187話 領主ダイアンとの会談②
ダイアン様との交渉で敗北した私達。
話がまとまろうとしたその時、アルテナがダンジョンコアをダイアン様の机からぶんどった。
「ちょっとアルテナ、なにしてるのよ!?」
「はぁ!? それはこっちのセリフよ! なーにコアを掠め取られようとしてんのに、黙って見てんのよあんたは!」
アルテナが指をさして私に反論する。
「はぁ……ポンコツさん、現実を見ましょうよ。私たちじゃコアを持て余すだけですし、貴族とコネが作れるだけでもよしということに……」
「そんなんで納得いくもんですか!」
マルタの説得も一蹴する。
ダメだ、今のアルテナに話が通じない。
それでも、話がこじれる前になんとかしないと。
「アルテナ、気持ちはわかるけど……」
「いーや、分かってないわね! これはそんな簡単に渡していいお宝じゃないでしょうが!」
「確かに、それくらい高価な物だけど……」
「そんなんどうでもいいのよ! これはあたしたちにとって、大事なお宝でしょうが!」
「……アルテナ」
そこまで言われて私は気づく。
アルテナがコアを渡したくないのは価値がどうとかじゃない。
ヴェインの冒険の果てに手に入れた、みんなにとって大切な物だからだ。
「でもアルテナ……私たちが持っていても……」
「関係ないわね! しょうがなく渡すくらいなら、あたしが狙う連中全員ぶっ飛ばしてやるわ! それが貴族だろうが、王様だろうがね!」
「……やれやれ、全く」
いつもながら、アルテナには困ったものだ。
現実的じゃない、こんな感情だけのわがままを通そうとするなんて。
でも……今回のは不思議と嫌な気分じゃない。
「あの……エレン様、ミラは難しいお話よくわからないけど……ミラも大事な物を簡単に渡したくない……」
ミラも、私の服の裾を掴んでそう願ってくる。
「ミラ……私はダメね」
損得勘定ばかり考えて、二人の気持ちを理解しないで諦めようとしていた。
全く……こういう考える役目は私だっていうのに。
「マルタ、悪いけど付き合ってもらえるかしら?」
決意を込めた目でマルタを見る。
「やれやれ、エレンさんまでお二人に感化されたんですか? しょうがないですね。私はパーティーの新入りですしお付き合いしますよ」
「……ありがとう」
マルタはそう言いながら笑って返してくれた。
これで答えは決まった。
コアは渡さない。
みんなで納得する使い道を考えつくまで持っていよう。
「ダイアン様、申し訳ありません。今回のお話は……あれ?」
気付いたらダイアン様が机から消えていた。
隅にいたコーラルに目線を向けると。
「すいません、ダイアン様は先ほどまたトイレに行かれました」
「…………」
思わず目の前のテーブルに頭を打ち付けた私だった。
……再び十数分後。
「ははは、すまないな」
「すまないじゃないですから! なんで黙ってトイレ行ってるんですかあなたは!?」
「いや、話に入れる空気じゃなかっただろう?」
「だからってちょっとは我慢しなさいよこの排泄貴族!」
「なんだと!? 無茶を言うな無茶を!」
うん、怒りたい気持ちも、変なあだ名をつけたい気持ちもわかるけど……。
でも、今の待ち時間はナイスだ。
おかげで冷静に考える時間が生まれ、色々閃いた。
まだ諦めるには早い。
「ダイアン様、先ほどあなたは私たちの後ろ盾になるメリットも、恩も、信用もないと言いましたね?」
「ああ、そうだが?」
「……その評価をすべて覆せるとしたらどうでしょう?」
「……ほう?」
ダイアン様が興味深そうに私を見る。
「私の見る限り……ダイアン様はとても大きな悩みをお持ちなのではないでしょうか?」
「……悩みだと?」
「はい。それは……マリンのことです」
そう言うと、ダイアン様の目が鋭くなる。
どうやら私の考えは合っているらしい。
さらに話を続ける。
「マリンのスキル『毒生成』は本人が作ったものに毒を与えてしまう、自身でも制御できない厄介なスキルです。貴族の娘がそんなスキルを抱えている……。それは、クリス家にとって問題ではありませんか?」
「貴様……! 娘を愚弄するか!?」
ダイアン様が怒り立ち上がる。
この反応は……間違いなく図星だ。
なら、怯んではいけない。
ここで最大の一手を打つ。
「……もし、それをどうにかできると言ったらどうしますか?」
「……なんだと?」
よし、食いついた。
ここからが勝負だ。
「私のスキル、『器用貧乏・改』はただ技術が上がるだけのスキルです。それは知っていますよね?」
「知っている。それがどうしたというのだ?」
「……私が万能の魔法を使えるのはそのスキルのおかげといったらどうしますか?」
