ババ抜き
*←は視点変更を示します。
「それでは五分後に、第三の暇潰し(げーむ)を開始させていただきます。」
二回とも生還したからか、
クラスは少しだけだが余裕が出来たようで、
話す者も現れた。
「ねえ、次、なんだと思う?」
相澤 絵美と、
白石 栞奈の話し声に聞き耳を立てた。
「まったくわかんないわー。」
どんな状況になっても能天気な馬鹿は治らない。
「ねえ、わかってる?次は私たちが死ぬかもしれないんだよ。」
「わかってるんだけどさー。
なんか死って実感湧かないよね。
実際、私は仏像?っての見てないし。」
第一も第二も沖田 健が奮闘したお陰で被害は少ない。
「やばいよ、あれ。」
相澤 絵美は体をかなり震わせている。
第二の暇潰し(げーむ)で襲われたのが相当効いたのだろう。
そんなくだらない話を、仏像の声が遮った。
「では、五分経ったのでルールを説明させて頂くのですが、そのまえに。
皆さん、チームを作ってください。」
「は?まずルールを説明しろよ。」
沖田 健の言葉を仏像は聞かない。
「チーム人数は、五人です。」
そう言って仏像は黙り込んだ。
クラスメイトは仕方ないという様子で各々チームを作り始めた。
さて、僕はどうするべきか。
まともに友達がいない僕にはかなりの難問だ。
一人で考えていると沖田 健が話しかけてきた。
「千颯、俺たちのチームに入らないか?」
後ろには、
高杉 晴人
相澤 絵美
白石 栞奈がいる。
「ちょっと!なんでこいつなの!?」
最初に反応したのは相澤 絵美だ。
白石 栞奈は目を細め、頭を傾げている。
高杉 晴人はなにも言わない。
「わかった。」
断る理由はなかった。
「チームも決まったようなので、
ルール説明をさせていただきます。」
「第三の暇潰し。
ババ抜き。」
ババ抜きか、まずいな。
運要素が高い。
僕は運動神経以外にも、かなり運が悪い。
「ルールは簡単です。
ただ、最後にジョーカーを持っていなければいいんです。」
「普通のルールと違う所は、ペアができても手元に残すことが出来る点です。
自分のターンなら好きなタイミングで場に捨てる事ができます。」
「そして、皆さんわかっていると思いますが。
最後にジョーカーを持っていた場合、
暇潰し終了となります。」
そう言い終わると仏像は消えて、
瞬きをすると、部屋が変わっていた。
部屋には僕たち五人しかおらず、
真ん中には五つの椅子が、円状に置かれている。
椅子の真ん中には机が一つあり、
トランプが五人分置いてある。
「おい、まさか、ここの五人でやれってのか?
じゃあ、この中の一人が暇潰し終了だって言いてえのか。」
沖田 健の手は強く握られていて、震えていた。
沖田 健に近づき言った。
「お前は自分の「死」を見たことがあるか。」
「……なんだよ、それ。」
まだ、見たことがないのか。
「そうか、見たらわかる。
どこまでいっても、人間だってことが。」
「……」
お前は近いうちに、それを知ることになる。
*
頭痛がする。
気持ちが悪い。
俺は、どうすればいい。
わからない、ただ生き残るしか道はない。
手札は10枚。
俺は千颯からカードを一枚引く。
キングが揃い、ペアを捨てる。
残り9枚。
その調子で順調にカードを減らしていく。
残り5枚。
そして、また千颯からカードを引こうしたした瞬間。
千颯が動いた。
一枚、こちらから見て左側のカードを上に出す。
なぜだ。
まさか、千颯がジョーカーを持っているのか?
だが、なぜこんなことをする?
これじゃ相手に自分の手札にジョーカーがあることを伝えるだけじゃないか。
こいつを侮ってはいけないと、本能が告げている。
千颯のカードは五枚。
もし、左のカードがブラフで、
それ以外を引かせるためだとしても、
まだ、左のカード以外に四枚もある。
わざわざ左のカードに挑戦してみる必要はない。
そうだ、今はまだ焦らなくていい。
恐る恐る、カードを引く。
カードは、スペードの三。
ただのスペードの三だ。
ほっと息を吐く。
そして、俺は栞奈にカードを引かせる。
「やったー、またペア。」
栞奈のカードは順調に数を減らし、残り三枚。
そして千颯が晴人からカードを引く。
ペアが揃ったらしく、カードを捨てる。
これで千颯のカードは残り四枚。
そう、思っていたのに。
千颯は口角を上げ、隙間から歯を見せた。
俺はわからされた、これは、
この暇潰し(げーむ)は、
俺と千颯の、1対1だったということに。
千颯は、もう一つ、ペアを捨てた。
は?なぜ!?
追加ルール!?ペアを隠し持っていたのか。
これで千颯のカードは残り二枚。
そして、トドメを刺すように、
左側のカードを、また、上にずれた。
自分の体が一瞬止まる。
息が上手く出来ない。
視界が醜く歪む。
体の熱は一気に消えてゆく。
まさか、本当にジョーカーを持っているのか。
手に汗が浮く。
声が喉の奥から出てこない。
どっち、どっちだ。
俺は──。
*
さあ、早く引けよ。
お前が、何を引くのかもうわかってるんだから。
*
俺は、左側のカードを引いた。
引いたカードは、
──ジョーカー。
顔はくしゃくしゃになり、涙が静かに溢れ落ちる。
目を無理矢理に擦って、何度も見る。
だが、カードは変わらない。
目の前にきたそのカードは、
ただのカードなんかではない。
「死」そのものだった。
俺は千颯に見せられた。
人間が、最も恐れる物を。
*
俺は最初にジョーカーを左側に持ち、上に出した。
当然、お前なら考え、考えて右側を選ぶ。
ここまではわかりきっている。
だから、その舐めた弱者の思考を利用した。
まだ相手に沢山カードがある。
ジョーカーが自分の下に来ることなんてない。
心の底で思っている、その弱者の思考。
そして「死」を知らない弱者は皆、
自分の余裕を、殺された時。
人は壊れ、余裕は、焦りへと変わる。
その時点で試合は決まっていた。
だって、同じ手は怖いだろ?
必然、お前は左のジョーカーを手に取る。
だが、お前はこれで「死」を見て、知った。
これで死ぬわけないだろう?
*
どうすれば、このままじゃ。
いや、俺は何を考えているんだ。
このままでいいじゃないか。
誰かが死ななくちゃならないなら、
俺が死ねばいい。
そうだ、そう。
なのに、それを本能は強く断った。
生きたい。
死にたくない。
それだけが、今の俺を突き動かした。
俺は今、ジョーカー以外にペアを一つ隠し持っている。
ペアを捨てた。
栞奈は深く物事を考えない。
ペアを捨てたらジョーカーを取ったとは思わない。
栞奈は、油断する。
だからあえて真ん中にジョーカーを置く。
一番取りやすく、この暇潰し(げーむ)を、
ただの運ゲーだと思っている人間には──。
「ゴミクズの皆さん、おめでとうございます。」
「第三の暇潰し(げーむ)お疲れ様でした。」
強い吐き気が襲ってきて、ゲロを吐いてしまった、
ごめん。
ごめんなさい。
白石 栞奈は、
俺が殺してしまった。
周りはなにか話しかけてくれてたのかもしれない、
だけど、俺の耳はそれを聞こうとはしなかった。
生存者24名 死亡者6名




