一
都会のビルとビルの間を三つの影が飛び回る。
草木も眠る丑三つ時、とは言うが都会の夜は眠らない。不夜城とはよく言ったものだ。
夜闇を切り裂き、飛び回る影の一つは“妖”の影だ。
魂を穢し、黒く染めた時、人は醜き怪物、即ち“妖”へと変貌する。それは徳を高めた人が仏へといたる、その道を鏡に映す様に。
その妖は非常に逃げ足の速いタイプであったが、遂に追い詰められてしまったのだ。それがソイツを追う二つの影。
一つの影は十九歳の大学生ながら、警視庁の対妖部署『警備部第0課』に協力する青年“五月鳴海”だ。彼は退魔兵器“鎧鬼”を以って妖と戦う五月の一族の末裔である。身体的負担の大きい全身武装を避け、妖を追うのに必要な最低限の武装として腰より下、下半身のみの武装で妖を追っている。
そしてもう一つの影は二十代も後半の大人びた男。名を“霧夜京一郎”と言う。彼は霊的概念固定武装、通称“霊装”と呼ばれる武器のみを携え、妖を追っている。
妖の他に、妖怪や神と呼ばれる存在がある。それらは穢れた魂から生まれるものではなく、人々の思念や概念が集まることによって生まれる。その過程を、同じく思念や概念を集めることで成立する神話や伝説の武具の再現に応用し、神秘的な力を持つ武器を作り出すのが霊装である。
つまり、武器こそ超常の力を持つが、体自体は通常の人間である京一郎は、自らの鍛錬の結果によって鎧鬼の生む身体強化に並んでいた。
「京兄、大丈夫?」
高層ビルの間を跳びながら、横を跳ぶ兄貴分に気を使うように鳴海は声を掛けた。
「俺の鍛え方を舐めんなっての。人の心配してる余裕があるなら、目の前の敵に向けな」
不敵な笑みと共に、弟分へ指導を飛ばす。京一郎の顔には疲れの一つも窺えない。心配は寧ろ失礼だったかもしれない。
そうだね、ゴメン、と返事をすると鳴海は再び正面の悪の背中を睨んだ。
身軽にビルの狭間を飛び越えるその妖に戦闘力はそれほど無い。それでも人間よりは圧倒的に強いし、その悪意に染まった魂は確実に人に害を為す。
「今は高層ビルの上だからバレないだろうが、下手したら一般人の目に付くかも知れねぇ。早いとこ何とかしねぇとな」
「とは言っても……」
彼等は少しづつ妖に追いついていってはいるが、都会のど真ん中での戦闘はそれだけで一般人へ妖の存在を露見させる危険を孕む。追いついて取り押さえ静かに仕留める。それが彼等の狙いだが、このまま追いかけっこを続けていては夜明けまでかかりそうだった。
が。
その時だ。
その異常事態が起きたのは。
「待ちなさいっ!」
彼等の進む正面から、キーの高い、女性の声が響いた。




