十四
数日後。京一郎は単身最初に訪れた児童養護施設へと再び足を運んでいた。今度は児童ではなく職員が出迎えてくれた。
再び豪奢な、座り心地の良いソファーへと腰を沈め、園長と向かい合った。
「すまねぇ」
先に口を開いたのは京一郎で、開くと同時に頭を下げた。
「ど……どうなさったんです!? 突然!」
園長は慌てて腰を浮かした。それを押し留めるように、手のひらを突き出し頭を上げる。
「今回、アンタのとこにいた子供がまた一人犠牲になった。もう聞いてるよな? 警察も捜査に来たはずだから」
「勿論、聞き及んでいます。あの子には残念なことをしました……。折角、新しい家族に迎えられたというのに……」
「あぁ。それなのに、俺がモタモタ捜査してたからこのザマだ。申し訳ねぇ……!」
そう言うと京一郎は再び頭を下げ、続けた。
「犯人の野郎は必ず狩る。だからもう少し、この件を俺に預けてくれ」
「何を仰いますか。私はアナタを信じてお任せしたんです。どうか、子供たちの無念を晴らしてください」
頭を下げっぱなしの京一郎に、園長は諭すように言った。
「そうか、ありがてぇ……」
そう言うと京一郎は傍らに置いた竹刀袋に手を伸ばし、
「遠慮なくブッ殺させてもらうぜ」
瞬きの間に袋の口を開き、神速の居合いを繰り出した。
*
京一郎が表玄関を訪れている頃。鳴海は人気の無い裏手の塀から施設内へと侵入していた。
塀は高かったが、右手のみ鎧鬼を顕現し、その力を利用して易々(やすやす)と侵入していた。
「さて、見取り図からいくとこっちの方かな」
鳴海は懐から一枚の紙を取り出す。それはこの養護施設の見取り図だ。
先日、マフィアの拠点を潰して暫くした頃、地下にて発見した少女について一つの事実が判明した。
判明したのは彼女の身元が不明であるということだ。
園長に話を聞き、彼女が既に里親に引き取られていることが発覚したが、その里親からさらに別の所に、その親戚に、と言う具合に行方が有耶無耶になってしまったのだ。
事態を鑑みた安倍はすぐさま刑事部に事の解明を依頼。
そこで導き出されたものが、里親はあくまで隠れ蓑であり、臓器ビジネスを展開していたマフィアに足が付きにくいように偽装する為のものであるということ。
すぐさま芋蔓式に関連する組織を逮捕した訳だが、一つの疑問が残った。
結局犯人は誰だったのか。
未だ証拠や供述こそ取れていないが園長が一枚噛んでいるのは明白である。何せ児童の横流しをしていたのだから。
だがそうなると園長もマフィアの末端の構成員であり、最初の惨殺事件が誰の仕業か分からなくなってしまう。マフィアの仲間ならばやはり商品に傷をつける意味が無いからだ。
そこで安倍が立てた一つの仮説を確かめることにしたのだ。
即ち、『園長とマフィアは直接繋がる訳ではなく、園長が殺した獲物を横流ししている』だ。
鳴海がこっそりと施設内に侵入したのはその確たる証拠を探す為である。
もし安倍の仮説が的を射ているのならば、施設内に商品を保管する何かがあるはずである。そこで0課は施設の見取り図を入手。現実の施設の形状と矛盾する点が無いか探った。
あったのだ。
一箇所、見取り図には無い空間が。
妖の存在を確信していた安倍は彼等二人に捜査を任せた。京一郎が時間を稼ぎ、鳴海が中を探る。
「霧夜さん、聞こえてますね」
『おお、ばっちりだ。今職員を呼んでる。時間ならしっかり稼いでやるぜ』
小型通信機の調子を確認した鳴海は誰にとも無く頷く。右手の爪を使い、窓に丸く穴を開けると鍵を開けて中へと侵入する。
「初めての使い方だ……」
某三代目の大泥棒を想像すると、鳴海は静かに施設内へと姿を消した。
*
そこに入るのには苦労は無かった。
一見すると壁のような場所。しかし“眼”の力を使い、よく見てみると壁に僅かな違和感があった。よくよく周囲を探ってみると巧妙に隠されたレバーを発見。引いてみるとカチリ、と音がする。
「これでいいのかな……?」
軽く壁を押してみるとどんでん返しのように分厚い壁が回転し、壁の向こうへと歩を進めることが出来た。
「うぐっ……!」
壁の向こう、謎に包まれた空間へと足を踏み入れた鳴海だったが、即座に口元を覆った。
別に凄惨な光景が広がっていた訳ではない。
ただ、
臭気が酷かった。
血の匂いが。
「酷い匂いだ……。確実に黒だ。この匂いを誤魔化す為に壁が分厚かったんだな……」
部屋の中には特に変わったものは無かった。ベッドが一脚、机とパソコンがあるだけ。
「パソコン……」
電源を入れる。
僅かな時間、表示されるOSのロゴを眺め待っていると、デスクトップ画面が表示される。運の良いことにパスワードが設定されていなかった。恐らくこの部屋に誰も気付かないだろうと踏んでのことだろう。
「? ……『記録』?」
デスクトップ画面に表示されているのは基本機能として表示されているものと、フォルダが幾つかだけであった。その内の一つに表示されている『記録』というフォルダ名。
怪しい。
早速開いてみる。
中にあったのは複数の動画ファイル。古いものは随分昔の日付になっている。嫌な予感を感じつつ再生してみると。
「的中だ……」
再生されたのは一匹の怪物が子供を惨殺する光景。場所はここだ。
やがて怪物はその体をズルリ、と溶かすように影に沈ませる。
そして現れたのは小柄な中年男性。鳴海も写真で確認している。
ここの園長。
最早疑う必要は無くなった。確定したのだ。かねてより殺人行為に快楽を見出す狂人だったのだろう、わざわざ自分の犯行をビデオに残すとは。後で見ながら悦にでも浸っていたのだろう。妖に堕ちるのも当然というもの。
胸糞悪い。
鳴海は通信機に向かって呟く。
「妖確定です。生かしておく必要はありません」
直後、風を切り裂くような音が通信機の向こうから聞こえた。




