一話
それは、夏の日差しがいよいよ強くなってきた頃だった。
有沢 縁が仕事から帰ると、郵便受けに一通の手紙が届いていた。
「?」
不思議に思って差出人の名前を確認すると、無意識に眉間にしわがよる。
(……間 仁一朗……)
住所は糸布狭島――Y県にある離島。父の生まれ故郷だ。そして、間 仁一朗というのは、祖父の名前だったはず。
(久しぶりに思い出したな)
間家という父の実家。あそこを縁が訪れたのは十四年前、七歳の時だ。
小学生の夏休みに初めて会い、そして今日に至るまでまったく関わる機会がなかった親族。そんな相手から、二十一歳になった今になって手紙が届いたのだ。まさか、遅ればせながら成人のお祝いなんてことはあるまい。
いまさら自分になんの用事があるというのかと、呆れた心持ちで手紙を読み進めると遺産相続に関しての相談と書かれていた。
(は? なんで俺? 関係ないだろ……)
非常に面倒そうなにおいがする。どうしてと思って、イライラと読み進めた縁だったが……。
「はぁ……!?」
あの家とは関わりたくないというのが本音だが、文字を追っていた縁の視線がピタリと止まった。
――篤志が見つかった。
その一文を目にした瞬間、縁の喉がひゅっと鳴った。
(……父さん……)
篤志というのは、縁の父親の名前だ。
冷静であろうとしても、手が震える。
手紙はまだ続いていた。
――ぜひ、一度直接会いたい。
顔もおぼろげな、あの島に住まう父方の親類。父の両親や兄弟姉妹たち。
親類というにも遠すぎる彼らには興味がない。
遺産なんてあちらが勝手にやっていればいい。関わることすら面倒くさいとすら、考えている。
けれど――。
父が見つかったという一文が、強烈に縁を惹きつける。
「……はは……」
乾いた笑い声は、一人暮らしの部屋に虚しく響く。
縁の父は、十四年前にあの島で死んだ。
正確には「行方不明」という形で処理された。
土砂崩れに飲み込まれ、当時は発見されなかったからだ。
そんな父が、まさか今になって五体満足で現れたなんて――そんな奇跡みたいなことはないだろうと、縁も分かっている。
だが、骨の一部でもなんでも――帰ってこなかった父が戻ってきたのなら……あの島に行くだけの価値が、ある気がした。




