七
謎の男との戦闘を一時離脱した鳴海は、その足で0課オフィスへと帰還していた。
「妖も殺人鬼もおらず、おったのは侍か……」
来客用のソファーに座る鳴海は、安倍に遭遇した事態を報告していた。勿論、何故すぐに逃げて連絡しなかったのかと、雷が落ちた。
報告が終わり、説教も終わり、聞いた情報を整理していたがそこで鳴海が一点、言い忘れたことを思い出す。
「ああ、すいません。重要なことを忘れていました」
「んむ?」
「侍が使ってたのは小烏丸みたいな刀でしたよ」
「む? しかしアレは厳重に保管されとるものじゃよ。同じ形状の刀、というだけではないのかの? まぁ、珍しいものを使っとるとは思うがの」
「それが、鎧鬼に傷をつけられまして」
それを聞き、安倍も流石に眉をひそめる。鎧鬼の頑強さは安倍も知るところである。
「確かに、穏やかな事態ではないのう……。……ん? いや待て。小烏丸?」
そこで安倍は何かに気付いたように顔を上げた。
「どうしました?」
「いや、待て待て。もしかしたらかもしれんがの……」
「心当たりが?」
「んむ……。そう言えばそんなのを愛用しとった奴がおったような気が」
よし、と膝を叩いた安倍は座っていたソファーから飛び降りると、オフィス出入り口へと向かう。
「安倍さん? どちらへ?」
その背中を目で追う鳴海に安倍は不敵な笑みを返す。
「探しに行くんじゃよ。勿論ワシ自ら、の」
お前さんも来い。そう言って安倍はオフィスを後にした。
*
警視庁の地下駐車場から車を出したのは驚いたことに安倍本人であった。表で待っていろと言われた鳴海は、新しい運転手が乗っているとばかり思っていたので最初は我が目を疑った。助手席に座ってる今も何だか現実感が無い。
「まぁ、なんじゃの。車の運転くらいは自分でやろうかと思っての。これからは人員の選別はも少し時間を掛けるようにするつもりじゃしの」
そう言った彼女の横顔は少し寂しげだった様に見えた。きっと彼女も高橋のことを気に入っていたのだろう。
そのことを何とは無しに察した鳴海は話題を逸らしにかかる。
「ところで、これからどちらに行く気なんですか?」
普段電車やバスなどの公共の交通機関を多用している鳴海はこの辺り一帯の地理にそこまで詳しくは無い。
どっちの方向にどこそこ町がある、などと知らなくてもたどり着けるからだ。
最も、今まで運よく困ったことこそ無いものの、捜査をしていく上で土地勘は身に付けておいた方がいいのだが。
「取り合えず、ナンパがしやすい所かの」
「……は?」
安倍の目的が理解できず、鳴海はただただ前だけを見ることにした。




