64.この国の未来とか
「ラスキスは、外交官なのよね?
本当のところ、この国はどのくらい戦争になりそうなの?」
自分の立場を自覚している、と褒められても、私自身はこの国の情勢にかなり疎い。
何しろこの国での年齢は半年もないほどなのだ。知らなくて当たり前だと思う。
「それは……難しい質問ですね。
我々、最前線で外交を担っている者も、帝国の実際の所をよく知らないのです」
困ったように眉根を寄せるのすら彫刻並に美しいとはもは罪よね。
じゃなくて。
「それはどうして? 攻められて、滅んだ国があるんでしょう?」
「ええ。なので、おそらくこちらへ攻めてくるだろうとは思っています。
ただし、彼らはこのアレタードだけでなく、カヤッタエラやシャーラセルラにも興味を示しているようです。
特にカヤッタエラへは実際に部隊を派遣して、攻め始めているという話もあります」
「えっ!? そうなの!?」
驚く私よりも、ツィリムが前のめりになる。
「この三国のうち、一番魅力に欠けるのがカヤッタエラのはずです。
なのに、何故真っ先に狙われるのか……。正直、理解に苦しんでいます」
「それで、カヤッタエラは、どうなっているんですか?」
ツィリムはそればかりが気になるようで、さっきまでの大人しさが一転、食い入るように話を聞いている。
「まだ本格的な攻勢に出られている訳ではないので、どうということは無さそうですが、この先は分かりません」
しゅん、と肩を落とすツィリムがとても可哀想だ。
「そうですか。よい情報を、ありがとうございます。お話の邪魔をして、申し訳ありません」
あんまりにも萎れてしまったから、カイルの膝から滑り降りてツィリムをぎゅーしに行く。
「ん。イズミ、ありがと」
少しは機嫌が上向いたようなのでラスキスとの話を再開する。
……ラスキスの視線が、ちょっと羨ましそうだったのは、気のせいだよね?
「じゃあ、まだまだよく分かってない、ってことなんだね。
でも、最近お隣さんになったばかりなら、そんなものなのかな」
「姫の心配を無くすためにも、より一層、職務に励みますよ」
ふわりと笑ってくれた女神様が美しすぎる。
「う、うん。身体を壊さない程度に頑張ってね」
その綺麗な笑顔を保ったまま、爆弾発言が始まった。
「ええ。実はこの結婚は、姫の持つ無限の魔素を、国のために使えるように上手く操縦しろ、という話でした。
つまるところ、姫を兵器として扱うということで、そのための【救国の乙女】なのだろうと考えていました」
さらりと断言されて、言葉を失う。
それが嫌だ、って話なんだから。
「ですが、こうして姫と話をさせて頂き、それは全く間違っていると気づきました。
きっと、神はあなたをもっと違う意味で呼んだのだと思います。絶対に、あなたの意に沿わないことにはさせません。
そのために、是非とも私のことを使って頂きたく思います」
お月様みたいな黄金の瞳が、強い強い意志に満ち溢れて輝く。
「きっと、役に立ってみせますから。どうか、前向きに検討して頂きますよう、お願い申し上げます」
「ええ。ありがとう」
私の発言のどこが彼に刺さったのか、今ひとつよく分からない。
でも、きっと私の考えが分かってくれたのだと思う。だからもう一度、私の想いをしっかりと伝えておかなきゃ。
「私は、絶対に戦争は嫌です。それが、私の望みです」
「ええ。よく、本当によく分かりました。
そしてそれは、私の望みであり、私の仕事でもあります。
どうか、姫の隣で、その望みを現実に出来るよう、願っております」
あまりにも輝かしい笑みと確かな強さの瞳の印象を強く植え付けて、ラスキスは王宮へ帰って行った。




