おにごっこ
*←は視点変更を示します。
「ゴミクズの皆さん、おめでとうございます。」
「第一の暇潰し(げーむ)お疲れ様でした。」
仏像はそう無機質に告げた。
泣いている者もいれば、
ゲロを吐いている者もいる。
地獄そのものだった。
「答えろよ、なんでこんな酷い事を。」
沖田 健は皆の本音を、真正面からぶつける。
「ゴミクズの皆さん、
こんな経験はありませんか?」
「は?」
「子供の頃に、蟻を殺した事を。」
「……」
「それと、同じですよ。」
沖田 健はそれ以上は喋らなかった。
それを言われてしまえば誰も反論は許されない。
仏像はそれでも、喋るのをやめない。
「では、五分後に第二の暇潰し(げーむ)を開始させていただきます。」
仏像は話し終えると消えてしまった。
疲労のせいかはわからないが、
全員、床に座り下を見ていた。
僕はそれをさほど気にせずに、空を眺める。
空は星すら無くて、真っ暗だった。
この世界で、
最も無駄な五分間を、僕たちは過ごした。
「では、五分経ったので次の暇潰し(げーむ)のルール説明をさせて頂きます。」
「第二の暇潰し。
おにごっこ。」
かくれんぼの次はおにごっこか。
「ルールは簡単、制限時間まで鬼に捕まらずに逃げてください。
鬼は耳が良いので気をつけてください。」
「鬼は五分後にここに出現します。」
「そして、皆さんわかっていると思いますが捕まった場合、暇潰し終了となります。」
黒板には時間で00:40と書かれている。
その下には出現まで五分と書かれている。
皆は何も話さずに、散り散りとなった。
はっきり言って、かなりまずくなった。
僕は自分で言うのもなんだが、
体力と運動神経があまりない。
だがそんな言い訳は許されない。
出現まで、もう三分を切っている。
だが出現場所がわかっているなら逃げる場所は大体決まっている。
この三階から、一番遠い一階だ。
急いで階段を駆け降りた。
あれは、沖田 健。
……使える。
ポケットからスマホを取り出した。
*
「おい、どうすんだ健。」
「まずは一階だ、一番出現位置が遠い。」
俺たちは一階まで降りた。
階段から離れた教室に身を潜める。
なにか話そうとする晴人の口を人差し指で止めた。
小声で晴人に言う。
「恐らくだがもう五分を過ぎた。
相手の耳の良さがわからない以上、
これからは小声でいくぞ。」
晴人がぶんぶんと頭を振ったのでゆっくりと指を離した。
「というかさ、鬼ってなんなんだろ。」
「はあ?そんなことかよ、当然あの仏像だろ。」
「じゃあ今回こそ本物で来るのかな?」
「知るかよ。」
本当に状況がわかっているのか聞いてみたい。
そんな事を話している時、叫び声が聞こえた。
絵美の叫び声だ!
二階から聞こえる。
俺はほんの一瞬、考え、口を開いた。
「晴人、すまん、俺は行く。」
「は?やばすぎだろ、自殺でもしてえのかよ。」
言われたって仕方が無い、前の暇潰し(げーむ)であんな事があったっていうのに。
我ながら、馬鹿だなと思ってしまう。
「晴人はここにいてくれ、自殺行為に巻き込む気は無い。」
「ああ、言われなくても行かねえよ。」
俺は小さく頷いた。
「だって俺が行ったら足手纏いになっちまうからな。」
「そんなことは──。」
晴人が俺の言葉を遮る。
「お前を信じて待つ、だから絶対に生きろ。」
「……ああ。」
俺はそう言い、教室を出た。
二階に駆け上がる、でかい仏像の前に絵美が倒れている。
それは、背中から数十本の手を出している。
恐らく3mほどあるその巨体は、
俺の狭い視界を埋めるには、
十分すぎるものだ。
「健!助けて!」
ギリギリか、よかった。
「こっち見ろ!!!化け物!!!」
鼓動はいつもよりも早くて、
スマホの音がどこかで鳴っている気がした。
それを気にせず、仏像はズシリとこちらを向く。
それは思ったより大きく、足が震えてしまう。
この世の生物では無い。
そう肌で実感する。
見て恐怖を覚える物では無い。
本能で、恐怖を覚えさせられた。
だが、足を強く叩き、駆け出した。
とてつもないほどの足音が後ろで響く。
その音を聞くたびに、
喉の奥から出てきそうなものを、
無理矢理に押さえ込んだ。
あまりに音が大きく、距離感がわからない。
それがたまらなく怖くて、振り返ることができない。
その瞬間、足に激痛が走る。
気づくと俺は、床に倒れていた。
奴の伸びた手が、足を捕まえていた。
晴人ごめん、約束、守れない。
絵美は、助かったかな。
俺は、死ぬ。
冬は寒くて、足が赤くなる。
裸足のまま震えていた記憶。
死を覚悟したのに、
だが、俺は死ななかった。
もう死んでいる筈なのに。
後ろで、大きな声が響いていた。
「こっち見ろ!!!化け物!!!」
その声は、俺の声だった。
あまりに突然で、理解ができない。
なぜ?なぜ俺の声が俺以外から聞こえるのか。
後ろの足音が小さくなっていく。
タイミングを疑ったように、
前から足音が聞こえる。
ゆっくりと、こっちに向かってくる。
鬼が今さっきまでいたっていうのに、誰だ?
晴人?そんな浅はかな予想はすぐに破られた。
「お前にはまだ、生きる価値がある。」
こいつは、橘 千颯。
なんでお前が、いや、それより。
「なにをしたんだ、俺の声がなんで。」
「あれはお前の声の録音だ。」
「だ、だが、いつ録音した。」
「お前の後ろについて行ってた。
気づかなかったか?」
絵美を助けた時に近くにいたのか。
俺が驚きの連続で固まっている間に、
千颯は俺の横を通り過ぎ、
鬼が向かって行った方向に行く。
「そっちは鬼がいる方向だぞ。」
「だからだよ、悲鳴が聞こえるだろ。」
耳を澄ますと遠くから悲鳴が聞こえている。
「鬼の場所ならわかる。」
「だから、危険だと。」
「鬼の場所だけでは無い、進行方向もだ。」
「ま、さか。」
「悲鳴を追えばいい。」
「……」
「鬼は意味もなく後ろに戻ったりはしない。」
人が死んでいくのを見過ごせと?
それを道しるべに?
ふざけるな。
俺は息を強く吸う。
「こっちだあああああこっちにこおおおおい!」
「ッこのクソ馬鹿が!」
「さあ!走るぞ!」
00:05
*
気持ちが悪い。
視界が歪む。
汗が服に染み付く。
なんなんだこいつ、なぜわざわざ。
せっかく助けてやったのに。
理解出来ない。
僕はまだ、死ぬわけにはいかない。
唇を強く噛み、足に力を入れた。
00:00
僕たちは瞬きをした瞬間、元の教室に戻された。
生存者30名 死亡者4名
「ゴミクズの皆さん、おめでとうございます。」
「第二の暇潰し(げーむ)お疲れ様でした。」
息が絶え絶えで、
仏像の声すら、聞く余裕がない。
だけど、周りの歪んだ顔は、
口角を、無意識に上げた。




