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三十四話 灯夜③


 祖父は笑いながら、篤志が刺される様子を見ていた。


 篤志は、数馬により真ん中に鎮座する大きな石に押しつけられ、ずるずると力をなくしへたりこむ。

 縁は父親を助けようとして、数馬にとびかかり――鎮座する石に打ち付けられてしまう。


 けれど、祖父も数馬も灯夜には、なにもしなかった。かわりに、お前は間の家の者なのだから、秘祭のやり方をよく見ておくようにと言って――。

 

 篤志の首を切った。

 血が吹き出た。

 たくさんの血が。

 

 そして、叫び声を上げる朝灯を檻から引っ張り出した祖父が、厳粛な顔をして言った。


「穢れは洗い流さねばならぬ――穢れは洗い流せ。邪なるものは洗い流せ。シノサキへの導きのため、道を作れ――」


 祖父の手には刃物が握られており、それは動物のように掴み上げた朝灯の体を無造作に切り裂いた。


 朝灯が上げた苦痛の声と同時に、灯夜の口からも悲鳴が溢れた。

 灯夜を抑えたのは数馬だった。

 そして、祖父はまるで獲物を甚振るように朝灯の体に切り傷をつけていき――。


「助けて……! 助けて灯夜ぁ!」


 朝灯の声が聞こえる。


「よく見ておけよ、灯夜。これが儀式だ――犠牲の上になりたつ繁栄だ。俺たちは、選ばれた人間なんだよ」


 爛々と目を輝かせて、祖父の凶行を見つめる伯父も。愉悦に顔を歪めて孫娘を甚振る祖父も。血臭が立ちこめる社には、醜悪なものしかなかった。


「痛いっ、痛いぃっ! やめてよ、やだよ、助けて、お母さん……! 灯夜! いだいl ――助けて、縁ちゃん……!」


 最後に朝灯が縋るように呼んだ名前に、祖父がピクリと反応する。縁がもうろうとしながらも朝灯に手を伸ばしていた――まるで、朝灯の声に応えるように。

 気持ちの悪い笑みを浮かべていた老人は、途端に顔を怒りに染めて「はやく清めねば!」と怒鳴り声を上げた。


「――よす…………」


 縁、と名前を呼ぼうとしたのは自分か朝灯か、灯夜はもう覚えていない。

 祖父はなんの加減もせず縁を踏みつけた。骨の折れる、鈍い音がした。すぐにそれは湿り気を帯びた音に変わり……。


 血だまりの中で、あちこちひしゃげて、どこかどこだか分からなくなった縁を見て、灯夜は叫んだ。

 朝灯もまた、何度も縁の名前を叫んでいた。祖父は満足そうに笑うと――朝灯の喉を切り裂いた。


 血が、勢いよく噴き出す。

 祖父が大事にしている石に、どくどくと朝灯から流れる血をかける。


 だが、そこで祖父は怪訝な顔をした。


 声さえ出なくなった灯夜は、うめき声ひとつ上げられない。

 けれど、声が、叫び声が、聞こえるのだ。


 朝灯の体を引き裂いたはずなのに、朝灯の体から声が出ていた。

 祖父が引き裂いても引き裂いても止まらない。


 混ざり合った……たくさんの、誰かの声が。


 恐怖、苦痛、怒り、憎しみ、負の感情が幾重にも重なり、声の厚みは何重にも増えていく――数馬も異変に気付いたようで、きょろきょろとしだし、灯夜を抑えていた腕の力が緩んだ。


 そして、灯夜は絶えきれず社から飛び出し、逃げ出した。


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