九
運転を京一郎が代わり、一路、0課オフィスへと帰る車の中。
「じゃあ坊主、お前が黒鬼で、黒鬼は味方ってことで間違いないってのか」
助手席に座る鳴海を横目で見ながら京一郎が言った。
「ええ、多分。しかしそんな噂になってたなんて……」
深々と溜息をついた鳴海をフォローするように後部座席から声が上がる。
「恐らく、前回の事件のとき高橋の奴が部下に言ったのじゃろうの。それが伝わるうちに悪人を狩る黒鬼になったんじゃな。まぁ、当たらずも遠からず、じゃの」
「なんか、変な気分です。弘の奴が嬉々として食いつきそうだ」
何も知らずに自分のことを話す友人のことを考えると、気が滅入る。
「最初に会った情報屋のほうもそんな感じのことを言ってたな。しかし、はめてくれやがった野郎はどうして坊主が警察にいることが分かったんだろうな」
京一郎の言も最もである。タレコミ文を警察が本気にとってガサに来たら、黒鬼がそもそも警察にいなかったら。例の情報屋の目論見は上手くいかなかったことだろう。彼は恐らく鳴海と京一郎を共倒れにしたかったはずだ。
「それはこれからの調査次第じゃの。もしかしたらそ奴、裏の事情にえらく通じとるかもしれん」
「おまけに目的も不明瞭だしな」
もし、その情報屋が犯人で、黒鬼を恐れたとするなら、僅かでも足のつくような真似は避けて大人しくしておくべきだ。何故面倒な手間までかけて鳴海と京一郎を戦わせるようなことをしでかしたのか。
全ての疑問を乗せたまま、車は警視庁へ向かう。
*
「あぁ、違う。もっとこう、わし鼻みてぇな鼻してやがるんだよ」
京一郎は現在、モンタージュ作成を行っていた。専門の機械を使い少しずつ、記憶に残る顔を再現しようとしていた。
カチャカチャと切り替わる顔のパーツが成る程、確かに京一郎の頭に残る顔へと近付いてゆく。
「ストップ。さっきのもう一回」
「はい」
協力してくれている0課の警察官にパーツの巻き戻しを指示すると唐突に、
「こいつだ!」
と叫ぶ。
出来上がった顔はどことなく掴みどころのないような、妙ににやけた感じの顔だった。その顔は微細な違いこそあれ、確かに黒鬼の情報を伝えてきた情報屋だった。
「ああ、確かにこんな顔だった!」
「ふむ……? 何だかワシも記憶にあるような……?」
「そうですか? 俺は全く……」
三者三様に悩む彼らに、モンタージュ写真を印刷していた警察官が言う。
「こいつは確か、最近この辺りで幅を利かせている海外系マフィアの使いっぱだったと思いますが?」
「何だと!」
「成る程。奴らの情報網なら何かしら黒鬼と警察の関係を嗅ぎつけておっても不思議では無いの」
驚きの声を上げたのは京一郎。だが安倍も鳴海も別段驚いた様子もなく、情報の有無に差があった理由に納得する。
安倍は仮にも警備部0課、一部署の長である。関係ない情報でも目にする機会がある訳だ。故に以前にどこかで捜査資料を目にしていたのだろう。
しかし、鳴海はあくまで協力者。妖に関係のない捜査資料まで見ることはなかったのだ。
「よし、ならば直ぐにこいつらのアジトを探るとするかの」
安倍は印刷を終えた警官に今後の指示を伝える。
「どうやら、一暴れすることになりそうだな、坊主」
「そうですね、霧夜さん」
昨日の敵は今日の友、と昔から言う。
二人の退治屋は突き出した拳をコツンとぶつけると、不敵に笑った。




