二十
京一郎達がそこに辿り着いた時、闘いは既に終焉へと近付いていた。
少女が構える杖の先端には巨大な火球が形成され、鳴海も全身武装を行い、かつ何か必殺の構えらしきものを見せていた。
「まずい……! 早く止めねぇと!」
しかし、間に合うのか。
火球は不死鳥へと孵り、燃え盛る紅蓮の翼を翻している。
声を掛けたところで、気付きはしないだろうし、止まりはしないだろう。ならば自身が飛び込み、止めるのが最善。しかし、如何せん、距離がある。
「間に合ってくれ……ッ!」
京一郎は携えた刀を腰に構え、駆け出す。
と、その背に声が投げかけられる。
「いいえ、間に合わせます」
発したのは彼と共にこの場に来ていた小華、その人である。彼女は着物の袖から一枚、短冊のような紙切れを取り出す。それには何やら漢字のような、記号のようなものが描かれている。
「お行きなさい」
一言、彼女がそう言った瞬間。
「――っちょおぉぉぉッッッ!!?」
小華の手元、正に短冊より。“ゴウ”と音を立てて猛烈な突風が吹き出し、京一郎を大きく吹き飛ばす!
(いっ、今のは符術かッ!? 人一人あっさり吹き飛ばす術をこうも簡単に!)
が。何はともあれ、風の後押しを受け、二人の激突には間に合ったようである。
京一郎は大きく息を吸い込むと、
「いい加減にしねぇかッッ!!」
腹のそこから声を張り上げた。
しかし、その程度で両者が止まるなどとは思っていない。戦闘行為に集中している人間はアドレナリンが過剰に放出され、振り上げた拳を簡単に止めることなど出来ない。
ならば。
実力行使である。
相見える不死鳥と鬼の間に飛び込んだ京一郎は、腰に構えた刀を一閃する。
それは素晴らしい居合い、否、“居”していない以上抜刀術か。目にも留まらぬその白刃は、雄々しき不死鳥をすり抜けた。
当然だ。炎の塊に斬撃など通用しない。
しかし、それを意に介さず京一郎は空中で腰を思い切り捻り、不死鳥に背を向ける。次の相手は『砕刃』を使い、迫る黒き鬼。
鳴海は“眼”の力で、割り込んだ京一郎に気付いていた。だが、一度放った技はそう簡単には止まらない。おまけに、鎧鬼という外的要因により加速した技。彼個人の力では止めようがない。
鳴海の蹴りは京一郎の頭上、袈裟懸けに切り下ろすように振り下ろされる。
京一郎はこれに対し、受け止めるでも、払うでもない構え、下段に構えた。そして、振り下ろされる蹴りに合わせて振り上げる!
と、鳴海の蹴り足は京一郎の僅か側面を通過した!
“鎬”。
日本刀の側面、僅かに山になっている部分。それが鎬である。
日本古来の剣術では、この僅かに山になっている部分を用いて相手の刀の軌道を逸らす。現代剣道の形は元々古流剣術の流れを汲んでいるが、この動きが含まれている。動画等を探して、見て貰えれば分かるが、振り下ろされる木刀を下から掬うように払う動きがそうだ。因みに、コツは極々僅かに半円を描くように木刀を振り上げることだ。
京一郎の横を通過した鳴海の蹴りは深々と地面に突き刺さった。
では、炎の鳥は?
このままでは京一郎の背に直撃し、消し炭になってしまう!
――否!
京一郎の白刃が通過したその直後から、炎の鳥は形を歪ませ、彼の刀に吸い込まれていった。
“天之尾羽張”
彼の刀は炎を喰らう霊装、それだったのである。
やがて、天之尾羽張が不死鳥を喰らい尽くした頃。黒の鬼は影へと溶けて、魔法少女はぺたん、と可愛らしく尻餅をついた。




