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四十三話 夫婦


 ――倉庫の中で、夫婦は抱き合って震えていた。

 いくつものドロリとしたかたまりに、怯えきった目を向けている。


「これは……ここは、一体なんなんでしょうか」

 

 夫――颯太が震える声で呟けば、夫婦をのぞいて唯一、人の姿をしているパンツスーツの女が気怠そうに煙草をふかして答えた。


「この島は、檻だ」

「檻?」

「巨大な力を押しとどめておくために作られた、魂の牢獄だ――その成れの果てが、これらだよ」


 周りに広がるかたまり……先ほどまでは、人の形をしていたものを指さす女。

 彼女の言葉を聞いて、春菜は「これが?」とかすれた声で呟く。

 

「そんな……この島に来れば……かえり様なら……死んだ者も連れ帰ってくれるって……――あの子のことも、連れて帰って来てくれるって……これが? こんな……」

「……春菜……」


 夫婦が項垂れるのを見て、女は舌打ちした。


「お前たちは、あの子とやらを……こんな姿にしたいのか?」

「――っ」


 まわりにある無数のもの……溶けた肉が作った水たまりを示され、春菜はショックを受けたように息を呑んだ。


「ちが……違う、わたし……!」

「うん、分かってるよ、春菜」


 そんな妻を、ボロボロの夫が抱きしめる。

 彼は、ホテルで島民たちに意見したせいで、倉庫まで引きずられ、暴行を受けていた。

 春菜は、そんな夫を見ていられず庇おうとしたことで、やはり同罪とされた。

 それでも春菜に傷がないのは、夫である颯太が身を挺して守りきったおかげだった。

 

 ただ、島民たちがこうなるのが、もう少しでも遅かったら……こうして夫婦が抱き合うことはなかったかもしれない。

 春菜もそれは重々承知しているのだろう、青い顔で夫を抱きしめ「ごめんなさい」と繰り返した。


「都合のいい奇跡なんて、そうそうないんだよ――だから、このいかれた島のことは忘れて、すぐ避難しろ」


 女が言うやいなや、その後ろから同じようにスーツを着た数人の男女が倉庫に入ってくる。


「行きましょう」

「行くって……どこへ」

「安全なところへ。この島は危険です。それに、旦那さんの傷の手当ても必要でしょう」


 夫婦は互いの顔を見ると、こくりと頷いて立ち上がった。夫には同じくらいの背丈の男が肩を貸す。

 そうして外に出るよう促された夫婦だが、女の横を通り過ぎる時にふたりは思い出したように声を上げた。


「あ、あの……! 僕たちと同じ船に乗ってきた人たちがいて……」

「彼らも、どこかに監禁されてるかも……」

「あぁ、それも把握している」


 女が落ち着いた様子で答えると、夫が「警察の方なんですか」と問いかけた。

 女は、ふんと鼻で笑うとこう言った。


「しがない公僕さ」


 答えになっているような、なっていないような返事だったが、夫婦は付き添ってくれた男女――女の部下らしきふたりに促され外に出たため、それ以上なにも聞くことが出来なかった。


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