十三
――ズズンッ!
そんな衝撃が足元から響く。
マフィア共を連行する手伝いをしていた京一郎だったが、その衝撃に目を見張り動きを止める。
「な……何だ、今の」
「やったようじゃの」
それに答えたのは当然、安倍。
彼女はニマニマとした笑みを浮かべながら京一郎へと流し目を送った。
「驚いたかの?」
「驚いたってか、何が起きたんだ?」
「鳴海じゃよ。あ奴の使おうとしとった技が発動したんじゃろ。ま、恐らくは『雷電』じゃろの」
「ライデン……?」
「ほれ、何を突っ立っとる? 早う鳴海を回収に行ってこんか」
「??」
訳も分からず、尻をはたかれた京一郎は再びビルへと足を踏み入れた。
*
「あ! おい、坊主! 無事か?」
地下へと向かった京一郎が先ず眼にしたのは横たわる鳴海、そして黒焦げた部屋だった。気のせいか、鼻を刺激するツンとした臭いも感じる。京一郎は口元を袖口で覆うと鳴海の元へと駆け寄る。
鳴海は既に武装を解除していた。鎧鬼を装着する前の状態で床に仰向けに転がっている。
「おい……」
まさかやられたのか? 嫌な想像をする京一郎だったが、それを振り払うように首を振ると、鳴海の肩を軽く叩く。
倒れている人間をいきなり起こすのはあまりいいことではない。それを知った上での行動である。最も、この場合は抱き起こしても何の問題も無かったのだが。
「あぁ、どうも、霧夜さん……」
弱弱しく目を開いた鳴海はしかし、自らの力で身を起こした。
「何があった。野郎は?」
「大丈夫ですよ……あいつは無に帰しました。俺はちょっと、反動の大きい技を使ったもので」
京一郎に肩を借り立ち上がると、ゆっくりと階段を上りながら、事の顛末を語った。
*
鳴海が使った技は『雷電』と言う。
角二本を電極として空中放電を起こし、辺りに雷をばら撒く大技である。京一郎が感じたツンとした臭いは、空中放電によってオゾンが発生した為である。
だが、別に狙いをつけられる訳でないし、自らの生体電流を強引に増幅して放つ為、当たらなければ自分は生体電流の著しい乱れで動けない、でも敵は無傷、などという事態に陥りかねない。
デメリットの割りに当てにくい博打半分のような技だが、今回のように密室で逃げ場が無い、増援の心配も無いと言った状況では非常に強力な、文字通り“必殺”となる技なのである。
*
「ほぉー……。またおっそろしい技だな」
二人して指揮車に戻り、中のシートで体を横たえた鳴海へ、マジマジと視線を送り、京一郎は感心したような、恐ろしいものを見るような、そんな顔をした。
「デメリットだらけの技ですよ。メリットと言えばとにかく威力が大きい、って位で」
スポーツドリンクを飲みながら答える。
生体電流の乱れとはつまりイオンのバランスが崩れていると言うことだ。イオンの補給ならばスポーツドリンクが一番だ。
「ま、何にせよ。これで事件は解決だな。俺も大手を振って園長に報告してやれるってもんだ」
なぁ、と安倍へと視線を送る。
が、彼女は浮かない顔を崩さない。
「どうしたよ、ばーさん」
「いや、恐らくじゃが、まだ終わっとらんぞ……」
「は?」
「あの、俺もそう思います」
「坊主まで」
フラフラと手を上げたのは勿論鳴海。妖を倒したと言うのに、不安で満ちた表情をしている。
「どういう意味だ」
「最初の事件の時、発見された被害者は惨殺されておった。なぜじゃ? 中身が必要なら殺す必要は無い。それに組織立って行動しとるのにバレる危険を冒しすぎじゃ、色々との。じゃろ?」
「……確かにな。だったら」
「ええ。恐らく本当の犯人は別に、います」
「そ奴が自分の獲物をマフィアに横流ししとった、ってところじゃの。此度の被害少女はたまたま見つかっただけじゃろ。それにもう一つ」
「そうか、笑般若が犯人なら、殺さず、喰う……!」
「おまけに、笑般若は力こそ強いが、刃物を使ってはおらん。此度の犯人は日本刀を越える大きな刃物を使ったことが窺える、じゃったの」
「また捜査しなおしか……」
落胆に肩を落とす京一郎だが、安倍は大丈夫、と言う。
「お前さん、今回の被害者を知っとると言うとったの?」
「あ? あぁ……。何処の養護施設かって位だけどな」
「ならば、そこからここのマフィアに流れるまでに何処を通過したかを調べればよいだけじゃ。それこそワシら警察の十八番じゃろ。袖を振り合っといてよかったの?」
京一郎の目の前で左右に緩やかに袖を振る。袖をヒラリと浮かせ、可愛らしくクスクス笑う姿は幸運の座敷わらしのようであった。




