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三十八話


 血鳴石、それは十四年前に神子の血を吸った石だ。神子だけではない、乾いた石はその年久方ぶりにたくさんの血を吸い込んだ。


 だが、蓄積されていたものが消えてなくなったわけではない。儀式が途切れるまでは、幾度となく繰り返し捧げられた血とともに蓄積された恨みや憎しみの記憶がある。


 たくさんの血を吸った石。

 たくさんの命を食らい続けてきた石。

 それこそが、邪なる穢れの証だと……なぜ間家の誰も気がつかないのか。

 

 全てはあの石、血鳴石が狂わせたのか。

 それとも、端から全てが狂っていたのか。


「石を壊すって……無理だ。あの石は島のお守りみたいに思われてるんだ。それもあんなデカい石、道具でも持ってこないと」

「誰も試したことはない、そうだろ?」


 縁が問えば、灯夜は「それは……そうだけど」と頷く。

 そう、誰もあの石を壊そうと思ったことがない。

 儀式を止めようという動きは一度あった。その時に石もろとも社も壊してしまえばよかったのに、非人道な儀式は恐れて止めたとしても、切っ掛けとなる石は残してきた。社の中で、管理し守ってきた。


 無意識に大切なものとして、扱ってきたのだ。穢れを蓄えた、あの石を。

 つまり、あれが――カミサマを捕らえる牢獄の鍵。


「本気?」

「ああ。だから……冊子はお前が自分で届けてくれ」

「……は?」


 灯夜の口から低い声がもれる。


「待てよ。なんか、それ、おかしいだろ。……縁言ったよな? オレが生きててよかったって。死ぬなって、そう言ったよな?」

「言った」

「じゃあさぁ、なんでそんな……死亡フラグ乱立気味な行動をとるかな? 逆にオレも同じ気持ちだってわかんないかな?」

「分かるけど」

「けど、なんだよ! お前……――お前は」

「かえってきたのは、かえり様だけじゃない」


 灯夜がハッと息を呑んだ。


「もう、分かるだろう?」

「――っ……縁……」


 灯夜は、思い当たるふしがあるのだろう、分かりやすく表情を強ばらせ……それから、泣きそうな顔で縁を呼ぶ。


「約束を果たすかわりに、俺はかえってきたんだ。だから……カミサマとの約束は、守らないといけない」


 それは、つまり。


「縁ちゃんは、この島を沈めちゃうんだ?」


 無邪気な少女を彷彿とさせる声が、そこに響いた。


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