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四十四話


 間のお山。

 そう呼ばれている山が、重いうなりを上げて揺れる。

 縁と灯夜が社の外に飛び出せば、どこからか転がってきた岩がもみ合っていた数馬と琴絵を押しつぶしていった。


 それだけではない。


「縁……!」


 灯夜の呼びかけに、彼が視線を向けている方向……間家がある方角を見るといくつもの落雷が発生し、火の手を上げていたのだ。


「まるで、神の怒りだな」


 ふと聞こえた声に、縁がぎょっとすると、パンツスーツの女が立っていた。

 

「待てど暮らせど報告はない。……てっきり、死んだと思ったが、無事だったみたいだな間」

「名字で呼ぶのやめてくれないですかねぇ、浅利(あさり)班長」

「ふん。そっちのお前は……へぇ……?」


 灯夜と親しげに会話を交わした女は、次に縁に視線を向けて……一瞬だけ目を見張ったあと不敵に笑った。


「……?」

「神を解放したのはお前だろう? 石を壊した、そうだな?」

「そう、ですが……」

「おかげで、長年囚われていた魂たちが解放された。蓄積された怒りや恐怖も一気に解放されたから、こんなとんでもないことになっているがな。見えるだろ?」


 見えるだろうと言われて、縁は間の家の方角に目をこらす。

 そうすると、まわりにたくさんの光の球が集まっていることに気付いた。

 赤い色をしたそれらが動く度に、雷が鳴り地面が揺れ、間の家からは火の手があがり山からは岩がゴロゴロと転がり落ちる。


「たまりにたまった感情を、お返ししいてるんだろう。カミサマのお墨付きでな」

「……まぁ、カミサマをこの島に閉じ込めたのが、間の家(うち)だもんなぁ。それで、あんな血なまぐさい儀式を続けてきた――血で汚すことを、清めるなんて言ってさ。自業自得だし」

「お前は冷めてるな。……一応、生きている人間は避難させておいたぞ、海の上は安全だからな」

「別にどうでもいいけど」


 灯夜は本当に興味なさそうに呟いて、それからあっと思い出したように縁を見る。

 あの冊子のことが頭に浮かんだ縁は、頷いて浅利と呼ばれた女に手渡した。

 女はぺらぺらとページをめくり中身を確認すると、嫌そうに眉をひそめ冊子を閉じる。


「たしかに。協力、感謝する」

 

 後の言葉は縁にだろう、短く声をかけた浅利は「行くぞ」とふたりを促した。


「ここは死人の島だ。生きている人間に長居は無用だろう」

「――」

「そっすね。行きましょうか。……縁?」


 灯夜に名前を呼ばれて、縁は苦笑を浮かべて首を横に振った。


「俺は、ここでお別れだ」

「は? ……なに言ってんの? あっ、まさか荷物? 荷物が惜しいから戻るとか? いやいや、諦めなって。命のが大事だよ」

「――俺は、帰ってきたんだよ」

「……っ」


 灯夜が息を呑む。その目は大きく見開かれていた。

 なにも言うなと首を横に振る彼は、やはり――気付いていたのだと縁は思った。


「十四年前、俺は死んでる。それで、カミサマと約束したんだ。……ここから出してくれるなら、帰してやるって」


 約束を果たしたのなら、自分ももうあるべき姿に還るべきだろう。

 父がそうだったように、朝灯がそうだったように。


「いや、やめろよ。それ笑えないから。バカ言ってないで、早く行こう」


 どどどどどっとなにかが迫ってくる音がした。


「おい、間――」

 

 浅利が強ばった顔で灯夜の肩を引くが、灯夜はそれを振り払って縁に近づこうとした。

 そうして怒ったような、泣いているような顔で近づいてくる灯夜を――縁は力一杯突き飛ばし。


 ――ごぅっ、という凄まじい音と暗闇に社ごと土に飲み込まれた。

 十四年前、そうなるべきだったというように

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