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アーマード・オウガ  作者: ハル
参:エターナル
43/65

 春が終わりを告げ、季節が梅雨へと移り変わる頃。

 これから訪れる長く、うっとおしい雨はしかし、植物へ活力を与える命の水。その後に迎える強い日差しの下に青々とした力強さを芽吹かせる元となるのだ。

 梅雨を迎える前の綺麗な青空を見上げ、鳴海(なるみ)はそんなどうでもいいことを考えていた。

「お~い。まだ、ウジウジ考えてんのか? いい加減諦めろって」

 自分の前を歩く京一郎の声に思考が現実へと帰ってきた。帰ってきて、京一郎の向こうに見えるものに再び現実逃避をしたくなった。

 珍しくネクタイを締め、ボタンもきっちりと()めた京一郎はその背後に巨大な灰色の建築物を背負っていた。いや、単に進行方向に京一郎が立っているというだけなのだが。

 その建築物は、きっと誰もが目にしたことがあるであろう事が予想できる位ありふれたもので、入ったこともあるに違いない。

 (すなわ)ち。学校。

 その学校の制服(、、、、、、、)を着た鳴海は、大きく息を吸い込むと盛大な溜息を吐いた。



 事の発端(ほったん)は数日前、一匹の(あやかし)の存在を確定させた晩の、次の日だ。

 0課に集まった三人は再び雁首(がんくび)(そろ)え、策を()っていた。

「で、どうするかの?」

「ま、やっぱり狩る必要があるなら確実に変化したところじゃねーとな」

 0課の存在は秘匿(ひとく)されている為、関係法規が基本的には存在しない。勿論(もちろん)、捜査するにおいては刑事訴訟法(けいじそしょうほう)やその他法律に違反しない範囲で行ってはいるが、妖はそもそも人ではない。故に裁判所の判決を待たずに鳴海たちが直接に手を下すことが出来る。しかしそれには相手の正体がはっきり確定しないと駄目なのである。厳密な証拠主義の面倒なところである。

 (ちな)みに、前回京一郎は人のままの相手に斬りかかったが、あれは鳴海が妖であると断言したからである。その辺りの発言には気を使うのだ。

「でも調べたら学校にも滅多に来ない、家にも寄り付かない、ヤクザとつるむから一所(ひとところ)にいない、って、探すのに難儀(なんぎ)してるんですよね?」

「んむ。となると今度こそ潜入捜査かの?」

「暴力団事務所に……ですか?」

「いや、高校にゃたまにだが来てはいるみてーだからな。確実なのは高校の方だろ?」

「ふむ? となると……」

 二人の視線が自然と鳴海に集まる。

「……一応聞きますけど、教育実習とか新任の教師とかそう言う肩書きですよね……?」

「いやさー、鳴海ってキリっとした顔してるけど、どっちかってーと若く見えるほうだよな」

「……」

「じゃの! お前さんは確か19歳だったよの? なら卒業から1年ちょっとってところかの!」

「………」

「失礼します」

 と言って入って来たのは0課の職員である。手にはクリーニング屋のビニールを被った服。

「…………」

 小首をかしげて可愛らしく、

「良く似合うと思うんじゃよ?」

 素早く立ち上がった鳴海だったが、生身なら京一郎に圧倒的に()があった。

「放してくれーっ! もうすぐ二十歳(はたち)だってのに制服なんてコスプレじゃないかーっ! てゆーか準備よすぎですよ! 安倍さん!」

「いや、もうこの案しかないと思ってての。あそこの学校出身の者がおったのですぐさま、の?」

「まーウダウダ言うなって。俺も英語教師って肩書きで一緒に行くからよ」

「ずるい!」

 やいのやいのと騒ぐ鳴海だったが、数十分の後には見事な高校生(、、、)へと変貌(へんぼう)していた。



「諦めろって。丁度産休の教師を募集してたけど一人しか空きがなかったんだ。俺か鳴海か、だったら俺が教師側やるしかないだろ?」

 慰めるように鳴海の肩を叩く京一郎。

 何か反論しようとして、結局先日のやり取りを繰り返すだけかと肩を落とした。

 そんな鳴海の憂鬱(ゆううつ)を知ってか知らずか、えらく楽しそうな声が鳴海の背後、校門の方から聞こえてきた。

「こりゃ鳴海よ! まだ校門のところで写真を撮っておらんぞ! (はよ)うこっちに来るのじゃ!」

 満面の笑みを浮かべた安部がカメラを片手に手を振っていた。

 彼女もまた、鳴海の憂鬱の原因だった。

 丁度、孫可愛さといった感じだろうか。数日前鳴海が制服を着た日は、目を輝かせながらそんなに撮ってどうするのか? と言うくらい写真を撮りまくっていた。あのカメラはきっと鑑識(かんしき)班が使ってる奴だったろう。

 今日も0課を出た時からそれはもう角を曲がる度では? と疑うほどカシャカシャやっていた(因みに、公共の交通機関を使っている。あくまで民間人を(よそお)うためである)。

 そんなこんなで、実に楽しそうな安倍と手をつないだ鳴海は、京一郎の「笑えー」の声に引きつった笑みを浮かべた。

 (七五三……?)

 京一郎は内心必死で笑いを堪えていたのに、きっと二人は気付きはしなかっただろう。


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