エピローグ
「お疲れ様です」
「お疲れ、有沢」
仕事を終えて、縁は会社の外に出る。
すると――。
「おっす、おにーさん。おつかれさまでぇ~ス!」
「…………は?」
派手な髪色の、チャラそうな男が手を振りながら立っていた。
「…………」
「あれ? リアクション薄くない? あれ? あれれ? ねぇ、もしかしてオレのこと忘れた感じ?」
「……灯夜……」
「あ、なんだ覚えてるじゃん。もー、そんなサプライズいらないからぁ~」
灯夜は、自分のペースでポンポン話しているが縁はついていけない。
そもそも……。
「お前、なんでここにいるんだ」
「そりゃあ、縁に会いに」
「……お前に、職場を教えた覚えはない」
「えー? じゃあ、偶然通りかかっただけ?」
「……じゃあってなんだよ、じゃあって」
わざわざ調べて待ち伏せたのかと、縁がうろんな眼差しを向けると、灯夜は「そんな目で見ないで!」と大げさにリアクションした。
「真面目な話、縁は色々書類書いたでしょ? オレたちの部署の管轄だから、書類チェックもするわけ。そしたら、チラっとね! チラッとだけ、見えたから!」
「……それって、やっていいことなのか?」
「だって見えちゃったんだもん!」
ダメなんじゃないかと呟いて、縁ははたと灯夜を見た。
「そういえば、詳しくは聞かなかったけど、お前や浅利さんたちってなんなんだ? 警察みたいなものって言ってたらしいけど……」
「えへっ」
「…………い、いや、まぁいいや」
「えー、そこは突っ込んでよ。深く聞いてよ、根掘り葉掘り探り入れちゃってよ」
「世の中には、人には知られていないけど大変な仕事がある。そういうことだろ」
縁が言うと、灯夜は「ざっくりだなぁ」と笑った。
それから、ふと表情を改める。
「縁。興味あるなら、うちで働かない?」
「無理」
「即答かぁ」
「お前だって、本気で誘ってないだろう」
すると灯夜は「あはは」と笑い、それから携帯を取り出した。
「じゃあ、個人的な連絡先を交換しよう」
それならいいかと、縁が自身の携帯電話を取り出し操作しているとふと灯夜が距離を詰めてきた。
驚いて一歩下がると、じっとこちらを見ている灯夜と視線が絡まる。
「な、んだ、びっくりした……近いぞ」
「あ、ごめんごめん。たださぁ……今気付いたんだけど――縁の目って、光の加減で青みがかって見えるんだなぁって」
「…………え?」
「朝灯の目は、海の青だけど……縁の目は、あれだ。――夜明けの空の色に似てる」
なにが言いたいのか、意図を掴めず縁が目を瞬くと灯夜は「あはは」と笑った。
「念願の連絡先をゲット~。んじゃ、今日はこれで退散するわ~」
「は?」
「それじゃあ、またね――縁ちゃん」
ひらひらと手を振ると、灯夜はさっさと歩き去って行く。
「……なにしに来たんだ、アイツ?」
まさか、本当にただ連絡先だけを交換しに来たのだろうか――いや、まさか。灯夜はそこまで暇ではないだろう。
(暇ではない、はずだ……多分)
なぜだか、どっと疲れた気がして縁は呟いた。
「帰ろう」
――そして、いつも通りの日々に戻っていくのだ。
一方、夜でも明るい街中を歩く灯夜は、電話をかけていた。
「そっ。あっさり断られました~。勧誘失敗で~す。記憶? バッチリ残ってるんじゃないっすかね~知らんけど」
通話の相手は、なにやら不満があるようで文句を言っているようだったが灯夜は「あっ、電波悪いんで一回切ります!」と嘘をつき、話を打ち切る。
それから、ふぅとため息を付くと独りごちた。
「あーぁ、断られてショックなのはオレらも同じなのに、班長ってば酷いよなぁ」
でも、と携帯を見つめて灯夜は笑う。
「連絡先はゲットした。断られたのは残念だけど、また会えるから――結果オーライってところか? なぁ、朝灯?」
答えは返らない。
だが、灯夜の右目は――陽光を受けた海のように、青く煌めいていた――。




