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アーマード・オウガ  作者: ハル
参:エターナル
37/65

 お久しぶりの更新でございます。忘れないでいてくださった方がいらっしゃったら、それは感慨無量なことと思います。

 さて、このお話、なんだか本筋とまったく関係ないお話に見えると思いますが、ミス投降と言うわけではございません。どうかお気になさらず読み進めて頂けると幸いです。

 少女は血のにじむ腕を押さえ、宙に浮かぶ黒い衣装の少女を(にら)む。

 その眼に浮かぶは憎しみか?

 否。

 悔恨(かいこん)、後悔、何より、己が無力への悔しさだった。

 少女が悪に染まってしまったのは自分が原因であるからだ。彼女は失望し、離反し、裏切り、そしてその魔力を悪意で使うことを決めた。

 街は燃え、多くの人が傷つき、沢山の悲しみを生んだ。

「どうした! ななか! 貴様はこれでも(なお)、私と闘わぬつもりか!」

 黒の少女は手に持つ機械的な意匠(いしょう)の杖を振り上げる。杖の先に生まれるのは漆黒(しっこく)の光。これは、巨大な魔力の塊だ。黒の少女の持つ並外れた魔力が、術式を介さない単純な、しかし強力な力を生むのだ。

()ぜろぉっ!!」

 黒の少女は躊躇(ためら)いなく杖を振り下ろす。

 瞬間、高速で放たれる黒の魔力塊(まりょくかい)

 その行く先には“ななか”と呼ばれた少女。

「……!」

 白い衣装に身を包んだ少女は、その塊の危険性を重々承知である。それでも彼女はその場を動かない。傷を押える手を離すと、両手を前方へと掲げ魔力の障壁(しょうへき)を展開する。

「防御術式起動。展開出力、ドライブA。ライジングスター、お願い!」

『as your order,my master!』

 彼女が呪文を唱え、同じく機械的な意匠の杖に命令すると、その杖も流暢(りゅうちょう)な英語で彼女に応える。ななかの体から供給された魔力が杖の中で増幅され、防御障壁を張る為の簡略化された儀式を完成させる。

 そして、ななかの前には光り輝く壁が作り出される。


 ――ズガァァァァッ!!


 次の瞬間、黒の光と白の光は猛烈な衝撃と音と光を放ち、ぶつかり合った。

 魔力を生み出すのは心。

 即ち。その二つの光のぶつかり合いは、譲れぬものを抱いた少女たちの心の闘いに等しい。

 やがて。

 光が収束していく。

 一転して、うるさいほどの静寂が辺りを包んだ。

 晴れ行く煙の中から現れたのは、膝を付き、立つことすらもままならないであろうななかの姿。

 しかし。

 彼女は尚、立ち上がる。

 瞳は未だ、死んではいない。

「なぜだ……」

 黒の少女は辟易(へきえき)した表情でななかを見下ろすと、吐き捨てるように言う。

「何故、倒れぬ? 何故、攻撃しない? 何故、闘おうとしない?」

 ギシッ、と音がするほどに杖を強く握り締め、更に言う。

「何故、そうまでして街を護ろうとする!?」

 そう。ななかは黒の少女を傷つけようとはしなかった。ただボロボロになりながら、街を護ろうとするばかりである。

「だって……」

 ななかは笑みさえ浮かべ、答える。

「だって、約束したじゃない」

 ただ真っ直ぐに黒の少女を見据え、応える。

「一緒に街を護ろうって」

 笑みを浮かべ、涙を溜め、それでも視線を逸らすことはなく。

「街を護る私たちは、お互いを護ろうって。そうすれば、誰も傷つかない、って」

 力強い障壁を生み出した想いの源を吐露するように。

「攻撃なんて、出来る訳ないじゃない……」

 涙が頬を伝い、(せき)を切ったように心の内が溢れ出す。

「ゴメンね、ゴメンね。私のせいで、フェリスちゃんが傷ついちゃったんだよね。私、なんでもする。だから、帰ってきて。また、私の隣に立って、私のことを叱って、一緒にご飯食べて、学校に行って、それで、それで……」

 そこから先は最早(もはや)言葉にならなかった。嗚咽(おえつ)としゃくり上げる声だけが、静寂に響く。

「あ……」

 フェリスと呼ばれた少女は、

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 ただ叫ぶ。

 慟哭(どうこく)

 ふさわしいのはその言葉。

 彼女も本当は分かっていた。全ては悲しい、小さなすれ違いであったと。ただ、まだ幼い彼女らの精神はそれを飲み下すほど強くはなかった。それだけなのだ。

「私はっ! 私はっ! ただ、ななかとっ!」

 フェリスも言葉を紡げない。心も、頭も、グチャグチャだ。

「……えっ?」

 そしてそれは唐突に起きた。

 フェリスの魔力が暴走を起こした。

 魔力を生み出す心と、それを制御する頭、つまり精神の均衡が完全に壊れた所為(せい)だ。

「やっ……やだ……! なにこれ……? 怖い、怖いよ。ななか……、怖いよっ!」

「フェリスちゃん!」

 内から溢れ出す魔力を抑えきれずに足掻(あが)こうとするフェリス。彼女を救おうと空へ舞い上がろうとするななかだが、彼女は既に限界だった。

 カエルほども飛ばぬ内に地面に突っ伏した。

「フェリスちゃんっ!」

「ななかぁっ!」

 互いの名を呼ぶしか出来ぬ少女たちはやがて黒の輝きに埋め尽くされた。


 ……はずだった。

 強くまぶたを閉じた少女たちはいつまで経っても訪れぬ終わりに不審を覚え、ようやく瞳を開ける。

「コーノ君っ!」

 ななかの前に立つのは一人の少年。

 そしてフェリスはクリスタルのような形の魔力の障壁に覆われていた。コーノが発動した魔術だ。

 一種の封印術だ。暴走し、溢れ出そうとした魔力を強引に押さえ込んだのだ。もともとフェリス自身から溢れ出した魔力だ。本人の中に戻したところで何ら問題はない。

「全く、君たちは」

 呆れたように二人を見やる少年は、しかし嬉しそうに言った。

「泣いてすっきりしたかい? 仲直り出来て何よりだよ」

 そして二人の少女は強くお互いを抱きしめあう。絆の糸が二度と解けぬように。


 ――ブツンッ――


 そこでテレビの電源が落とされた。

 警視庁警備部第0課長、安倍はその愛らしい日本人形のような顔を、“コーノ君”よりもずっと深い呆れ顔にして、鳴海(なるみ)と京一郎を振り替える。

「で?」

 ビクッ、と肩を震わせた二人は居たたまれなくなったように視線を逸らす。

「お前さんらは、このアニメキャラクターのような少女が現れて、(あやかし)を退治した、と。そう報告するのじゃな」

「……はい」

「……おう」

「……」

 暫く二人を眺めた安部だったが、やがて深い溜息をついた。


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