183話 エレン、全力でおもてなしする
私たちの家を訪ねてきたマリンとコーラル。
彼女たちは昔、ゴブリンの群れから助けたことをきっかけに知り合った友人である(アルテナがやばいこともしでかしたけど)。
「おやおや、こちらの綺麗なお二方は誰ですか?」
そう言いながらマルタも玄関に来る。
「ルベライトを治める領主の娘マリンと、お付きの騎士コーラルよ。私たちの友人なの」
「え、そうなんですか!? は、初めまして! マルタです!」
領主の娘と聞いてさすがのマルタも恐縮したのか、慌てて姿勢を正して礼をする。
「マルタ様というのですね。初めまして、マリンと申します」
マリンはドレスの裾をちょこんと摘まみながら、優雅に礼をする。
「私はコーラルと申します。貴殿は、エレン殿たちの新しい仲間ですか?」
「はい、そのとおりですね」
「ていうか、二人はなにをしに来たのよ?」
自己紹介が終わったところで、アルテナが疑問を漏らす。
「それはもちろん、エレン様から帰ってきたと手紙が届いたからですわ」
「え、あんたいつの間に手紙なんて出してたの?」
「今日の朝、マルタに頼んでおいたのよ」
マテツさんのところへ行くとき、マルタは買い出しに行くと言ったので、ついでに頼んだのである。
帰ってきたことと、頼みたいことがあるという内容を添えて。
……まさかこんなに早く来るとは思ってなかったけど。
「ああ、領主の屋敷に手紙を届けてほしいと頼まれた、あれですか。一体なにかと思ってましたけど……。あ、ツテってこのことだったんですね」
「ツテ、ですか?」
「そのことは後で話すわ。玄関で立ち話もなんだし、上がって頂戴」
二人を家に招き入れようとすると、そこに掃除のため雑巾を持ったミラがふわふわと浮きながらやってくる。
「エレン様、その人は誰?」
「ああミラ、紹介するわ。この二人は……」
「キャー!! なんですか!? この可愛らしい子は!?」
マリンが急に黄色い叫びをあげ、ミラの分身に抱き着く。
「わわ!?」
「とっても可愛いですわ! まるでお人形さんみたい!」
ミラを胸に抱きしめ、満面の笑みを浮かべながらはしゃぐマリン。
まあ、ミラは可愛いからしょうがない。
……なんていってる場合じゃない。
「エレン殿、人間ではないようですが、あの子供は一体?」
「従魔のミラよ。マリン、苦しそうだから離してあげて」
まあ、実際はマリンに抱き着かれた程度で困るような子じゃないけど。
「あら、申し訳ありませんわ」
そう言いつつも、マリンはミラを優しく抱きしめたまま離そうとしない。
「すみません、お嬢様は無類の可愛いもの好きでして……」
「仕方ないわね……ミラ、マリンの相手をしてあげてくれる?」
「う、うん。わかったエレン様。ところで、お掃除はいつするの?」
「あ」
しまった。
そう言えば掃除がまだだった!
相手が貴族とか以前に、友人を埃っぽい家に入れるなんてできない!
「二人とも、部屋を片付けてくるから、ちょっと待ってくれるかしら?」
急いで回れ右し、家の掃除に向かう。
せめてリビングだけでもきれいにしなければ。
「でも時間はかけられないわね……こうなったら、『小さな竜巻』!」
適当に考えた魔法名を言いながら、小さなつむじ風を作り出す。
そして床を走らせ、ゴミや埃を風で巻き上げていく。
「あとは壁と……棚の上と……天井も……」
全体的につむじ風を走らせた後、窓から庭へ風をポイっと捨てる。
よし、これでゴミや埃はなくなった。
「次は水拭き……『流れる水』!」
今度は薄い水の膜を作り出し、床や壁を滑るように走らせる。
水は汚れをどんどん絡みとっていき、部屋を全体的に拭いた後、汚れた水を窓の外へ流す。
「あとは……『乾燥』!」
最後に炎と風を組み合わせた温かい風を吹かせ、部屋全体を乾かす。
「ふう……これでいいかしら」
ピカピカになった部屋を見てそう呟く。
所要時間大体三分。
うん、我ながら上出来だ。
「まあ! あっという間に部屋がきれいになりましたわ!」
その声を聞いて振り向くと、マリンたちみんながすぐ後ろにいた。
……もしかして全部見られてた?
「なによエレン、そんな簡単に終わるならさっさと一人でやればよかったじゃない」
「エレン様すごーい!」
「いや、エレンさんどんだけ魔力操作得意なんですか!?」
「エレン殿……なんですかその……精密すぎる生活魔法は……」
「……まあそれは置いといて、こっちに座って頂戴」
適当にごまかし、みんなをテーブルへ案内する。
「今紅茶を出すわね」
「まあ、またエレン様の淹れる美味しいお茶が飲めますの? 楽しみですわねコーラル」
「えっと……そうですね」
「エレン、あたしたちにも頂戴」
「はいはい」
四人分の紅茶を入れ、みんなに出す。
ちなみにミラは、少し困った顔をしながらマリンに抱かれたままだ。
いつまでそのままなんだろう?
