四十五話 灯夜⑥
「縁!」
灯夜の声は轟音にかき消された。
目と鼻の先の距離だというのに、そこに境界線があったかのように縁はあっというまに土砂に飲み込まれた。
「……嘘だ」
こんなはずではなかった。
こんなはずじゃなかった。
灯夜の頭の中に、何度も同じ言葉が浮かぶ。
「――よす……」
「間、港へ行くぞ」
「離せよ! 縁が……!」
「これでは探しようもない! それに、お前の仕事を思い出せ!」
「――っ」
灯夜は、反射的に浅利をにらみつけた。
しかし浅利は怯むことなく、灯夜をにらみかえす。
「……お前たちを自由にさせるのはここまでだ。今回は、神騙りを解決する上で必要だと思った許可した。だが、ここから先は違う。今回の仕事は、神騙りへの対処、そして記録を持ち帰り封印することだろう――割り切れ、間 灯夜」
「あんたに……! あんたに、なにが分かるんだよ! あいつは、オレに言ったんだ! 死ぬなって、そう言ったくせに……なんで自分が……!」
灯夜とて分かっている。
今、飛び込んでいっても縁を見つけることは不可能だと。
だが、それでも認められないのだ。
認めたくないのだ。
「それが彼の、運命だったんだろう」
いっそ冷ややかに聞こえる言葉に、灯夜はハッと息を呑み、それから吐き捨てるように言い返した。
「そんなもん、クソ食らえだ」
「死に急ぐなよ、坊や」
踏み出そうとした灯夜の肩を掴んだのは、たしなめるように言った浅利ではない。応援にやってきた別の人間で、それでも振りほどこうとしたが叶わずあっさり担がれてしまう。
「状況はどうだ?」
「生きている人間の収容は、完了しました。港だけが外界と接する場所――ということは、一番淀みとかけ離れた場所ということで、被害はありません。ただ、港以外はひどいものです。解き放たれた怒りというのは……いやはや、凄まじい。これが、神を騙り続けてきた末路なんですかね」
「どうせ、島の内側に生者はいないんだ。死者が死せる島を壊すというのなら、好きにさせろ――ん?」
浅利の言葉が途中で止まる。
「川……? こんなもの、来た時にはなかったぞ」
「自分たちもです」
「――それに、この川……妙だな」
天候の荒れ、大地の揺れ。
今、この島には様々な異常が起きているというのに、突然現れたその川は奇妙なほど澄んでいて水の流れは穏やかだった。
「……越えていくしかないな」
浅利の言葉に、まずひとりが踏み出すとすると視界がぶれた――かと思えば、一行は港の入り口に立っていた。
「これは……」
浅利が呆然と呟き、それからはっとして振りかえれば川はなく、かわりに白い着物を着た子どもが立っていた。
「間の」
子どもは誰でもなく、担がれている灯夜に呼びかける。
「――あんた……」
灯夜は子どもの顔を見ると、目を見開く。
その目は、青く澄んでいた。
間の家に生まれた子どもが、神子という生贄にされる条件を備えていたのだ。




