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アーマード・オウガ  作者: ハル
参:エターナル
49/65

十五

 時は同日放課後、英語教員用の資料室で京一郎(きょういちろう)と落ち合った鳴海(なるみ)は昼休みに起きた顛末(てんまつ)仔細(しさい)に説明していた。即ち、“小華(こはな)”について。

「ふーん……。話の流れから察するに女か」

「ね? 条件ピッタリだよね」

「ま、確かに気にはなるがそっちはばーさんが何とかするんだろーよ。俺たちが気にするのは目の前の(あやかし)だ」

「だね」

 一旦魔法少女(仮)の件は忘れて、 現在追っている妖に話が戻った。元々この話をするためにここまで来たのだった。

「多分ばーさんも同じこと言ってるんだろうけどよ、くれぐれも油断しないことだぜ」

「分かってるよ。それでも鎧鬼(よろいおに)の力があれば何とかなるよ、きっと」

 と、京一郎の手がすぅ、と鳴海の額の前まで伸びてきて、

 ――ぺちっ。

 小気味よい音を立てデコピンを放った。てっ、と小さく悲鳴を上げる。

「それが慢心っつーんだよ。そうやって散っていった仲間を腐るほど見てきたぜ、俺は。多分、ばーさんもそうだろう」

 鳴海は少しバツの悪い顔になると、素直に「ゴメン」と言った。

「いや、別に怒ってるわけじゃーねーけどよ。俺もばーさんもお前が心配なんだよ。一人で動くことがそこそこ多いだろ?」

「うん……。そうだね、気をつけるよ」

「分かればよろしい」

 生徒指導をしている教師と生徒のような。

 そんな空気にお互い思わず笑いがこぼれた。

 妖などがいなければ、そんな世界もあったのだろうか?



 鳴海は一人、街外れにある潰れた工場を訪れていた。そこはつまり、例の妖(になった生徒)が時々現れると知った場所。こんな場所で何をしようというのか。悪事であるのは確かであろうが。

 慎重に中を覗きながら、工場内へ侵入していく。

 建物の中からは人の気配を感じず、ガラスの付いていない窓からヒラリと入り込む。

 中はだだっ広い空間が広がっているだけで特にこれと言って、何の工場だったのか、とかを知り得る要素はあまり無かった。長い鉄骨がいくつか詰まれているのと、恐らくここを利用する連中が持ち込んだのであろう、ソファーや机代わりらしいドラム缶、それから酒瓶やごみが散らばっているばかりである。

 工場が閉鎖される時に、使えそうな機械などは、競売(けいばい)にでも掛けられたか、別の営業所へ持っていかれたか。何にせよ、何の施設だったのか、そもそもここが潰れたのか単なる閉鎖なのか、全く以って分からなかった。

「ま、どーでもいいか。……それにしても、こういうところって何でこう、不思議と郷愁(きょうしゅう)感というか、物悲しさと懐かしさが溢れるんだろーな……」

 このような場所だと独り言がつい、出てしまう。そう思っていた鳴海の(つぶや)きに応える者がいたのには、流石(さすが)の彼も驚いた。

「そんな寂しい場所で、テメェは何をしてるんだ」

 振り向いた彼の視線の先には、資料で見た妖であろう男の姿があった。

「……! 初日でいきなり接触できるとは思ってなかったぜ」

「は?」

「いや、こっちの話だ」

「じゃあ次はこっちの話だ。ここに何しに来た」


 ――ジャリ。


 男が一歩近付く。その一歩には十分な殺意が込められていた。

「当ててみな?」

 鳴海はあえて余裕の態度を作って見せた。しかし、先程注意されたばかり。これは余裕などではない。

「俺に用があるならぶっ殺す。俺を探ってんならぶっ殺す。それ以外でもぶっ殺す」

「とにかく殺されるのな」

「諦めろや。俺のシマに入って来たテメェが悪い」


 ――ジャリ。


 更に一歩、近付いた。

 殺気も更に膨れ上がる。

「へっ。たかがヤンキー風情が俺に勝てると思うなよ。俺は柔道空手は黒帯、剣道有段者、おまけにコマンドサンボの使い手だぜ?」

 勿論(もちろん)、これはただのハッタリだ。

「へぇ、そうか。でも格闘技ってのは所詮(しょせん)人間用の技だろ? そいつは俺にも通用すんのか?」


 ――ジャリ。


 もう一歩踏み出して。

 溢れ出たのは殺意の代わりに、触手状の影。

 男の全身に(まと)わりつくと、

 そいつは、あっと言う間に怪物の姿へと変貌(へんぼう)した。

(……? なんだ? 妙な妖だな。鬼……に似ているような気もするが何か、(いびつ)……?)

 ソレには角が無かったり、爪ばかりが妙に鋭かったりと、以前にまみえた鬼とは少し違っているような感じだった。

 しかし、妖と言うのは千差万別。単なる個人差だろうと割り切ると、即座に戦闘態勢を整えるべく行動を起こす。

「武装解放!」

 しゃがみ込み、己の影に触れた鳴海は叫ぶ。

 溢れ、右腕に纏わり付く影。

 そして(あらわ)れる鳴海の武器、鎧鬼(よろいおに)、その右腕。

 闇の雫を振り払い、立ち上がる鳴海だったが、次の言葉に彼は余裕と呼ばれる一切のものを失った。


「鎧鬼じゃねーか? あの人の仲間かよ」

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