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アーマード・オウガ  作者: ハル
参:エターナル
53/65

十九

 燃える。


 焼ける。


 ()け落ちる。


 鳴海(なるみ)が求めていた情報を。

 持っていたであろう(いびつ)な鬼は。

 紅蓮(ぐれん)の炎に包まれて。

 歪な舞を踊り狂う。

「……ぁあ……」

 彼はただ呆然(ぼうぜん)と、その(さま)を眺めていることしか出来なかった。

 せめて情報だけでも残して()け。

 そんな彼の想いを嘲笑(あざわら)うかのように、鬼はパクパクと鯉のように口を動かしていた。

 完全に炎に包まれた状態では酸素の補給が出来なくなる。炎が周辺の酸素を喰い尽すからだ。そうなると、酸素を求めようとも口に入るのは灼熱(しゃくねつ)の空気のみ。ソレは(のど)を焦がし、声帯を焼き尽くす。

 例え死の間際(まぎわ)であったとて、鬼が必要な情報を喋ったとは限らない。だがゼロではなかった。

 しかし、その僅かな可能性すらその炎が包みこんだ。


 ――ジャリ。


 火柱の向こう、廃工場の入り口側。

 人が踏み入る気配。

 鳴海は火柱の向こうを(にら)む。

「やっぱりアナタも魑魅魍魎(ちみもうりょう)の一味だったって訳ね」

 と。

 声がする。

「仲間割れかしら? 取り合えず弱ってそうな方から仕留(しと)めたけど」

 少しずつ火柱が収まり、その向こうにはあの少女が。

「次はアナタの番よ?」

 聞き覚えのある声。見覚えのある姿。見紛(みまご)う事なき、あの夜の魔法使い。

 だがそんなことはどうでもよかった。

 炎が収まり、焦げ跡のみ残る地面が、静かに鳴海に語りかける。


 ――残念だったな――


「まぁ大人しくしてれば痛くないように……っひ!?」

 訥々(とつとつ)と語っていた少女の言葉はしかし、小さな悲鳴へと変わる。


「許さん……っ!!」


 憤怒(ふんぬ)に満ちた金の瞳が、目の前の少女を敵と見做(みな)した。



「ブレイズッ! ブレェイズッ!!」

 少女が杖を往復すると、それだけで二つの火球が生み出される。

「……っ!」

 少女に接近していた鳴海は、急制動をかけると横っ飛びに回避する。狙いを外した火球は“ボンッ!”と派手な音を立てて地面を(えぐ)る。

 (あやかし)を一撃で焼き尽くすところから察するに、その火力は尋常(じんじょう)なものではない。いくら鎧鬼(よろいおに)を身に(まと)ってはいても直撃を食らうわけにはいかない。

(くそっ、近づけない! 『雷電』を……!? いや、ここじゃ広すぎる! 当たらない……!)

 先程から接近を(こころ)みては、少女の火球に(はば)まれること、(すで)幾度(いくど)目か。圧倒的な火力はそれだけで身を護る(たて)と成る。遠距離への攻撃方法を持たず、『断空』による接近も行えない鳴海は、完全に攻めあぐねていた。

 しかも、既に全身武装を行ってから随分と時間が経過している。これ以上長い時間は闘えない、しかし武装を解除したら少女の火力に耐えられない。

 詰将棋(つめしょうぎ)の様な状況に鳴海は只々、焦りを重ねていた。

 では、少女は一方的に鳴海を追い込んでいるのか?


 答えは、否、である。


 少女は鳴海の持つ闘志に、鎧鬼の持つ潜在能力に、完全に畏怖(いふ)してしまっている。黒い鬼を近づけさせないように我武者羅(がむしゃら)に攻撃を仕掛けているだけであるが、それが逆に功を奏しているだけであった。

 しかし何にせよ。

 現状を打開する何かを掴まなければ、鳴海の勝利は絶望的である。

(こうなったら一か八かだ。あんまり使ったことないけど、『アレ』を試すか……! 『雷電』よりは可能性がある!)

「……?」

 少女への接近を止めた鳴海は、構えを変えた。

 空手で言う『四股(しこ)立ち』、正に相撲の四股を踏む様に、股を開き、腰を落とす。地面に根を張る様にどっしりとした構え。

(ふ、ふん! 何よ、どうせハッタリなんでしょ!)

 鳴海の変化に一瞬面食らった少女だが、飛び道具を持っていないのは分かっている。

 だから。


 最大火力で焼き尽くす!


「ブライトッ! フェニィィィィックスッッ!!」

 少女の叫びと同時、鳴海に向けた杖の先端に生まれた巨大な火球。しかしソレは文字通り、卵であった。

 火球の左右からはズルリと翼が伸び、正面からは不死鳥が首をもたげる。炎の卵から、炎の巨鳥が(かえ)ったのだ!

 火の鳥はジロリと鳴海を(にら)むと、翼をはためかせ、一直線に彼へと飛翔する!

(勝った……!)

 少女は心の中でガッツポーズを取る。スピード、規模、威力。どれをとってもかわせる訳がない無い。

 しかし。


 ――バシュッ!


 使えないはずの、圧縮空気を噴出する音が響き渡る!

「『砕刃(さいば)』!」

 その技は『断空』ではなかった。鳴海はさながら(ひょう)のように飛び出し、飛び廻し蹴りを放っていた。

 圧縮空気を噴出して、自身の攻撃の加速を行うこと事態は同じ理屈で成立しているが、噴出する位置が違う。

 即ち、『砕刃』は足から噴出する。足の関節各部から噴出する空気が、神速の跳び蹴りを可能にするのだ。

 しかし、足、つまり蹴り技と言うものはパンチとは違い熟練やセンスを要求する。元々類人猿であった人間は、足による攻撃を行うようには出来ていないからだ。

 故に、あらゆる面で未熟である鳴海にとって、この技は上手くいくかどうか分からない賭けを含む技であったのだ。

 しかし、その賭けに彼は勝利した。

 後は、『砕刃』が炎の鳥を貫き、少女を打ち倒すか、鳴海が吹き飛ばされるかの勝負である。

 果たして、勝負の行方は。


「いい加減にしねぇかッッ!!」


 鳥と豹、二者の間に現れた剣士によって、結果を待たずに終わりを告げた。

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