十
「父の仕事の都合で、少しの間お世話になります。皆さんどうか、よろしくお願いします」
と、言う設定で自己紹介を終えた鳴海は、生徒たちの興味本位の視線を全身に浴びながら、指定された席へと座った。
父の都合と言うのは勿論、真っ赤な嘘。短期間のみの転校が許されそうな言い訳がこれしか思いつかなかっただけである。鳴海の両親は、五月の隠れ里(里といっても表向き山間部の小さな村だ)で元気に過ごしている。書類さえ偽造してしまえば難しいことはなかった(試験が少しだけ難しかったのは秘密である)。
今頃京一郎も職員室で自己紹介をしている頃だろうか。
「そういう訳で、短い間だが彼はうちの学校の生徒だ。皆仲良くすること!」
そう言う教師の一言でホームルームは終了となった。教室の者達は普段ならみな思い思いに散っていくのだろうが、格好の玩具がいるのだ。そういうわけにもいかないだろう。
*
「ねぇねぇ! 安倍君は前は何処に住んでたの!?」
「部活は? 何かやってなかったのか?」
「お父さんのおしごとって?」
嗚呼、これが転校生が受けなければならない試練か。漫画とかでは良く見るが、現実だとこんなに大変だとは。
周りからの質問攻めに、鳴海は若干身を引き気味にしていた。普通ならば自分の身の上を正直に話せばいいだけなのだが、彼の場合は事前に覚えてきた偽のプロフィールを答えなければならない。
身の上に矛盾が生じないように作ってもらったので、間違えた回答をする訳にはいかない。因みに安倍という名は偽名だ。適当なものが思いつかなかったので、安倍から拝借したのだ。
これなら、妖と闘っていたほうが気が楽かもしれない。
この闘いは神経をすり減らす。
チャイムが鳴るまで、彼の苦悩は続くことになろう。
*
私立学校であっても、流れるチャイムは鳴海自身が学生の時に聞きなれたソレと、大差ないものであった。
このチャイムを皮切りに、質問攻めをしていた生徒たちも皆自分の席へと帰っていった。そこそこの進学校である為か、歳相応に好奇心が旺盛であっても、授業は真面目に受けているらしい。
そんなことを考えている内に、一時間目の教師が扉を開けた。
(一時間目は英語だったか……? ……!)
英語というのでハッとなった。彼は何の教科と言っていたか?
「よーっす! 初めましてだな! 短い間だけどよろしくな!」
と、妙にフランクな感じで教室に入って来たのはそう、霧夜京一郎その人であった。
鳴海の遠縁であり、今回の非常勤教師としての勤務も鳴海の関係であるとして、学校に潜入することになっている。そうした方が今後の動きが取り易いと考えたからだ。
しかし、授業もいきなり彼の受け持つものになるとは。
既に気疲れ気味の鳴海の表情に気付いた京一郎は、一瞬だけ目配せすると、自己紹介を行い、授業を開始した。




