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アーマード・オウガ  作者: ハル
参:エターナル
55/65

二十一

 座り込む鳴海(なるみ)に向かって、京一郎が大股で近付いていく。

「京兄……」

 ――どうしてここに?

 しかし呆然(ぼうぜん)としてしまった彼の脳はその言葉を(つむ)げない。

 ただ近付いてくる京一郎をぼんやりと眺め、そして。

「こんの……バッカ野郎ォォォォォォォォォッ!!」

 (ほう)ける鳴海の頭頂(とうちょう)に、拳骨を叩き落した。

「いっ!!??」

 それは素人の拳とは訳が違う。しっかりと武を修め、鍛え、練磨(れんま)された拳である。衝撃は鳴海の頭蓋(ずがい)を通り、体の芯を痺れさせた。

「~~~~~ッ!! 何するのさ!」

「何するじゃあねぇッ! 俺やばーさんは何てったよ!? 無理するな、無茶するな、口が酸っぱくなるほど繰り返しただろ! お前になんかあった時、俺やばーさんが『退魔士の運命だ、仕方ない』で済ませられるような薄情な奴だと思うか!?」

 その言葉に。

「……ごめっ、俺……」

 鳴海の瞳が僅かに潤んだように見える。京一郎の拳の痛み、ではないだろう、自己の行っていたことの重大さに気付いたからだ。

「あ、ちょ、泣くんじゃねーよ? 反省してりゃ充分だって。それに」

 と言って、彼は後ろを振り返る。

「泣かされんのはこれからだぜ?」

 そこに立っていたのは他ならぬ、彼らの上司、安倍。彼女はこの状況にそぐわぬ満面の笑みで鳴海を見下ろしていた。

「あ、べ、さん……」

「どうしたのじゃ? 鳴海よ。そんな引きつった顔をして。心配で直々に様子を見に来たんじゃ、もちっと元気な笑顔を見せてくれんかえ?」

「あ……いや、その。そっ、そっちの方は?」

 何とか話題を逸らそうと、小華(こはな)の方に視線をずらす、が。

「これは向こうのお説教用に呼んだワシの知人じゃ。お前さんはこれからワシとゆ~~っくりおしゃべりじゃ。他人に気を配らんでもよいぞ」

 と、視線を(ふさ)ぐように移動してくる。

「あの……」

「なんじゃ?」

「すみませんでした……」

 観念した鳴海は先ず謝罪を優先した。

「どうしたのじゃ、鳴海? いきなり謝るとは! なんぞ悪いことでもしたんかのう?」

 ワザとらしい彼女の口調に鳴海は戦慄(せんりつ)を覚える。あぁ、これは相当怒っている。

「なぁ、鳴海よ」

「はいっ!」

「言いたいことは色々あるがの?」

「はいっ!」

「先ずは、正座じゃ」

「はっ……い?」

 鳴海は自分が尻をついている地面の状況を確認する。

 放棄されたこの工場はコンクリートの床がはがされて地面が剥き出しである。そして、鳴海と少女が暴れた所為(せい)瓦礫(がれき)やら石ころやらが其処彼処(そこかしこ)に散らばっている。

 ここに正座すると、きっと、痛い。

「あの、正座って……」

「正座じゃ」

「でも地面で」

「正座じゃ」

「あの」

「正座」

 笑顔の安倍は彼の鼻先まで顔を近付け、唯々(ただただ)正座を要求し続けた。

 観念した鳴海は大人しく(すね)を地面へと接触させる。

 夏場が近く、ひんやりとした地面は存外心地よかった。

 それだけが唯一の救いか。



「と、いう訳でじゃ。今後くれぐれも一人で行動することは避けるようにするのじゃ。ほっとくとお前さんはいっつもこうじゃ! 以上!」

 と、可愛らしくむくれる安倍にもう何度目になるか分からない「すみませんでした」を繰り返した鳴海は、膝に手を着き、痺れる足で何とか立ち上がる。

「ところで、そろそろ聞かせてもらってもいいですか?」

 長々と説教して幾分(いくぶん)機嫌を直したらしい安倍が「何のことじゃ?」と彼を見上げる。

「あの女性ですよ。それに例の魔法少女の件は一体どういう進展したんです?」

 鳴海が見やる先には、正座させられた魔法少女が未だ初老の女性に説教されている、という何だか不可思議な光景が見受けられる。

 何故安倍と共に現れた女性が、捜索していた少女に説教をしているのか。いい加減何が何だか分からない。

「それならば、この子の方から説明させましょう」

 と、彼らの話が聞こえていたか、老婆がこちらを振り返り、言った。地獄耳、と言うより、身体機能が見た目よりもずっと若いのだろう。

「ほら、瑞希(みずき)さん。説明なさい」

 と、横の少女に促す。

 が。

 少女が動こうとしない。

「瑞希さん?」

「あ」

「あ?」

「足……痺れて立てないよぅ……。座ったままでいい……?」

 と、情けない第一声から、事の解明が始まった。

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