十一
そのままつつがなく授業も進み、折り返し地点の昼休み。昼食の誘いを丁重に断った鳴海は、体育館裏へと足を運んでいた。
「よう、待ってたぜ」
「京兄」
彼を待っていたのは京一郎である。とりあえず初日ということで、今後のことを軽く話しておこうと、ここで落ち合う予定にしていたのだ。
「どうだったよ? 俺の授業は?」
パンの包みを破りつつ京一郎が言った。
「あぁ、予想してたよりずっと分かりやすくて驚いたよ。もしかして本当に教員免許とか持ってるの?」
鳴海の言葉に気をよくした京一郎は鼻の穴を膨らませながら得意げに言った。因みに今回、必要書類は偽造している。警察がバックにいると非常に楽である。
「いや、持ってるわけじゃあねぇよ。英語を話せるのは海外うろつくなら自然に身につくモンだからだがな」
そこで、パンを齧ると少し遠い目をしながら言った。
「昔、受験勉強してる女の子に声をかけるために必死に教え方ってモンを……」
「あ、卵焼き入ってる」
「ちょっとは食いつけよ!」
京一郎が“女の子”と言った時点で話を聞くのを止め、弁当の包みを開けていた鳴海が嬉しそうに言った。小さく「頂きます」と言って箸を手に取った。
「……今、卵焼きが入ってるって言ったよな。ソレまさか誰かの手作りじゃ……。まさか……彼女がっ!?」
「んぐ。違うよ。手作りではあるけど、安倍さんが作ってくれたんだよ」
早速卵焼きを口にした鳴海はしっかり嚥下してから答えた。行儀はいいらしい。
「あのババァもマメだよな……。つか俺のはねーのな」
「流石だよね。料理も一流だよ。料亭で出しても遜色ないよ、これ。美味い……」
「この世で最高の教師ってのは無限とも思える時間かも知れんな……。」
呆れたように言う京一郎は、牛乳でパンを飲み下してから続けた。
「どうする? これから」
「例の妖はどうなの? 何か職員室で話は聞けた?」
「おう。そのことだがな、学校では割と大人しいようだな。大人しいっても、別にいい子ちゃんって意味じゃなくて、授業中に暴れたりとか無茶はしねぇって意味だ」
「……逆に厄介かも知れないね。節度を守ってる感じか。表立って余計なことをしない分、目をつけられにくい」
「俺は暫く教師として情報を仕入れよう。お前は生徒側から頼む」
鳴海に背を向け校舎裏から立ち去りながらそう言った。そして一つ付け加える。
「くれぐれも目立たないようにな。最近のガキは何するか分からんからな」
しかし鳴海は一瞬思案すると、こう返事をした。
「いや、目立ったほうがいいかもしれない」
「へぇ? その心は?」
足を止めた京一郎は振り返りながら聞き返す。
「蛇の道は蛇、だよ」
――少し、楽しみだよ。
鳴海は小さく、そう言った。




