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二十五話


 改めて名乗ったトーヤ……間 灯夜を前に、縁は困惑していた。


「久しぶりって……俺たちは、初対面のはずだけど……」

「あー、やっぱり忘れてる。まぁ、無理ないなーと思うけど」

「それに、間って……どいうことだ? お前は――」

「今名乗ったとおり、オレは間の家の人間。……縁とは従兄弟同士になるね。それも覚えてないかぁ。……全部あの時、洗い流されちゃったんだな」


 洗い流すという言葉に反応し、縁は思わず一歩下がる。


「……もしかしてお前は、かえり様とかいう人の信者なのか?」

「まっさか~。……でも、縁は本当に全部覚えてないんだ。……オレたち、会ったことあるよ。縁がお父さんとお母さんと、この島に来た時――ここで一緒に遊んだんだけど。オレたち、三人で」

「三人?」

「オレと妹と、縁と」


 そう呟いて、灯夜は目を伏せる。

 ぎゅっと目をつむり、次に顔を上げた瞬間、縁には灯夜の片方の目が青く見え――。


「約束、忘れちゃった?」

「え……」


 その一言に、ぐらりと視界が揺れた。


(約束?)


 頭の中で、反響している。

 だが、これは灯夜の声ではない。

 もっと高く、幼い……子どもの声ともうひとり。大人とも子どもとも、男とも女ともつかない、なにかの声が重なり二重になった声が、繰り返す。


 ――約束。

 ――ここから……。


 ぐわんぐわんと頭の中に響く声はどんどんハッキリとしたものになっていく。


『ここで、待ってる。ずっと。だから、約束。いつか、ここから連れ出してね』

 ――ここから出して。


 重なっていた声が別々の願いを発する。


 約束したのは、誰だった?

 いや、違う。

 誰と、誰?

 誰と、なにか?

 

『約束』

――約束。


声がぐるぐる回り続ける。

 

「縁……!?」


 焦ったような灯夜の声が聞こえたかと思うと、肩を揺さぶられる。


「いやいや、ここで気絶とかさすがにダメだから! ほら、しっかりして! 縁! 縁ちゃん!」


 ―― 帰っておいで ――

 ―― 呼ぶ、その時に ――


『待っているから。ここから出る日を』


(約束、した……)


 あれは――真っ赤な夏だった。

 約束した相手は……誰だった?

 

 パチン。

 なにかが弾けるような音がして。


 ―― 約束 ――

 

 最後に、ハッキリとしたなにかの声が聞こえて、それきり頭の中も静かになった。



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