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アーマード・オウガ  作者: ハル
参:エターナル
59/65

二十五

 さて。

 勢い込んで駆け出した彼ら三人を待ち受けた最初の難関は、固く閉ざされた鉄の門扉(もんぴ)であった。

 腐っても違法組織の長。かち込む相手を“さぁどうぞ”と迎え入れるような真似はしてはくれないようだ。

「俺が鎧鬼(よろいおに)でブチ破ろう」

 と、己の影に手を這わせながら鳴海(なるみ)が言うが、瑞希(みずき)が一歩前に出てそれを(さえぎ)る。

「んー! ここは私の炎で一気にドカーンと!」

 が、京一郎は溜息混じりに彼ら二人の肩を叩く。

「あのな、お前ら。一般人に見られたらまずいモンを堂々と使おうとしてんじゃねーの」

 そう言って彼は腰の物の鯉口(こいくち)を切る。

 ――キン。

 場違いなほど澄んだ音を響かせ彼の手元が鋭く光る。

 と、次の瞬間。

 手元の輝きが門扉へと伸びる!

「「!」」

 鳴海と瑞希、二人が驚愕(きょうがく)を見せるよりも一瞬早く、中程から両断された門扉が邸宅の向こうへと倒れていった。

 それは正に神速の居合いであった。

 全くの自然体から閃く輝きは、常人どころか強者二人を以ってしても捉えられなかった。

「さ、行くぜ」

 (かんぬき)より上を斬り落とされてしまえば、頑強な鉄門も只の板同然である。

 残った下半分を乱暴に蹴り開けながら刀を肩に担ぎ、京一郎が頼もしき背を見せる。

 残された二人も顔を見合わせ頷き合い、京一郎の後を追った。



 組長宅の中は、時折響く爆発音や発砲音、その他怒声や悲鳴を除けば、思ったよりも平和なものである。彼ら全員、もっと死山血河(しざんけつが)死屍累々(ししるいるい)とした光景が広がっているものと思っていた。

「妙だな」

「うん」

 油断無く周囲を警戒しながら歩みを進める鳴海と京一郎の後ろで、派手な音に肩をびくびくさせている瑞希が呟く。

「何が……? 変なの……」

 肩越しに半眼で振り返りながら、溜息混じりに二人が答える。

「もしこれが単なる抗争だってんなら、お互いの組の鉄砲玉(構成員)がゴロゴロ転がってるだろーさ。だが」

「何もいない。つまり抗争じゃなくて(あやかし)である可能性が高い。でも」

「中から逃げてくる人間が全くいねぇだろ? 中の人間を逃がさねぇように暴れてるってこった」

「でもね、妖は基本的に力任せに暴れるものだろ? 妖がそんな風に暴れるとは思えない」

 リレーのように交互に説明を繰り出す二人。“だから妙なんだ”、と締めたところで揃って後ろに向き直る。

「つーかよ」

「さっきの勢いは何処に行ったんだよ……」

 最早涙目になっている瑞希は“はわっ”と悲鳴(?)を上げる。

「だって! だって! 何かさっきはいける気がしたんだもん! いざ踏み込んだら音とかなんか怖くって……!」

 苦笑いを浮かべる二人だったが、途端に京一郎が表情を引き締める。

「! ……悪ぃが、覚悟を決めてもらうぜ」

「? ……! 武装解放!」

 その意味に気付いた鳴海が即座に鎧鬼の右腕を呼ぶ!

 と。

「ぎゃぁぁぁぁ……っぐえぇぇ!」

 唐突に、(ふすま)を砕き暴力団の構成員と思しき男が吹っ飛んできた!

 哀れヤクザは鎧鬼の腕に殴り飛ばされ、二重の悲鳴を上げると庭にあった池の中へと消えていった。

「あ……やっちゃった」

「はん、気にすんな。どうせロクデナシだ。んなことより」

 破られた襖から、銃火器やら刀やらを持ったヤクザ共、そして何と妖までもが雪崩(なだれ)出てくる。どうも逃げながら何かに応戦しているようだ。彼らは皆一様に逃げ腰となっている。

 何と戦っているかは分からないが、その相手は一人たりとも逃がすつもりは無いようだ。

「おーおー。コイツは団体さんでゾロゾロとまぁ。ホントによく群れやがる」

 この状況を前に京一郎はなおも軽口を叩く。普通ならば面子(めんつ)を重んじるヤクザ者がこれを許すはずはない。しかし、彼らは皆、襖の向こうに注視したままで、鳴海たちのことなど歯牙(しが)にも掛けてはいない。それ程までに恐ろしい相手と戦っているのか。

「俺たちの事なんてどうでもいいみたいだね。ガン無視だよ」

「チッ……。気にいらねぇな」

「とっ、取り合えず、隠れて様子をみよーよ、ね? ね?」

 この状況、瑞希の案もあながち間違った判断ではない。彼女にその気は無いのだろうが、力量の分からぬ相手といきなり事を構えるのは愚策(ぐさく)である。様子を見る余裕があるのなら、その方がいい。

 だが悲しいかな、世の中とはそう上手く事が運ぶようには出来ていないらしい。


「鳴海……? そこにいるのは鳴海じゃないか?」


 破れた襖の向こうから、凛とした、それでいて且つ強い意志を感じる女性(、、)の声が聞こえてきた。声だけでとても凛々しい人物だと憶測できる程だ。

 その声は間違いなく、“鳴海”と、そう言った。

「鳴海……!?」

 驚いた京一郎が鳴海を振り返る。

 が、鳴海はその声を聞いた途端、まるで時を奪われたかのように動きを止めていた。いや、動きを止めたと言うよりも、視線が襖の奥へと吸われる様に固定されてしまった。

 ヤクザ共もようやくここに来て鳴海たちの存在に気付いたようで、彼らを振り返るが、襲いかかろうという意思は微塵(みじん)も感じない。彼ら程度のイレギュラーなど、何でもないのだ。

 が。刹那(せつな)

 その場一体が凍りつく。

「っひぅ……!」

 瑞希が頭を抱えてしゃがみ込む。

「……!」

 京一郎も思わず頭を抱えたくなるが、強く刀を握り締め、精一杯踏ん張る。

 これは。

 途轍(とてつ)も無い、途方も無い、


 殺気。


 なおも棒立ちの鳴海に気付いてか気付かずか、声の人物は一方的に語り掛け、その一言ごとに、声音と殺気が大きくなる。

「鳴海……! あぁ嬉しいぞ! こんなところで逢おうとはな! 大きくなったな……!」

 コツ、コツ、とヒールでも履いているのだろうか、殺気だけでなく、足音も聞こえてくる。

「少し待っていろ。すぐにコイツらを片付けるからな」

 奥の暗がりから、ようやく日の当たる所へと近付き、その姿が見え始める。

「あぁ、その鎧鬼も懐かしいな。昔私が教えた時と同じだな」

 コツリ。

 そして彼女は全貌を顕わにする。

 まるでやり手のキャリアウーマンのように、パンツスーツにヒールでパリッと決めた格好に、まるで常人ではないことの証明のように、存在感を放つ右腕の鎧(、、、、)

「ナミ姉……」

 大和撫子を地でいくような凛々しい顔立ちも、ポニーテールと言うよりも髷と言った方が似合っていそうな黒髪も、かつて自分の師であった頃と変わらぬ彼女がそこに居た。


 ただ、何故だろう。


 昔と全くの別人に見えるのは。


 黒い鎧の腕から滴る、


 真っ赤な真っ赤な、


 血の所為(せい)だろうか。


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