「……なに?」
私がこれまで秘密にしてきたことを明かす。
マルタとアルテナが「大丈夫?」という目で見てくるが、ここはこれでいい。
これくらいしないと勝負には持ち込めない。
私はさらに、魔導銃を使わずこの場で七属性の小さな魔法球を空中に作り出す。
「おお……! これは……!?」
ダイアン様の疑いの顔が一気に驚きへと変わる。
これで証明はできたはず。
「見てもらった通りです。私は魔法スキルも、魔道具もなしに魔法が使えるのです」
「にわかには信じがたいが……だが、だから何だというのだ。娘と一切関係は……」
「いえ、関係あります。何故なら、マリンのスキルは体内の魔力が引き起こしているからです。もし、私の魔力操作技術をマリンに伝えることができれば、スキルを制御することが出来るかもしれません」
「……そんなことが可能なのか!?」
「はい、理論上は可能だと思います」
秘密を明かしていなかったら、バカな話と相手にもされなかっただろう。
しかし、秘密を話したことでダイアン様は顎に手を当て、深く考えこみ始めた。
ここで最後の一手を打つ。
「もし成功したら……その時はダンジョンコアと引き換えに、私たちの後ろ盾になってくれませんか?」
「……失敗したらどうする?」
「コアを無償で差し上げます。どうでしょう?」
さっきダイアン様は、ダンジョンコアを自分のものにする流れで話を進めていた。
つまり、本音ではとてもコアを欲しがっているはず。
これで打てる手はすべて打った。
息を飲み、ダイアン様の答えを待つ。
「……いいだろう、明日から一週間猶予をやる。その間マリンに進歩が見られなければ失敗とみなす。それでどうだ?」
「……ありがとうございます」
深く礼をする。
交渉成立だ。
その後、コアをダイアン様に預けた私たちはコーラルとともに部屋を出た。
「皆様、会談お疲れさまでした」
「ふう、なんとかなったわね」
緊張から解放され、そっと胸を撫で下ろす。
「いやーエレンさん貴族相手に交渉とかすごいじゃないですか! いやでも、貴族相手に裸土下座させてるくらいですし今更でしたね!」
「エミールとダイアン様じゃ全然威厳が違うわよ(胃腸が弱い事以外)」
でも、魔物とか暗殺者とかいろいろ経験したし、プレッシャーに強くなった感はある。
「でもエレン様、秘密話しちゃってよかったの?」
「交渉のためには必要だったからね……」
貴族だし、誠実そうだったから言いふらすことはないだろう……たぶん。
「けどさ、マリンのスキルを本当にどうにかできるわけ? 本当にタダでコアをあげることになったら許さないわよ?」
「だったらなんで反対しなかったのよ?」
「まあ……あんたが言うならできんじゃないの? って思ったし……」
「おやおや、ポンコツさんがデレてますね」
「デレてないわよ!」
そう言いつつ顔が赤くなっている。
私も恥ずかしくなるからやめてほしいんだけど。
「では、屋敷の外にご案内を……」
「あら、皆様! どうして我が家に!?」
コーラルが屋敷の外へ案内しようとすると、マリンが廊下の先から走ってやってくる。
「マリン様! 実は昨日お話しした会談を本日領主様と行いまして……」
「まあ、そうでしたの? 残念ですわ。今日来ていただけると知っておりましたらお菓子を用意しておりましたのに……」
その場にいる全員の顔が青ざめる。
うん、本当に知らなくてよかった。
「あの……よろしければなのですが、本日屋敷に泊まって行かれませんか?」
「え?」
「お友達とお泊り会というのを、一度やってみたくて……いかがでしょうか?」
マリンがもじもじしながら提案してくる。
どうしよう?
どうせ明日からマリンに魔力操作を教えることになるし、泊まっても問題ないと思うけど。
「えっと……私は用事がありますのでちょっと失礼を……」
「あら、それはいい提案ですねマリン」
逃げようとしたマルタの前に、シトリンさんが立ち塞がる。
いつの間に……。
「あら、お母さま!」
「では、皆様を客室へご案内いたしますね♪」
「え、私はその……!?」
そう言って、有無を言わさずマルタの肩を掴みながら、私たちを案内し始める。
どうやら帰るという選択肢はなかったようだ。
「じゃあ、お言葉に甘えましょうか」
「ありがとうございます! さあ、ミラちゃんも行きましょう!」
「うわ!?」
マリンは昨日と同じくミラを抱きしめ、さっさとシトリン様の後をついていく。
「しょうがないわね。アルテナ、行きましょうか」
「はいはい」
さて、貴族の屋敷でのお泊まりなんて初めてだけど……どんな夜になるのかな?




