二十六話
「…………」
「お、おーい? え? ダメそう?」
灯夜の声がする。
縁はたった今、目が覚めたような状態で呟く。
「……約束……。約束を、したんだ」
「……あぁ」
自分は、欠落と言ってもいい度合いで、なにかを忘れている――灯夜の言うことが事実なら。
断片的に、思い起こされたのは、誰かとの約束。
その相手は……。
「俺は、お前となにか約束したか?」
灯夜は、なにかを考えるように目を伏せた。
だが、すぐに首を横に振る。
「オレとはしてない」
「じゃあ……」
「――覚えてないんじゃなかったっけ?」
問われて、縁は「覚えてない」と呟く。
「分からないんだ。本当に。だけど、なんか……こう、浮かぶんだよ。変な感じなんだけど……誰かが」
自分の状態に縁自身も戸惑っていた。説明するにも、なんと言えばいいのか分からない。歯がゆい状態ながらも伝えようとすると、灯夜は「そっか」と頷いた。
「もしかしたら、神様効果的なやつか?」
「なんだ、それ」
「この島には神様がいるってこと。鉤路さんが船で言ってたことは、言い伝えとかじゃない。この島の連中は、今も神様がいるんだって信じてる。……それがより身近に感じるように作り出された存在が、かえり様だ」
灯夜の言葉に、縁は赤い石を持った人たちの言動を思い出す。そして、間の家で仁一朗が倒れたとき、医者ではなく「かえり様」を呼んだことも。
「かえり様が、神様扱いされてるってのは……なんとなく、分かる」
「十四年前の土砂災害からの、唯一の生還者って触れ込みだしなぁ。そこで神の力を貸し与えられたから。まぁ、神の力で守られた島で災害が……それも、大事な儀式の日に起きたんだ。自分たちの神秘性や絶対性が揺らぐと思って慌てた、間のじじいが考えたんだよ。都合のいいシンボルに」
「……けど、間の人たちも、かえり様に傾倒している感じだったぞ」
「そう。じじいの誤算はそこだった。まさか、自分が取って代わられるとは思ってなかっただろうな。……今はもう、間も島も、かえり様中心で成り立ってるんだよ。――縁、オレが島に来た目的、覚えてる?」
突然問いかけられた縁は、戸惑いながらも「それは……」と口を開いた。
「妹さんの……――」
「オレの妹の名前は、間 朝灯」。
アサヒと口の中で繰り返し、縁は「えっ」と乾いた声を上げた。
「ちょっと、待ってくれ……。だって、お前の目的は――」
「そっ。オレは妹の死体を探しにこの島に来た。縁も会っただろ? 動いて喋るアレに」
アレとは、まさか、間家で唯一自分に好意的だった彼女のことだろうかと、縁はアサヒの顔を思い浮かべる。
そして、ある事に気がついた。
アサヒは先ほども自分を助けてくれた。だが、その時……灯夜は彼女に姿を見られないように……まるで、隠れるようにしてここまできた。
「どういう、ことだ。あのアサヒさんが……彼女がお前の妹なら、お前の目的は……」
「糸布狭島の伝承、鉤路さんが話してただろ? ……縁が覚えていない原因でもある」
「原因?」
「……オレの双子の妹である朝灯は、十四年前に死んでるんだ」




