十二
「きゃーーーーっ!」
黄色い悲鳴が青空を裂いた。
そう、黄色い悲鳴だ。
「安倍くーーん! カッコいいーーっ!」
「すごーーいっ! もう5人抜き!」
と、注目を浴びているのは鳴海であった。
現在行われているのは体育の授業。
男子はサッカー、女子はフットサルという構成で授業を行っていたのだが、女子の面々は早々にゲームに飽きてしまい、男子の応援、あるいは観戦という形で授業に加わっていた。
教師も元々長々と女子がスポーツに熱中するとは思っておらず、サボっていなければそれでいいか、と黙認していた。
さて、そんな中、鳴海が注目を浴びているのには当然理由がある。
理由と言うべきか、単にサッカーで活躍しているからに過ぎないのだが、その活躍の仕方が半端なものではなかったのだ。
ドリブルをすれば、サッカー部すらごぼう抜きにし、攻め込まれればキーパーを差し置いてゴールを守り、シュートをすれば百発百中の正確さ。正に八面六臂の大活躍。
それもそのはず。
鳴海はこっそりと“眼”の力を使っているのだから。
一般人の、まして高校生の身体能力くらいなら、“眼”を使った鳴海にとって止まって見えるようなもの。
相手の動きが丸分かりだからサッカー部だろうと抜くのは容易いし、シュートコースが見えるのだからゴールを守るなど朝飯前、キーパーの動きも読めてしまえば何処にシュートすればいいのかなど素人でも簡単だ。
鳴海のワンマンプレーにより、圧倒的な点差を以って、授業は終了となった。
「安倍! 凄いじゃないか! まるでプロだったぜ!」
「いや、ありゃプロどころじゃねーぞ」
「安倍、サッカー部に来いよ! 全国も夢じゃねーぜ!」
と、授業が終わると同時、まるでヒーローインタビューの如く鳴海の周りに人だかりが出来た。
神秘の力を使っておいて得意げな顔をするのも、内心申し訳なく感じるが、これも彼の策の内。いや、大したことない、と謙遜しておいた。
そんな彼の控えめな態度に女子はひっそりと溜息を漏らした。
鳴海は元々悪くない顔立ちをしている(イケメンというほどではないが)。最初は多少怖い印象を持たれがちだが、慣れれば鋭くキリッとした感じである。ちょっと悪ぶったところがカッコいいと思いがちな年代だということを考慮に入れれば、周囲の反応も頷けるか。
が、そんな人間を好ましく思わないものがいるのもまた事実である。
鳴海は自身の背後に浴びせられるネットリとした視線にこっそりと笑みを浮かべた。
*
その日の午前の最後の授業は数学であった。
新しい単元に入り、数学を苦手としている人間にとっては、目の前に更なる壁が立ち塞がることだろう。
当然、問題を教師に当てられて黒板まで歩むも、解答を導き出せず席へ逆戻りする人間も少なくなかった。
そんな中、何ということもなく解答し、周囲の注目の中悠然と席へと戻る者がいた。
そう、鳴海である。
当然といえば当然なのだが、彼は1年と数ヶ月前に大学受験を受けている身である。少し教科書を見返せば基本的なところは容易に思い出せる。
『凄い』だの『カッコいい』だの『頭までいいのかよ』だのというひそひそ声を聞きながら黒板を見る鳴海の耳に、微かに舌打ちが聞こえてきたのはそのすぐ後のことであった。




