だるまさんが転んだ
*←は視点変更を示します。
「それでは五分後に第四の暇潰し(げーむ)を開始させていただきます。」
クラスメイトが各々喋る中、いつものように一人で夜空を眺めていると、田山 薫が話しかけてきた。
「ねえ、君はいつもなんで外を見ているの?」
僕に話しかけてくる奴は珍しい。
「暇だからさ。」
「暇?デスゲーム中なのに?」
「デスゲームなんて大層な物じゃない。
ただの暇潰しだよ。」
「君、僕と友達にならないかい?」
なんでそうなるのか。
「好きにしてくれ。」
「ありがとう、君の名前は?」
「橘 千颯。」
なぜか、悪い気はしなかった。
「今度、ちゃんと話そうよ。
僕も好きなんだ、夜空。」
もう五分経ったのか、
時間の感覚が無くなってくる。
「では、五分経ったのでルールを説明させていただきます。」
「第四の暇潰し。
だるまさんが転んだ。」
「ルールは簡単です。
だるまさんが転んだと言われたら、止まる。
そして本物の私に触れることです。」
「そして、「 」と言われると、
一番先頭の方と最後尾の方が暇潰し終了となります。」
気がつくと教壇の上にいる仏像の後ろの黒板に、
チョークを横にして書いたような太い文字で、
「下」と書いてある。
相澤 絵美が大きい声で言う。
「ねえ!私たちの後ろの黒板にも文字が書いてある!」
僕たちの後ろの黒板には同じように強い文字で、
「中」と書いてある。
考える暇もなく、冷たい声が教室に響く。
「だるまさんが、転んだ。」
次の瞬間、一人の頭が、吹き飛んだ。
周りにいたクラスメイトの服に血がべったりと付く。
部屋はすぐに、血と吐瀉物の匂いに包まれた。
僕は静かに席に座ったまま夜空を見た。
*
なんだよこの地獄。
神様、俺がなにしたっていうんだよ。
全員、硬直している。
先頭になれば死ぬ。
それを嫌なほど伝えられてしまったから。
「みんな早く進んでよ!!」
絵美が声を張り上げた。
だが誰も動こうとはしない。
それを強めるように再び声が響く。
「だるまさんが、転んだ。」
仏像は振り返り、
数秒経った後また、前を向いた。
「みんな!このままじゃ終わらない!進もう!」
俺が先頭を進む。
それに続くように、皆が進み始めた。
ちょっとずつ、だが、確かに距離を詰める。
幸いな事に言う数はあまり多くはない。
「みんな!止まる時は周りの人と支え合え!」
「だるまさんが、転んだ。」
皆が近くにいる人と支え合い、死者は出ていない。
……千颯はまだ自分の席にいる。
なにをしているんだ。
慎重に前に進む。
横には田山 薫がいる。
「ねえ、なんで千颯を気にしてるの?」
薫は俺の不可解な行動に、疑問を口にした。
「千颯は油断ならない、気をつけたほうがいい。」
「そうかな、千颯は優しい人だよ。」
そうだといいが。
また仏像の声が響く、だが、
いつもの声とは違っていた。
「だるまさんが、
殺された。」
仏像の言葉が頭をよぎる。
先頭と最後尾。
先頭は、俺。
のはずだった、それなのに、目の前には薫の死体が転がっていた。
俺の少し後ろには千颯が立っていた。
「……お前が、押したのか。」
教室に貼られた集合写真に、
血が飛び散っていた。
*
沖田 健に死なれては困る。
だから俺は田山 薫を殺した。
背中に少し力を入れると簡単に崩れ、
田山 薫は先頭へと転がり出た。
*
俺は千颯の首元を掴んで怒鳴る。
「なんで!!なんでだ!!!」
それに感情を込めずに吐き捨てる。
「なんでってなんだ、怒っている意味がわからない。」
俺は掴んでいた腕を離す。
千颯は、話すのをやめない。
「お前、死ぬ気だっただろ。」
「……」
「死は贖罪にはならない。
わかっているだろう。」
言葉が喉から出ない。
千颯は歩き始めた。
動けない、もう、俺は進むことなんて。
いやだ、お前がこのままクリアしてしまうのが嫌だ。
お前がクリアしてしまったら、
それが正解になってしまう気がする。
クリアして証明したい。
だから、俺は駆け出した。
木の床が軋む。
惨めだとおもう、醜く生き抗って。
だけど、お前を否定したい。
風を腕で掻いて進む。
そして、仏像に触れた。
*
沖田 健が仏像に触れた瞬間、仏像が消えた。
僕はクリアか?一瞬、そう思ったが。
「だるまさんが、転んだ。」
その一言が光を打ち砕いた。
なぜ?仏像には触れたはず。
喉がなにか詰まって、息が出来ない。
なぜ?なぜ?
なにかが間違っていた。
そんな、馬鹿な。
……死にたくない。
仏像は言った、「本物」の私に触れたらと、
まさか、「偽者」。
じゃあ本物はどこに。
その答えを示すように視界いっぱいに、
「下」という文字が広がる。
後ろを振り返ると「中」と書いてある。
下と中?なんの意味があるのか。
何かヒントを求め、辺りを見渡す。
だが、下と中だけだ。
普通はこれと一緒に「上」があるはず。
もし、「上」があるとしたら、
「下」「中」「上」の先。
だが、中の先だなんて。
中は部屋の一番後ろだ。
それ以上後ろなんてない。
いや、前提が間違っている。
この部屋だけだなんて言われてはいない。
まさか。
「……この部屋の奥。」
口が勝手に開いた。
「隣の部屋に、仏像はいる。」
*
「隣の部屋に、仏像はいる。」
千颯がそう呟いた。
隣。
確証なんてない。
違うかもしれない。
信じていいかもわからない。
だけど、嘘はついてない気がしたから。
俺は、走った。
前の扉を抜け、廊下を走る。
隣の教室の後ろ側を見ると、
大きく「上」と仏像が、教壇の上にあった。
タイミングを伺ったように、声が響く。
「だるまさんが、」
希望は絶望に変わった。
だけど、まだ死んでない。
「こ」
だから、走った。
「ろ」
足の感覚はない。
「さ」
風は冷たい。
「れ」
風と共に来る血の匂いは鼻を刺す。
大粒の涙を流しながら、仏像を力一杯に殴った。
「ゴミクズの皆さん、おめでとうございます。」
「第四の暇潰し(げーむ)お疲れ様でした。」
生存者20名 死亡者4名




