63.王子様、再訪
「冬の寒さも一段と厳しくなる季節の、これほど過ごしやすい日にお招き頂いたこと、誠に嬉しく思います。
どうか、姫君にとってよりよい一日となりますことをお祈り申し上げる所存にございます」
……相変わらず、お堅いセリフが脳みそを素通りしちゃうなあ。
女神スマイルに気を取られているから尚更。
今日は、ラスキスと会う2回目の日。
予定を組むのに苦労していたようなので、少し間が開いてしまったのも仕方ない事だと思う。
ちなみに、会う前にエルから
「女性側から2回目を誘うと、相手は受け入れてくれたものと思って期待すると思いますが、大丈夫ですか?」
と確認された。
美貌を除いても結構いい条件だと思うから、多分このまま結婚してもいいんじゃないかな、とか思ってる。
私もこの世界の感覚に慣れたなぁ、と遠い目をしそうになるけどね。
深くは考えないことにしよう。
前と同じ応接間に通し、カイルの膝の上に抱っこされたままでラスキスとの話が始まる。
ちなみに今日も警備の人達は沢山居てる。
王族相手だから、とカイルが気合いを入れて挨拶合戦をしている間ヒマだから数えてみたら、少なくとも8人は居る。
やっぱり多いよね?
結婚したらどうなるのかなぁ。
「では、姫君。まずはあなたの望みを教えていただけますか」
のーんびり考えごとをしていたら急に話を振られた。どうも挨拶のターンは終わり、話し合いに入ったみたいだ。
「望み、ですか……。
望みと言うのかどうか分かりませんが、特別なこととしては、一つだけあります」
「お聞かせ願えますか?」
「ラスキスは王族の人なので第一夫になると聞きましたが、私は今の生活が気に入っています。
申し訳ないのですけれど、実際の家の中での扱いは第4夫になりそうなのです」
言わないといけないと思っていたからきちんと言い方を考えておいたし、なるべくトゲのないように言えたと思うんだけれど、どうだろう。
「ええ、もちろん。
私のために表向きの席を譲って頂けたこと、誠に感謝致します」
ふわりと花が咲くかと思うような笑顔でそう言われた。
前回来た時はカイルに対して結構高圧的な印象だったけれど、今日はそんなことない。
カイルだけでなくエルやツィリムにも頭を下げる様子はかなりの好感触だよね!
「こちらこそ、実際の地位はあまり高くできなくてごめんなさい。
でも、それはラスキスが嫌なんじゃなくて、今の暮らしが好きなだけだから。
ラスキスが来てくれたら、またそれから色々考えようと思っているし」
「私のために姫君が配慮下さることを嬉しく思いますよ」
後光が差しそうな女神の微笑みは、直視するのも辛いほど美しすぎて、エルじゃなくても固まってしまいそうだ。
「いえいえ! 一緒に楽しく暮らせればと思っていますので!」
勢いよく返事をすることで、何とか場の雰囲気を持ち直させる。
ちょっと油断したらラスキスの独壇場になりそうな、そんなオーラを持っている人だから。
「それについて、一つ姫君にご理解頂きたいことがあるのですが」
「うん、どうしたの?」
黙って聞いていてもいい場面でも、はっきりと返事をする。
じゃないとラスキスのペースに飲み込まれてしまいそうだからね!
「私は、仕事の都合もありますので、ずっとこの家に住むことが、難しいかもしれないのです。
もちろん全力で努力は致しますが、常に姫の隣に居られるかと問われると、時と場合による、としかお答えできないかと存じます」
「仕事の都合って? 外国へ行くってこと?」
「はい、そうですね。私の仕事は外交がメインですから、遠くへ行くことが多いですので」
「うん。それは分かってるよ、大丈夫。
家には、居たい時だけ居てくれる感じにして貰えたらいいよ」
ずっと女神の微笑みを湛えていたラスキスが、目を大きく見開いたびっくり顔になる。
なんだか、生きてる人間だって再認識出来た気になるなぁ。
「居たい時だけ、というのは……?」
「外国に居る時はもちろんこの家には帰れないだろうけど、国内に居ても帰りづらい時もあるんじゃないの?
私に会いにくるだけで、こんなに厳重な警備が必要なんだもの」
「ええ、まあ、それはそうですが……。私が夫となるのに、そんなに都合の良い話では、姫君は納得出来ないでしょう」
「全然! 帰りたい時だけ帰って来てくれたらそれで充分だよ。無理して会いに来て、それで疲れて帰るのが嫌になったりしたら、その方が困るもの」
「姫様、本当に本当に、それでよろしいのですか?」
「え? うん」
急に感極まったように頬を赤らめてがばっと身を乗り出してくるけれど、私はそのテンションについていけてない。
「どうかどうか、私をひめさまの夫として頂きたく存じます!!」
「えっ、えっ??? そのつもりだけど、急にどうしたの?」
何が彼の琴線に触れたのかが分からなくて。
はっきりと求められて嬉しい気持ちよりも、理由が分からない困惑の方が大きい。
「私の仕事を理解した上で、ずっと傍には居られないことを許して下さる女性と出会えたことが、これ以上なく嬉しいのです」
「……それだけ? そんな人、いっぱい居るんじゃないの?
あからさますぎる言い方かもしれないけれど、私は今一緒に居てくれる人には困ってないの。
それよりも、将来的に私を守ってくれる人が欲しいから、ラスキスと結婚したいな、って思ってるのよ」
「将来的に、とは具体的にどういうことを望んでいますか?
私が力になれることでしょうか」
余程気に入ってもらえたみたいで、グイグイと出来ることを聞いてくれる。
「まず一番は、帝国と戦争にならないこと。それが無理でも、私が戦争の兵器として使われないようにすること」
「なるほど! 姫君は、私が思うよりも余程大きな視点でものを見ていらっしゃいますね」
「ううん、皆に教えて貰ってるだけで、私自身はこの世界のことをあまり知らないから。勉強中だよ」
「謙遜されることはありませんよ!
自分の立場をこれほどまでにはっきりと自覚しているとは、全く考えておりませんでした。
ぜひ、もっと詳しくお話をさせて頂きたく存じます」
キラキラした瞳で、こちらへ身を乗り出して熱く語り始める姿は最初に感じた女神様のような雰囲気ではなく。
仕事熱心な普通の青年のようだった。




