三十三話 灯夜②
――そう、縁は島の人間とは違った。
どちらかといえば控えめでマイペース。ほんわかした雰囲気の縁のそばは、居心地がよかった。だから、縁が家に居る間だけだからと理由をつけて、余所者を嫌う大人たちの目を盗み、双子は縁と過ごすようになった。
縁も、両親と祖父を含めた親戚たちとの話し合いの場も、ひとり待つのも居心地が悪いらしく、同い年である双子と遊ぶことを喜んでいるようだった。
意外なことに、縁に庭を探検するように進めたのは伯母の琴絵だったそうで、彼女は双子が縁と会っていることにも気付いていたのかもしれないが……なにも言われなかった。
お外のかたと呼ばれる余所者が滞在する期間はいつも短かったが、縁たち家族は長かった。
――内心、おかしいとは思っていたのだ。
余所者が嫌いな祖父なら、四の五の言わず縁たちを追い出したっておかしくないのに、話しをするためとはいえ、屋敷内においていることを。
なにを話し合っていたのかは知らない。だが、祖父が白といえば黒でも白くなるのがこの屋敷であり、この島だ。だから、本来なら長引くなんてありえないことだった。
だから――縁たち家族がこんなに長く留まるのはおかしいと、心のどこかで思っていた。
けれど、三人で過ごす時間が楽しくて灯夜は違和感に背を向けた。それは朝灯も同じで、彼女は特に初めての友人である縁を特別に思っていたから……知らないふりをしていた。
縁の母親が帰りたがっているというのを使用人たちが「はやく出て行けばいいのに」「図々しい」という悪口付で噂しているのを聞いた時も、帰らないでくれと願った。
そして、あの日。
祖父は急に離れにやって来て、余所者と仲よくしたことを穢れだと言って朝灯や灯夜を詰り、縁を突き飛ばした。
自分も縁を初対面で小突いたとはいえ、体格差から無意識に力加減をしていた。
それでも、縁はよろめいて尻餅をついたのに、大人の力でそんなことをしたら……と灯夜は青くなった。朝灯は、酷く取り乱し「これからは、ちゃんと言うことを聞くから縁ちゃんに酷いことをしないで」と泣きじゃくった。
そして朝灯はお山へ連れて行かれ――立ち入り禁止の旨が通達され山の出入り口には使用人たちが立ち塞がった。
この時、灯夜は気がついたのだ。
祖父が、この屋敷の中で知らないことなどあるはずがない。琴絵が黙っていたのは、自分がなにか言わなくてもどうせすぐに分かることだと思ったからか……。双子が外から来た従弟である縁と接触したことは、とっくに使用人たちが報告していたのだ。
知っていて、放置していた。このタイミング……表向きは島の祭がある日。その裏では、間の家が執り行ってきた秘祭復活の今日まで。
なぜなのか。
それは――朝灯をより従順にするために。
吐き気がする答えに行き着いたのは数年後だったが、現に朝灯は縁を案じて祖父に従った。
けれど、灯夜は納得出来なくて、縁も朝灯を心配して……けれど、大人はみんな聞く耳を持ってくれなかった。必死の訴えを、聞こえないふりで通したのだ。
琴絵だけは、反応こそしてくれたが「あきらめなさい」と言われただけ。縁の父、篤志だけが話を聞いてくれた。そして、山の中にこっそり忍び込むのに協力してくれたのだ。
灯夜は今でも、この時の選択について思うことがある。
――自分は心底バカだった、と。
それすらも、祖父の思い描いたとおりの行動だったのだから。
自分は、ひとりで追うべきだった。
けれど、当時はそんなことすら思い至らず、助力してくれる友人と大人の存在を得て灯夜はお山の奥へ……血鳴石があるあの社に向かったのだ。
そこが儀式の場所だということは知っていたが、正確な場所は子どもの灯夜では覚えていなかった。だが、篤志が場所を知っていた。
昔、祖父に連れて行かれ「秘祭を蘇らせるのだ」と聞かされた場所だと。
そして、祖父は予想通り社にいた。仮面をつけた伯父の数馬と共に。
朝灯は捕らえられた野生動物のように檻に入れられ震えていた。
そんな光景を目にして篤志が祖父たちに憤りの声を上げた。
こんな非人道的なことは許されないと詰め寄る篤志を――数馬が刺した。
何度も、何度も。灯夜と朝灯……そして、縁の目の前で。




