其の伍
翌日、朝早くから男たちの調査と称する作業が始められた。
村の古井戸の中を覗き、古い家の回りにある石の下を掘り返している。何の下調べもない、地盤の調査とは明らかに無縁の乱暴な作業だ。最初に祠を爆破して、もし何も出なくても、それ以外の場所を調べることができなくなる。ウマの読みは当たっていたようだ。
「今日なにも見付からなければ、明日の朝に爆破するつもりかな。止めさせるなら今晩のうちだね」
トオルが思案顔でウマに言った。おりんもその場に加わっている。
「あの連中を一か所に集めるだけの目を引くものってないかな」
男たちは見張りを立てているようで、村の中に分散させて、用心深い位置取りをしていた。
ダイナマイトを持ち出されてからではやっかいなことになることは目に見えていた。陽が頭の上まで来ていた。
「今回は衣装も何にないしなあ」
「そうだな、お前の踊りなら気を引けたろうけどな」
トオルたちはこれまでにもいくつかの事件を解決してきていた。その時に父の先代・雪之丞の形見の衣装に着替え、同じく形見の鉄の扇を手にするのだが、今回はそれを持って来ていなかった。
トオルとウマの会話を黙って聞いていたおりんが、少しためらっているような風情でぽつりと言った。
「あのう、村の踊りではどうでしょうか」
「村の……?」
「おばあちゃんに踊ってもらうのか?」
「いいえ、ボンさん、踊ってください」
「ぼ、僕がかい?」
「そうです、ボンさんなら村の踊りも踊れます」
「そんな無茶な」
ウマが、なるほどといった顔になってから、にやりと含み笑いをして、
「いけるかもしれないぞ。村の踊りはたぶん白拍子の流れを汲んでいると思うんだ。元をたどれば旅芝居と一緒のようなものだ」
「ボンさん、おばあちゃんに聞いてみましょう。いいえ、頼んでみましょう」
おりんはトオルの手を引っ張るようにして奥の座敷に連れて行った。
可愛い孫のたわむれとでも思ったのか、祖母は、笑いながら、トオルに踊りの作法と所作を教え始めた。
「さすが舞台に立っているだけのことはあります。素晴らしいですね」
すぐに覚えるトオルに感心している。
しばらくにこやかにトオルの所作を見ていた祖母の顔色がいつしか変わっている。
「ちょっと悦男さんを呼んで来なさい」
祖母のおりんに対する話しぶりが、真剣なものに変わっていた。
「今日の夜ごはんのことですか?」
間の抜けた台詞を言いながら座敷に来た悦男に、祖母が老人とは思えない強い語気で言った。
「鼓です」
悦男の役目は踊りでいう所の地方、つまりお囃子なのだという。伴奏には鼓、時には笛などを使うが、悦男は鼓と謡いの担当だと言う。
訳のわからないまま祖母の強い口調に押されるようにして、鼓を持って戻って来た。かしこまって座ると肩に鼓を乗せた。
「一度ご覧になってください」
悦男が鼓を打ち、謡い、そして祖母が舞った。
『何所へと 流れてゆくや迷い葉の 白き遠根の川下り 白き御旗を掲ぐる日 かたく信じて宵の松……』
祖母の腰がしっかりと伸びた。
能とも違う、川面を渡る風が見えるような踊りだ。平安の気品を含んだ、芝居の踊りとは居場所が違うものだ。
トオルは思わず座り直していた。
「なぜ踊りを踊るのですか?」
悦男がトオルに聞いた。代わりにウマが、いま村で起ころうとしていることを説明をした。
「そうですか。わかりました。でもあの男たちを一か所に集めて、一体どうしようというのですか?」
「その先は任せてください」
ウマがおりんに同意を求めるような視線を送った。
おりんが何も言わず大きくうなずくのを見て、悦男は納得しないまでも腹を決め、協力することを約束した。
「今晩白旗様で踊りがあります。みんな集まってください」
おりんが村中に触れて歩いた。地質調査だという男たちや、村人にも声を掛けている。




