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アーマード・オウガ  作者: ハル
弐:CRY THUNDER
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 霧夜(きりや)とは、かつて斬矢(きりや)と呼ばれた。

 つまり殺鬼(さつき)がその名を隠す為に五月(さつき)を名乗ったように、斬矢の名を伏せる為に霧夜を名乗ったのだ。魔を斬り、矢で以って穿(うが)つ。それが京一郎の先祖だった。

 当然、一族の者が皆、伝説級の超人的武人であった訳ではない。一人二人突出したものがいたとしてもそれはあくまで突然変異であり、一族として妖を狩ることなど出来はしない。しかし五月の一族が扱う鎧鬼(よろいおに)のような装備も扱いはしない。

 ならばいかにして妖と戦ってきたのか。

 武器である。

 人間である以上、鍛えるには限界がある。勿論必要最低限の鍛錬は要求されるがどこまで鍛えても、人間の枠からはみ出ることは出来ない。それこそ、(あやかし)に堕ちでもしない限り。

 そこで斬矢は、魔を討つことが出来る神聖なる武器の追求を始めたのだ。

 初めはそれこそ(いわ)れのある名刀などを使うことで生業(なりわい)を保ってきた。

 しかしそれでは使える武器の数が限られてくるし、物である以上いつかは()ちる。

 そこで彼等一族が辿り着いた答えは“自ら創る”だ。

 彼等が最初に目を付けたのは妖、ではなく(、、、、)。“神”や“妖怪(ようかい)”の存在である。

 妖は自ら魂を(おとし)めた者が堕ちるなれの果てであるが、神や妖怪は人の魂が生む、想いや思念が集まった結果生まれる存在。その過程を武器へと転用しようと目論(もくろ)んだのだ。

 三種の神器に代表されるような力を持つ武具は、人々からの神器に対する畏怖(いふ)や敬意の念が力を与えたもの。

 つまり、自分たちで伝説上の武具を再現し、人々の念、言い換えれば概念を固定することが出来れば神代(かみよ)の武器すら再現できるのではないか。斬矢はそう考えた。

 果たして、その考えは実を結ぶこととなる。

 神代の時代の武具をレプリカとして再現して、そこに本物という擬似的な概念を与えることで、その武具に奇跡的な力を発揮させることに成功した。

 ただ、やはりレプリカを作ること自体が困難を極める上に、概念を固定する為に必要な儀式もまた、難解なものとなってしまったので、一般庶民にまで広めるほどの大量生産とはいかなかった。

 それでも彼等の生み出した技術は革新的なものであり、この技術は後に、日本に留まらず世界中で採用されることになる。実は殺鬼の一族も鎧鬼へとこの技術を転用している。

 後の時代にこれらの武器、(ある)いは技術の総称を『霊的概念固定武装れいてきがいねんこていぶそう』、通称『霊装(れいそう)』と呼ぶようになる。



「……とまぁ、そんな訳でな。この小烏丸(こがらすまる)もレプリカさ。本物には劣る劣化コピーに過ぎないものだが、妖に対して神から遣わされたって神聖な属性は抜群な威力を発揮する。俺はコイツの変わった形が好きでね、愛用してるんだ」

 歓楽街の一角に建つ会員制の外国人パブ。その近くのビル影に身を隠すのは鳴海と京一郎だ。このパブこそ現在ターゲットとなっているマフィアの隠れ(みの)だ。海外マフィアのアジトに突入をする機を待つ鳴海は、同じく待機している京一郎から彼の持つ武器について説明を受けていた。

 そうやって戦う退魔士のことを存在そのもは知っていたが、実際会うのは初めてだ。

 先ほどから色々と話をしているのだが、どうやら彼は鳴海が安倍の元で仕事を請け負うようになる以前、何度か彼女と共闘したことがあるそうだ。彼女の下の名前を知っていたのもその為だろう。それなりに深い付き合いだったようで、小烏丸の話を聞いて安倍が思い当たったのも頷ける。

「お前の黒い鎧も相当変わったモンみたいだな?」

 話は鳴海の武器『鎧鬼(よろいおに)』へと移り変わる。

「そうですね。退魔士全体から見ると、俺の一族が使ってる『鎧鬼』の方がえらく異質なものみたいですもんね」

 実際、鎧鬼のような力を使う退魔士がいない訳ではないが、全体から見ると酷くマイナーな部類に当たる。と言うのも、鎧鬼は装着者への負担が大きいからだ。腕や足などの一部武装程度ならまだいいが、全身武装となるとかなりの体力を消耗する。

 その分、全身を覆う為装着者の安全という意味では大きなメリットが在るし、己の影に忍ばせている為直ぐに、かつ何処(どこ)でも戦う準備が出来ているという携帯性(?)がある。

 何事も一長一短というものだ。

「しかしよ。俺は最初からあちこちフラフラしてるけど、お前は何でここに協力してるんだ? 必要な時だけ呼び出しに応えてりゃ済む話じゃあねぇのか?」

 ふーん、と鳴海の解説に返事したと思ったら、核心を突くようなことを言ってきた。案外、頭の回転は悪くないようだ。

「その、俺にも、事情がありまして……」

 困ったように曖昧に笑った鳴海だが、京一郎はそれ以上追及することはしなかった。

「ま、なんだ。誰だって事情位あらぁな。大事なのは、足を踏み外さねぇことさ」

 にひひ、と笑って鳴海の背中をバンバン叩いた。その強さに若干咳き込む鳴海だったが、それが京一郎なりの気遣いだと分かる程度には彼は大人なつもりだった。

「そうですよね」

 鳴海の返事に合わせるように、ヘッドセットから安倍の声が聞こえてきた。

『お前さんら、準備はいいかの? そろそろ突入準備じゃ』

 その一言で二人の空気が変わった。

「よっしゃ、行くか」

 京一郎が傍らに立掛けていた小烏丸を手に立ち上がる。

「ええ、暴れますか」

 振り返った京一郎に鎧鬼の右腕を掲げて見せると、瞳を輝かせ、牙を剥くように笑った。


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