんよ! いただきまーす!」


 誤解したマルタが袋の中にあるクッキーを一気にほおばる。


「マルターー!!!」

「クソうさぎー!!!」

「ぶはぁ!?」


 マルタはその場で崩れ落ち、のたうち回った後動かなくなった。


「え……? マルタお姉ちゃん……?」

「ああ……止められなかった……」

「クソうさぎ……無茶しやがって……」


 その後、以前用意しておいた解毒ポーション(※三十一話参照)でなんとかマルタは生還したのだった。

 以前言ったかもしれないがもう一度言う。

 ……本当に誰よ!? マリンにこんなスキル授けたやつ!?

マリンの毒入りクッキーはかなり前なので忘れてる人多いかも……。


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