「ああ、やはりエレン様の紅茶は美味しいですわね!」
「エレン殿。先ほどの魔法といい、本気でメイドになる気はありませんか?」
「いや、それはちょっと……」
「それよりもエレン、あたしいい加減お腹空いたんだけど?」
「そうですね、私もお腹空きました」
ぐぅ~っと私のお腹も鳴る。
そうだ、ご飯もまだだった。
「じゃあ、軽くなにか作るわ。マリンとコーラルも食べていく?」
「よろしいんですの? ではお願いいたしますわ」
「エレン殿、お世話になります」
そう聞いた後、私は台所へ向かう。
「クックック、じゃあ食事が出来るまで、あたしのヴェインでの活躍をいっぱい聞かせてやろうじゃない!」
「まあ、それはとても楽しみですわ!」
「ポンコツさんはあることないこと言いますので話半分に聞いてくださいね」
「あることしか言わないわよ!」
「それよりもお二人とポンコツさんが、どうやってお知り合いになったのか聞きたいですね! きっとやばい事しでかしてるんでしょうけど!」
「あの時は……悪夢でした」
「コーラルさん! 詳しく!」
「あー! 言うんじゃないわよ!」
「ふふ、とても賑やかですわね。ミラちゃん♪」
「うん、いつもみんな賑やかだよ!」
なんか話がすごい弾んでいる。
よし、今のうちにさっさとなにか作ってしまおう。
「短時間で作れてマリンたちに出しても大丈夫な料理……そうだ。オムレツにしましょう」
見た目的にも映える。
あとは私次第だ。
スキルで手に入れたプロ級の料理技術を見せるとき!
まずは卵を器に割り入れ、泡だて器で素早くかき混ぜる。
泡立ちすぎず、重すぎず……ちょうどいい加減だ。
「卵だけだと軽すぎるし……そうだ、ひき肉も入れましょう」
フライパンを熱して油を引き、ひき肉を入れる。
ジュワッと音を立ててたちまち香ばしいにおいが広がる。
塩、胡椒、香草を加え、肉汁を閉じ込めるように手早く炒める。
いい感じにほぐれた肉はつややかに焼き上がり、食欲をそそる香りを漂わせた。
「よし、いい感じね」
別のフライパンに溶き卵を流し込む。
表面がふるりと固まり始めた瞬間、木べらで優しく混ぜ、半熟の層を重ねていく。
そこで炒めたひき肉を投入し、手首を返す。
卵は破れることなく、ふんわりと具材を包み込む。
「上手くいったわ。あとは……」
鮮やかな黄金色のオムレツを皿に盛り、最後に赤いケチャップをすっとかける。
これで完成だ。
「みんな、出来たわよ」
人数分のオムレツを作り終わった私は、テーブルに運んでいく。
「まあ、とても美味しそう! あ、コーラル見て! ケチャップで私の名前が書いてありますわ!」
「おおこれは……。なんと、私の名前まで……」
おまけでケチャップを使い名前を書いたのだが、気に入ってくれたようだ。
「さすがエレンさん器用ですね!」
「ちょっと、私のポンコツって書いてあるんだけど!?」
「ごめん、間違えたわ」
「絶対わざとでしょ!?」
そんなアルテナのクレームは置いといて、私もテーブルに座る。
「さあみんな、食べましょう」
フォークを手に取り、みんなでオムレツを食べ始める。
「さてと……出来は……」
フォークでオムレツを割ると、中から湯気が立ち上り、肉汁を吸ったひき肉が顔を出す。
卵はとろりと半熟で、口に入れた瞬間ふわりとほどけた。
うん、完璧だ。
「うーん、やっぱエレンの料理は最高ね!」
「全く、こんなのだされたら嫌味の一つも言えないじゃないですか」
アルテナとマルタもおいしそうに食べている。
「……これほどおいしいオムレツは食べたことがありません」
「とても美味しいですわ! はい、ミラちゃんもあーん」
「えっと……ミラは魔石しか食べられないから……」
「そうなんですの……残念ですわ」
マリンとコーラルも味にご満悦のようだ。
よし、いいおもてなしができたようで安心した。
その後は和気藹々としながらヴェインでの冒険譚をアルテナが高々に話したり、マリンが羨ましがって自分も行きたいと言い出してコーラルを困らせたりと、いろんな話をしながら過ごす。
「……で、あたし達はヴェインのダンジョンを攻略し、ダンジョンコアをゲットしたわけよ。どうだった? あたし達の冒険譚は?」
「とても素晴らしかったですわ!」
「……しかし、本当にコアを手に入れたのですか? それが真実なら……」
「……実は、そのことで頼みたいことがあるの」
さて、ここからが本題だ。
後ろ盾を得るため、マリンとコーラルに差し迫る問題を打ち明けよう。
この町で平穏に暮らすために。
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