四
たとえ深夜と言えども、治安を守る為、警察は眠らない。眠れない。交代で勤務し、事件が起きたら即座に対応できるように常に身構えているのだ。それは所轄の警察署にしろ、交番にしろ(と言うより、交替で番をするから交番なのだが)同じである。
そして妖の対処を標榜する、警備部第0課もまた然り。0課の職員たちも交代で深夜勤務についている。そして今日はたまたま安倍が出張っていた。
そんな日にここ最近追っていた妖を発見したとの報。
僥倖であった。
すぐに鳴海と京一郎を呼び出し、0課長自らの指揮で妖の殲滅にと行動を開始した。
今回は街を縦横に走り回ることが予想された為、ヘッドセットは使っていなかった。強力な無線ではないため、あまり遠いと繋がらなくなってしまう恐れがあるからだ。故に、定期的に携帯電話で報告を入れていた。
その為、安倍は現場の状況をリアルタイムで知ることが出来なかった。
そんな状態で、妖の殲滅が確認されたと思ったら、この報告だ。溜息も付きたくなる。
「いや、安倍さん。本当なんです」
「そうだぜ、ばーさん。ホントに変な魔女っ娘が出て来てよぉ」
「……」
二人の様子はとても嘘をついているようには見えない。逃げられたこと誤魔化そうとしている訳ではないようである。そもそも、妖などと危険極まりないモノを相手にしているのに、虚偽の報告などもってのほかである。
安倍はもう一度溜息をつくと、
「ま、よかろ。お前さんらも嘘はついとらんようじゃしの」
何時もの椅子からピョイ、と飛び降りると鳴海達を応接用のソファーへと誘う。
「取り合えず、お前さんらからその少女とやらの詳しい特徴を聞かせてもらおうかの。その後周辺の監視カメラを徹底的に洗うとしよまい」
鳴海と京一郎は顔を見合わせ、ホッと安堵の息を吐く。
――信じてもらえてよかった。
彼等の間には、超能力の必要もなくテレパシーが繋がった。
「安倍さん……絵、上手いんですね……」
「んむ? そうかの」
そうか、と言いながらも若干嬉しそうな、照れたような表情をした安倍はスケッチブックに走らせる鉛筆の速度を少し、速めた。
「ま、まぁこれでも随分永く生きとるからの? 暇を潰す目的で絵を描いてみたりしたもんじゃよ」
「誰かに習ったりしたのか?」
と、これは京一郎。
「まぁの。暇に飽かせて色々な者に師事したもんじゃ。雪舟、広重、他にも、の……」
(本当に、この人はいくつなんだろうか……?)
「鳴海、女に歳は聞くもんではないぞ?」
「!?」
心を読まれたことに狼狽する。修羅場を潜ろうが、常人とは違う経験をしていようが、彼はまだまだ若人なのだ。そして安倍は人知を超えた存在であり、人間とは違う時の流れに生きている。並みの手練手管ではない。
「よし、こんなモンかの!」
完成したらしく、安倍がスケッチブックを掲げてみせる。その様が上手に絵を描けた子供のように見えてしまい、一瞬ホッコリしつつも描かれた内容をチェックする。
「……うん、こんな感じでしたね」
「あぁ。暗かったけど、まぁ大よそこんなもんだろ。やるじゃねーか、ばーさん。“亀の甲より年の功”ってか?」
「お主は一言多いんじゃ!」
安倍は可愛らしくアカンベェ、をするとスケッチブックを抱え部屋を後にした。後は0課職員、場合によっては刑事課にも協力を要請し、監視カメラの映像をチェックするのだろう。
安倍が居なくなった部屋の中、眠気を堪え大きく伸びて欠伸をする鳴海に、京一郎がポツリと言った。
「しかしばーさん、アニメとか見んのな……」
欠伸の途中だった鳴海は「あぐふっ」と奇妙な笑いを上げた。




