二十二
彼女の名は“佐藤 瑞希”と言う。
そうだ。鳴海と同じクラスであり、先程、京一郎の下へ訪れた生徒である。
事の始まりは、鳴海達と同じく学校の裏サイトの掲示板へ書き込まれた内容だった。小華より符術の扱いを学んでいた彼女は、件の記事を見たことで即座に例の不良少年が妖であると当たりをつけ、夜な夜な探し回っていたのである。その時に出会ったのが別の妖を追っていた彼らであった訳だ。
学校へ来るのを待つと言う手もあったが、碌々登校しなかった為に待つのが焦れったかったのだ。
そんな時に、噂を聞きつけた鳴海達が学校へ現れる。向こうは瑞希に気付かなかったが彼女はすぐにあの夜出会った二人だと気付く。故に、警戒を怠らなかった。特に、異形の体、つまり“鎧鬼”を身に着けていた鳴海に。
因みに、体育の時間にズルをしていた鳴海にすぐに気付いていた為、不良達の視線に混ざってこっそりと、彼女も鳴海に視線を向けていた。
そんな彼女を差し置いて、鳴海達の捜査は進展していく。遂に根城と思われる場所を見つけ出すのだ。
彼らの周りを常に嗅ぎ回っていた彼女も当然その情報を知り、乗り込もうと企む。
が、ここで教師控え室の影に隠れていたのを京一郎に気付かれてしまうのだ。
質問があったということでその場は誤魔化すことができたが、このことが一件を更にややこしい事態へと変化させる。
鳴海に遅れて現場へと到着した彼女が見たものは、既に妖と化した少年と全身を鎧に包んだ鳴海の姿。
それを見た彼女は鳴海の方も妖と断定、襲い掛かってしまうのだ。
同じ頃、安倍と再会した小華は安倍自身が描いた似顔絵と事件のあらましにより、瑞希の行動、或いは暴走に気付く。
大よその概要を理解した安倍は瑞希が炎の術を得意としている情報を聞き、天之尾羽張と共に京一郎を回収、現場へと急行するのだ。
その後は京一郎の介入により事なきを得るが、彼女がもう少し早く、闘う鳴海の姿を見ていれば状況は好転していたかも知れない。
*
「なんじゃ。結局事態を悪化させたのはお主ではないか、京一郎」
呆れた、と言いたそうな顔をした安倍が京一郎に視線を送り、溜息をつく。
「ぅえっ!? そりゃねーだろ!」
「その通りですよ、葛様。悪いのは全て私の不肖の孫娘が原因です」
と、小華が助け舟を渡す。
「おば……ちゃん……それはないんじゃッ痛ぁい!」
再び正座をさせた瑞希の膝の上に、瓦礫を積み上げていた小華が彼女の頭を叩く。
「発言を許可した覚えはありませんよ。それに私は以前、“五月の鎧鬼”について話したことがあるはずですよ。その上で妖と思って攻撃を仕掛けるなんて。いいですか、そもそも瑞希さんは思慮に欠ける所があると何度も何度も……」
「あ、あの……。話が脱線してしまいますので。俺ももう気にしていませんし、“鎧鬼”が妖扱いされるのには慣れていますから」
と言って、京一郎を見やる。彼にも妖扱いされたことがある。
「五月さん。甘やかしてはいけません。そうやって周囲が甘いことを仰るからこの子も学習と言うものをせず……」
と、再び説教が始まりそうになったので。
「ままま、取り合えずお説教は一旦止めにせんか? それは家でもゆっくり出来るじゃろ? それより今は」
一瞬顔を輝かせ、再び暗い表情になる瑞希を放置し、鳴海に視線を移す。
「お前さんじゃ、鳴海よ。何故、戦いを止めなんだ? 襲い掛かられたとて、撤退するなり話をするなり方法はあったじゃろ? 何故真っ向からぶつかり合った?」
途端に、鳴海の表情が陰る。
「? 何があった?」
何度か口を開きかけ、閉じる、ということを繰り返した後、ようやく話始める。
「実はあの妖、あの人のことを示唆するようなことを言ったんです」
あの人。その言葉を聞いた安倍は目を見開く。
「力づくで聞き出そうとしてたところで、彼女の符術? で妖を倒されてしまって、その、激昂してしまって……。済みません……」
頭を垂れる鳴海だったが、安倍はと言うと、それどころではなかった。神妙な顔つきで顎に手を当てると、俯き、考え込む。
「鳴海よ、間違いはないのか?」
「確証があるわけではないんですけど、ヤツは“鎧鬼”を知っていました」
「ふむ……」
と、ここで置いてきぼりになっていた京一郎が口を挟む。
「よぉ。その話、俺は聞かねー方がいいのか? だったら外出るぞ」
「私たちも聞かないほうがいいでしょうか、葛様」
「あー、いや、うむむ」
話を振られた安倍は困ったように頭を掻きながら、横目で鳴海を見る。
「えと、いずれ話すつもりではあったから問題ないよ。ただ、詳しく話すと長くなるから簡単になるけど」
と一拍置き、あの人について語る。
「俺や安倍さんが言ってるあの人ってのは、俺に“鎧鬼”の扱いを教えてくれた、言ってみれば師匠みたいな人だよ」




