66.不安なんてない。
ラスキスの二度目の来訪で結婚を決意して以来、みんなはとっても忙しそう。
特にカイルは王家とのやり取りがあるのか、帰りが極端に遅くなりがちだ。
それに、今からの流れとしてラスキスとの婚約→ツィリムの結婚式→ラスキスの結婚式、となりそうらしい。
つまり、ツィリムは自分の結婚式の準備でめっちゃ忙しいってこと。特にドレスを作ってくれる所が見つからずに困っているらしいけれど、大丈夫かな。
休みの日も朝早くから出かけているようなので、身体を壊さないか心配になる。
エルの休みの日にカイルと一緒に王宮へ行く日もあり、たった数日とは思えないほど急に暮らしが変わってしまった。
まあ、これもラスキスのことが落ち着くまでよね。
だから、これで大丈夫。不安なんてない。
自分ではちゃんと大丈夫だと思ってるし、これでいいと思ってる。うん。大丈夫。
それなのに。
「イズミ様、どうされましたか?」
向かい合ってお昼ご飯を食べている時に、イフレートが覗き込むように私を見ていた。
「ん? 全然? ちょっとぼーっとしてただけ。
これおいしいね。ありがとう」
「ここ数日、少しおかしいですよ?
何か悩みがあるのならいくらでも聞きますから、旦那様方に相談してみてはいかがでしょうか」
「ううん、別に何でもないよ。
ほんとに大丈夫だから」
私がいくら大丈夫だって言っても、イフレートの表情は曇ったままだ。
そのまましばらく考え込んでいて、何か思いついたようにふと顔を上げた。
「では、イズミ様。ご迷惑でなければ、私の相談に乗って欲しいのですが」
「うん、いいよ。どうしたの?」
あんまり話が繋がらないけれど、イフレートとは長い付き合いなのでどんな話でも聞く。
「大した話ではないのですが、やはり王子殿下とご結婚されて、この家に住まわれるということが、少しイメージしづらくてですね……」
「ん〜、どういうこと?」
「例えば、この家に住むのであれば、私が作った食事を食べられるのでしょうか?
そうであれば、王子殿下にご満足頂けるような食事とは、どういうものなのか、想像がつきません。
それに、洗濯はどうなさるのかも、気になります。もしも豪華な式典服の洗濯を任せられるのであれば、私には荷が重いかもしれません」
「……確かに」
気軽な気持ちで聞いていたけれど、意外と深刻な話かも。
「イズミ様は、そういった不安は無いのでしょうか?」
イフレートの紫の瞳が、私の心の奥深くを見つめてくれているような気がして。
あっ、心配してくれてるんだ、ってようやく気づいた。




