十五話
今もそう。
縁の耳に聞こえるのは、自分たちが砂利を踏みしめる音くらいだ。
「こういう、自然の多いところって……もっとこう、虫の声とか聞こえるもんだと思ってたんですよ。だから、まぁ……俺の思い込みだったってだけかもしれないけど」
「んー……言われてみれば、そんな気がしなくもないような……」
「無理して同意しなくていいです」
「いや、無理矢理話を合わせるわけじゃないんっすよ。……実は、思い当たる節があって……」
誰に聞かれるわけでもないのに、ベイ・サイダーはそこで声を潜めた。
「……――糸布狭島は、死んだ人間が住む場所だ」
「え」
「そういう噂があるんっすよ、この島には」
重大な話を打ち明けるかのように小声で話すベイ・サイダー。縁が驚いて小さな声をあげると、気を良くしたのか話を続けた。
「鉤路さんも言ってたけど、この島は独自の神様を信仰してるんっすよ。……で、それはどんな神様なのかっていうと、島を守ってくれる神様って答えが返ってくる。……だけど、もっと突っ込んで聞くと、裏じゃ穢れを洗い流すことで死の先を生きられるなんて意味不明な言い伝えがあるらしいっすよ?」
「死の先も、生きる?」
「あっ、そこ引っかかる? ですよね~、死んだ後も生きるとかよく分かんないし。それってゾンビ的なやつ? ってなるよねー。気色悪ぃ~」
ケタケタとおかしそうに笑うベイ・サイダー。だが、縁は引っかかりを覚えてしまい、一緒に笑えなかった。
(穢れを、洗い流す……って……)
――邪なものは、洗い流せ――
たしか、船の中で聞いた言葉だ。
それだけではない。
触れると痛む後頭部。こんな真似をしてくれた数馬もまた、「穢れを洗い流す」というようなことを口にしていた気がする。
「あっ……」
「ん? なに、なに?」
「……かえり様……」
似通った言葉を口にした者たちの共通点、それは「かえり様」なる存在ではないかと縁が思いついたところで、ベイ・サイダーに慌てた様子で肩を揺すられた。
「ちょ、ちょ、待って。ひとり脳内で結論出さないでほしいっす! オレにも教えて、おにーさぁぁん!」
「わ、わかったから、ちょっと、落ち着いて……!」
そう言ってベイ・サイダーを押し留めるものの、ベイ・サイダーの知りたい教えろ攻撃は止まらない。
そ んなやり取りが止まったのは、自分たち以外の足音――じゃりっと小石を踏みしめる音がしたからだった。
「ちょっと、緊張感がなさ過ぎなんじゃないかしら?」
縁が声のした方向を見ると、首からカメラをさげ呆れた表情を浮かべた女――苗木が腰に手を当てて立っていた。




