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七話

 

 待たされたものの、幸か不幸か門前払いは食らわず、縁は屋敷の中に通されていた。

 外観もそうだったが、時代劇のセットにでも使われそうな屋敷だ。タイムスリップしたような感覚に陥るのは、古風な作りの家屋だけではない。廊下や庭で見かける人々がみんな和装で、たすき掛や割烹着で忙しなく働いているからだ――その人たちはみんな、この間家で働く使用人だと先を歩く老女が言った。


 どこか誇らしげで「間家で働くのは名誉なことなのだ」と語る。時代錯誤だなと思った縁だが黙っていた。かわりに、チラリと周囲に視線を送る。

 すれ違う人たちはみんな忙しそうだが、縁を目にするとジロジロと不躾な視線を送ってきた。値踏みされている気分だ。庭先の者たちはあからさまで縁を遠巻きに見つめ数人でヒソヒソと言葉を交わしている。


(感じ悪いな)


 だが、どの人も縁が自分たちを見ていると気付くと、パッと顔を背けその場から足早に立ち去る。わざとらしく「忙しい、忙しい」と聞こえるように繰り返すものもいた。


 それを見て「ふん」と小馬鹿にしたように縁を笑う老女は、かりにも案内役なのだが……どうかと思う態度だ。

 案内中も縁に向けられる視線には、隠しもしない侮蔑の感情が浮かんでいて、先ほどのお家自慢でも「まぁ、貴方では分からないでしょうが」「貴方のお母様はなにを教えていたのか」「あぁ、間家のことを教えられる知識などありませんでしたね」等と、わざわざ嫌味を差し込んできたくらいだ。


(面識なんてないくせに、よくそこまで言えるな)


 縁は表情を変えないようにしつつ、心の中ではあきれかえっている。

表面上はなにも言わないでいるのだ、老女は縁がなにも言い返さないと思ってペラペラと好き勝手話し続けていた。


「まったく、本当に迷惑というか浅ましいというか……。今は秘祭の準備もあり、間家はとても忙しいというのに……。今になって、姿をみせるなんて。間家のおこぼれに預かろうというのかしら。あぁ、浅ましい。やっぱり血が悪いせいね。母親の血のせいかしらねぇ」

「秘祭……? それって、たしか一般公開はされないっていう……」


 船で鉤路が言っていたあれではないだろうか――後半は無視して縁が問うと、老婆は急に渋い表情を浮かべた。


「……はぁ……少しは勉強してきたようですこと」


 どうやら、縁が糸布狭島の行事を知っていたことが気に食わなかったらしい。

 うっとうしい上に面倒くさい年寄りだと、縁は胸中でため息をつく。だが、うっとうしい上に面倒くさい老女は、さらに知識のひけらかしという悪癖があるようだった。


「いかにも、秘祭というのは平民ごときには決して目にすることが叶わない崇高な儀式なのです。はじまりは、この島に神が降り立った古い時代。そこから今日まで、神と我ら人との間にたち、神から力を受け取り、この島にその神力を行き渡らせてきたのが当家なのですよ。間家は神の代行者であり島の守護者……神と我らを繋ぐ一族なのです。その血はなにより尊ばれ……」


 聞いてもいないのに、語り始める……船の中での鉤路を彷彿させるが、こちらのほうは、かなり印象が悪い。なので、足をとめて語り始める老女の、時代錯誤とおとぎ話をまぜこぜにしたような自慢話に付き合う義理はない。


「すみません、案内を続けてもらってもいいですか?」


 話の腰を折ると、老女は縁をにらみつけた。気持ちよく話していたところを邪魔されて腹が立ったようだ。


「まったく、お里が知れる!」


そう吐き捨てて、ズンズン歩き始めた。

以降は嫌味もなければ振り返ってジロジロみてニタニタ笑うという不快なこともなくなった。

 そのうち、老女がある部屋の前で立ち止まる。屋敷が広いせいなのか、途中に挟まれた老女の話を抜きにしても時間がかかった気がする。

 

(疲れた……)


 歩き疲れたのではなく、気疲れだ。これでは、ラスボスだろう祖父相手に持つだろうかと危惧する縁をよそに、老女は障子の向こうに声をかけた。


「旦那様、お連れいたしました。……――貴方は、ここでお待ちください」


 ツンケンとした口調で縁を止めると、自分は障子を開けて部屋の中へと入っていく。

 それは、一分ほどの時間だっただろうか。


 突然、物をたたき割るような大きな音と悲鳴が聞こえた。


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