プロローグ
超常、異変……それらを呼称する言葉は多々あれど、どれだけ定義しようとしてもそれらは多様に姿を変える。意味を変える。
誰もが思うだろう。
それを手に入れられたのなら、我が物にできたのなら、と。
そして縛って沈めて変わらざるものにした時に、人は驕ってしまうのだろう。
我はそれを越えられるのだと。
どれだけ歪みをもたらそうが、どれだけ犠牲を払おうが、一度手にした宝を手放さないのが人間だ。
どれほどの業が付きまとおうとも、一度生じた執着は決して消えない。
――それも、それのために捧げられた代償も、決して消えない。
全ては深く静かに降り積もり、澄んだ色を濁らせていく……命の色に。
「濁りはやがて、ほころびを生む。生じた事象が、これだ」
照明が落とされた室内に、厳かな声が響いた。
決して少なくはない人数が集められた会議室。プロジェクターにより映し出されていた、土砂災害の写真を見つめていた面々がハッと息を呑む。
「無理に留めた大きな力は、やがて大きな反発をもたらす。これは十四年前に起きた土砂災害だが……あそこでは、それ以前もそれ以降も大きな災害は起きていない。かわりに、奇跡が生まれた。――分かるな? またひとつ、ほころびが生じたのだ」
「……ですが、あの島の調査は難航していたはずでは?」
強ばった女の声がした。
「そうだ。おいそれとは立ち入れない、境界線を引かれた島だ。……だが、今はそこに入り込める機会がある」
「今は例の奇跡にカルト的人気が出ており、興味がある旅行者を装えば――」
厳かな声に続いて発されたのは、年若い青年の声だった。
誰もが口をつぐむ。
反論はない。
広がる沈黙を破ったのは、やはり場を支配している様子の厳かな声の主だった。
「大きな力を同じ場所に留めるには、相応のものが必要だ。だが、それらはすべて自然に発生し、流れていくもの。流れを滞らせることは、あってはいけない。それは、国を滅ぼす行為にほかならない。我々は、この国を、そしてなにも知らない国民を守らなくてはならない。……エス対はそのために作られた組織なのだから」
その言葉に、室内にいる者たちはみな静かに頷いた。




