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三十七話


「で? じーさんは? アイツ、どこ? まさか迷った? ウケる」


 顔を上げた灯夜は、元の調子を取り戻していた。キョロキョロと辺りを見回し、へっと小馬鹿にした笑みを浮かべてみせる。


「……それなんだが」


 縁は、自分が見たものを灯夜に説明した。


「は? じーさんが、縁の親父さん? それって、どういう……」

「全部食べた――アイツはそう言ってた。食べた存在の記憶を元に、演じてたんじゃないかと思ったが……そうなると、最初の対応が妙なんだ」

「縁に友好的だったっていうあれか」

「そう。仁一朗の記憶を食べているなら、俺にどういう対応をするのが正解か分かるはず。だけど、アイツの基本対応はズレてた。……いや、アイツはまるで……父親のように振る舞ってた。だから、元になる人格は最初に食べたほうに寄るのかもしれない」


 難しい顔で黙る灯夜に、縁は「それでだな」と話題を変えた。


「……俺は思い出したんだ」


 灯夜の目が大きく見開かれる。


「な、にを」

「約束をしたんだ」

「……約束?」

「そう。俺は……約束を果たさないといけない。だから――ごめん、灯夜。俺は、あのアサヒさんをもう一度殺す」


 驚く灯夜の目に、縁の顔が映っている。

 その表情は、我ながら笑ってしまうほど情けないものだった。


「朝灯を殺すって……なに言ってるんだか。《《アレ》》は違うよ。朝灯の体を動かしている、別のなにか……。例えるなら、化け物だ」

「それでも、だ。……お前は、妹の死体を探しに来たって言ってただろ。……それってつまり、朝灯ちゃんの体を取り戻しに来たってことじゃないのか」

「…………」

「けど、俺が今からやることは……多分、それすら叶えてやれない」

「待った。……なにやろうとしてるわけ?」


 社に向かって歩き出そうとした縁の肩を、灯夜が止める。

 

「危ないことなら、オレがやるよ。……オレは、そういうの覚悟してきてるんだ。でも、縁は違うだろ? 今も昔も、巻き込まれてるだけだ。だからさ……」

「違う。これは、俺の約束だから……俺がやらないといけない――もう、十四年も待たせてるんだ」


 縁はひたりと社を見すえて言った。


「俺は、あの石を……血鳴石を壊す」


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